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外伝《作者、主格天使を見て青ざめる》

 作者である。


 いや、正確には“開発時代の俺”である。


 仕事机にコーヒーを置き、テスト用の戦闘ログを眺めながら、

 俺はひとつの重大な事実に気づいてしまった。


「……あれ?」


 主格天使、強くない?


 いや、強いどころではない。

 普通におかしい。


 レベルを見直す。


 主格天使――レベル55前後。

 うん。

 まあ妥当。

 最終盤寄りの守護存在だし、それくらいはある。


 次、主人公。


 ちゃたろ〜――現時点で35くらい。

 雑魚天使戦を経てレベル上がっても、せいぜい40弱。


「……いや無理だろこれ」


 素直な感想が口から出た。


 数字の時点で無理である。

 レベル差がひどい。

 しかも相手は主格天使。

 基礎スペックが高い。

 耐性も高い。

 神聖系に強い。

 空間制圧もできる。

 そこへ主人公側の有効打を見てみると――


「ホーリーボール」


 以上。


 いや、以上じゃないんだけど、火力枠として目立つのが実質これくらいなのだ。


 ホーリーボール。

 便利。

 偉い。

 聖属性。

 雑魚相手にはそこそこ効く。


 だが。


「……天使にホーリーボール、あんまり効かないだろ」


 当たり前である。

 天使だぞ?

 なんで天使に聖属性ぶつけて大ダメージ出るんだ。

 そんなの神界のレビュー会議で怒られる。


 つまり。


 主人公、普通に火力不足。


 しかも相手は格上。


「困ったな……」


 俺は椅子にもたれ、天井を見上げた。

 困った。

 これは困る。

 主人公が勝てない。


 いや、負けても物語としては成立するかもしれない。

 でも今ここで負けると、サナを助けられない。

 それは困る。

 かなり困る。



---


◆とりあえず、天使特化スキルを作る


「……そうだ」


 俺は起き上がった。


「天使特化のスキルを作ればいいんだ」


 雑な解決策に見える?

 その通りである。

 だが追い込まれた開発者は、だいたいこういう発想になる。


 必要な条件を整理する。


 まず、盾役らしくなければならない。

 ちゃたろ〜はメイス盾だ。

 突然“神殺しの極大火力ビーム”とか生えてきたらダメだ。

 世界観もジョブ観も壊れる。


 次に、天使特効が要る。

 そうでないと勝てない。

 これは必須。


 さらに、高ヘイト。

 盾なら敵視を取れ。

 むしろ取れないとおかしい。

 タンクの美学だ。


 加えて、神聖低下。

 天使の強みは神聖出力だから、そこへ刺さらないと意味がない。


 つまり――


「高ヘイト、神聖低下、天使特効付きの攻撃スキル……」


 書き出してみる。


 ・盾役用

 ・近接起点

 ・高ヘイト

 ・対神聖干渉

 ・天使特効

 ・ボスにも通る

 ・でも主人公らしく火力で勝つんじゃなく、削って勝つ感じ


「……よし」


 俺は満足した。


「これだな」


 名前を考える。


 大事である。

 スキルは名前が八割だ。


 神聖を終わらせる。

 信仰を断つ。

 顔を終わらせる?

 いや違うな。

 でもなんか語感がいいな。


「エンドオブフェイス」


 決まった。


「……うん、意味はちょっとよく分からんけど、強そう」


 開発現場ではよくあることである。



---


◆でもまだ足りない


 できた。

 できたのだが。


 ログに仮実装して、主格天使へ当てた時点で、俺はまた止まった。


「……あれ、これでもまだきついな」


 そう。

 きついのである。


 たしかに《エンドオブフェイス》は刺さる。

 高ヘイトも取れる。

 神聖も削れる。

 天使相手にはかなり効く。


 だが相手は主格天使レベル55。

 しかも主人公は40弱にも届かない。

 数値の暴力がひどい。


「一発当てたくらいじゃ普通に殺されるな……」


 ログを見ながら、俺は眉間を押さえた。


 主格天使の反撃。

 速い。

 重い。

 かたい。

 何これ。

 設計したの俺だけど嫌になる。


 ちゃたろ〜の防御と回復で持久戦に持ち込めるか?


 持ち込める。

 たぶん。

 でも、それだけでは削り切れない。


 必要だ。


「……そうだ。不意打ちで一発入れよう」


 自然なようで自然じゃない解決策が出た。


 でも、仕方ない。

 正面から「では始めましょう」でやったら、主格天使側が有利すぎる。

 あちらには格がある。

 神性がある。

 裁定権がある。

 こっちには何がある?

 根性と盾と雑な回復だぞ。


「主人公だけど、ちょっと卑怯かもだけど……」


 俺はログを見た。


「仕方ないな」


 大事なことなので二回言う。

 仕方ないのだ。


 奇麗事で勝てない相手に、

 奇麗な戦い方を強いるのは、作者の怠慢である。


 なので、

 まず一発、エンドオブフェイスを不意打ち気味に撃ち込む。


 そこで神聖を削る。

 ヘイトも取る。

 少しでも土俵を近づける。


「よし、これで多少は……」



---


◆まだ三発必要だった


 試算する。


 一発目。

 先制で入れる。

 主格天使、かなり嫌がる。

 でもまだ立つ。


 二発目。

 中盤で叩き込む。

 動きが鈍る。

 でもまだ来る。


 三発目。

 中枢へ刺す。

 やっと落ちる。


「……三発いるな」


 多い。


 いや、少ないとも言える。

 主格天使相手に三発で済むならまだ良心的だ。


 でもちゃたろ〜視点だと、かなりしんどい。


 一発目を通すまでに死にかける。

 二発目までにもっと死にかける。

 三発目を打つ頃には、ほぼ壊れている。


「うん、まあ……」

 俺は頷いた。

「ちゃたろ〜なら何とかするだろ」


 開発者の信頼とは、ときに雑である。


 だが、これは雑な丸投げではない。

 ちゃんと理屈はある。


 ちゃたろ〜は火力で勝つ主人公じゃない。

 耐えて、受けて、ヘイトを取り、少しずつ相手を削るタイプだ。

 ならば、勝ち筋もそうあるべきだ。


 派手な逆転必殺ではない。

 積み上げた持久戦の末、

 最後に《エンドオブフェイス》三発で崩す。


「よしよし、これでいいだろう」


 だいぶ無理はある。

 でも筋は通った。

 少なくとも“ちゃたろ〜らしい勝ち方”ではある。



---


◆主格天使にちょっと悪い気がしてきた


 ログの向こうで、主格天使が削られていく。


 一発目。

 「うわ嫌だなこれ」みたいな反応をする。

 二発目。

 「あっこれ本格的にだめかも」と気づく。

 三発目。

 終わる。


 見ていて思った。


「……ちょっとかわいそうだな」


 いや、敵なんだけど。

 敵だし、神の秩序側だし、ちゃたろ〜の前に立ちはだかる存在なんだけど。


 でも、ちょっとかわいそうである。


 だって主格天使からすれば、

 そこそこ偉い立場で、

 ちゃんと正義と契約を背負って出てきたのに、

 急に“天使特効・高ヘイト・神聖低下・しかも三発必要”みたいなスキルで削られるのだ。


 理不尽では?


「……まあ、でも」


 俺はコーヒーを飲んだ。


「主人公側からすると、お前の方がもっと理不尽だからな」


 お互いさまである。



---


◆結論


 こうして《エンドオブフェイス》は生まれた。


 ちゃたろ〜が主格天使に勝つためだけに、

 わりと露骨に、

 でもギリギリ“盾役らしさ”を守ったまま、

 ねじ込まれた隠しスキルである。


 高ヘイト。

 神聖低下。

 天使特効。


 しかも一発では足りないので、

 ちょっと卑怯気味に先制で一発入れて、

 そのあとヒーラータンクらしく持久戦で粘って、

 最後に三発目を決める。


「うん、これならなんとかなるだろ」


 作者はそう言って頷いた。


 なお、その“なんとか”の内訳は、


 ・主人公、ほぼ半壊

 ・主格天使、そこそこかわいそう

 ・戦闘ログ、だいぶ地獄

 ・読者、「よく勝てたなこれ」


 である。


 でも、いいのだ。


 ちゃたろ〜は、そういう勝ち方をする主人公だから。


 火力で押し切るのではなく、

 理不尽を受け切って、

 最後に“お前だけは見逃さない”みたいな顔で、

 じわじわ詰めて勝つ。


 そういう、ちょっと嫌で、かなり頼もしい盾なのである。


 ……いやしかし、今見返しても主格天使レベル55は盛りすぎたな。


 次はもう少し、敵の数値を考えよう。

 たぶん。

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