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たとえ世界が忘れても ~呪われ令嬢は逆行して、婚約者を救いたい~  作者: 千秋 颯@9/9「泣き虫で欲しがりな妹に私の婚約者が〜」配信中!


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第8話 お茶会当日

 エルディー侯爵邸の庭園で開かれた茶会当日。

 友人と紅茶や茶菓子を楽しんでいたオレリアへロドルフが近づく。


「オレリア」

「お父様、どうかされたのですか?」

「少し、こっちに」


 日頃公務で忙しいロドルフは昼間の催しには殆ど顔を出さない。

 今回の茶会も主催は妻のセリーヌであり、ロドルフは少し顔を出した後にまた仕事へ戻る予定であった。

 そんな彼が慌てた様子でオレリアを呼び出し、小声で囁いた。


「エヴラール様がいらしているぞ」

「……っ!」

(エヴラールが……!?)


 エヴラールとの再会と関係性の構築の為、確かにオレリアはエヴラールへ今日の茶会の招待状を送った。

 しかし彼の性格を理解していたオレリアはエヴラールがこの招待に応じてくれない可能性についても危惧していた。

 だからこそロドルフからこの話を聞かされた時、彼女は喜びを覚えた。


「日頃滅多に異性の誘いには乗らないと聞いているのに、一体何故……」


 一方のロドルフは現状に対して信じ切れていないといった様子で一人呟き始める。

 その後方から一人が近づきつつあることに先んじて気付いたオレリアは、父の言葉など最早気にも留めずに慌てて身嗜みを確認し始める。

 それに怪訝そうな視線を向けたロドルフだったが、娘のその行いの理由はすぐに明らかとなるのだった。


「失礼、ご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか」


 驚いて振り返ったロドルフの視線の先で美しい金髪が揺れる。

 エヴラールは微笑と共にロドルフへ軽く頭を下げた。


「ご無沙汰しております、エルディー侯爵」

「え、エヴラール様……!」


 ロドルフは噂の種が背後に立っていた事に驚き、しどろもどろになってしまう。

 彼は動揺をしたままに、何とか頭を下げて言葉を返した。


「こ、こちらこそ。お久しぶりです。本日はわざわざ御足労いただいたようで……」

「はい、招待状を頂戴しまして。数日前、夜会で一曲踊らせていただいた事もあり、是非もう一度お話しする機会をと思い」

「お、踊った……はぁ、そうでしたか」


 オレリアとエヴラールが出会った夜会中、ロドルフはオレリアとは別の方角で貴族との挨拶に勤しんでいた。

 エヴラールが異性と踊っているという話は後から耳に挟んだかもしれないが、それを直接目の当たりにする機会もなければ、ダンスの相手が自分の娘であった事も聞いていなかったのだろう。

 またオレリアも、この件についてわざわざ報告するような事はしていなかった。


 そのような理由から数日前の夜会の話をエヴラールの口から初めて聞かされたロドルフは何故話さなかったのだと言いたげな視線をオレリアに向ける。


(言える訳ないわ。自分からダンスに誘った挙句、人前で泣きだしただなんて……)


 そんな父に心の中でだけ抗議してから、オレリアはエヴラールへと深く頭を下げる。


「まさか来ていただけるとは思っていませんでした。この度は招待に応じていただき、ありがとうございます、エヴラール様」


 国で有数の大貴族に対して娘が突然砕けた口調で話し出せば、ロドルフは間違いなく失神する。

 そう考えたオレリアは一先ず父の前だけでは初対面の時のような硬い口調を貫いた。

 エヴラールはそんなオレリアの様子に対し意外そうに目を瞬かせたが、すぐに何事もなかったかのように頷きを返す。


「こちらこそ、素敵なお茶会に招いていただけて光栄です。オレリア様」

「お口に合うお茶はございましたか? 母が、いくつか珍しい茶葉を用意したと言っていましたが」

「ああ、実は初めにいただいたものだけで、まだ」


 エルディー侯爵邸で開かれる茶会は広い交流会と庭園の鑑賞会を兼ねた催しだ。

 一番の目的は貴族間の交流を目的としたものである為、席の指定もなく、気楽な離席が許されている。

 茶会という体裁から、やって来た初めは庭園内に用意されたテーブルの内空いた席に通され、ダージリンティーを淹れられる。

 エヴラールはそれで喉を潤した後すぐに、招待状の送り主であるオレリアを探しに来たようであった。


「では折角ですから、いくつかご用意させてください。おすすめがあるんです」

「オレリア様の? では折角ですし、お言葉に甘えさせていただいても」


 オレリアの誘いに対し、エヴラールが困ったような態度を見せることはない。

 オレリアは自分にとって都合の良い展開へちとんとん拍子で進んでいく現状を内心で喜びつつ、表向きは数日前の失態を取り戻す為の淑女らしい上品な振る舞いを心掛けていた。

 そしてエヴラールを空いているテーブルまで案内しようとしたところで、オレリアはふと、未だその場に立ち尽くしている父ロドルフを見やる。

 積極的に異性を誘うオレリアも、それに快く乗じるエヴラールの姿も、彼にとっては意外なものだったのだろう。


「お父様。そろそろ公務にお戻りになられるお時間では?」


 そんな彼へ、オレリアは笑顔を向ける。

 彼女は朗らかで棘のないようにと努めたつもりであったが、残念ながらその顔に並々ならぬ圧をロドルフは感じていた。


「あ、ああ。確かにそうだな。それでは、エヴラール様。私はここで」


 『早く二人きりにさせて』という娘の心の声を汲んだロドルフは何度か細かく頷くと、一礼を残してそそくさと離れていく。

 それを見送ってから、オレリアはエヴラールへ向き直ると空いている近くのテーブルを示したのだった。


「じゃあとりあえず、あちらに移動しましょうか。……エヴラール」


 そう話す彼女の口ぶりは、友人と話す時のような気楽なものに戻っているのだった。

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