外伝《オラはモブ兵!》
オラはモブ兵だ。
名前? ねえよ!
書類にも残らねえし、誰も呼ばねえ!
飯係の婆さんからは、ずっと「そこの坊主」で通ってる!
立派な二つ名もねえ。
武勇伝もねえ。
死んだあと語られる予定もねえ。
それでも、オラはこの砦を守る一兵卒だった。
死ぬその日までは――いや、死んだあとも、たぶんそうだった。
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◆死んだ日のこと
メイス盾の子どもが補充に来た日の翌朝、オラは死んだ。
いや、マジで一瞬だったんだ。
暗がりからハイラットが飛び出してきてな、
首んとこに「ガブッ!」だ。
「ぎゃっ……!」
って言いたかったんだけど、出た声は――
「ぴぎゃ」
……オラ、最期の叫びがそれだぞ。
勇ましい断末魔? 出るかそんなもん!
その瞬間、背中が地面から離れて、世界が反転した。
気づけば、オラは天井近くをぷかぷか浮いていた。
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◆幽霊になってから
足がねえ。
手も透けてる。
どう見ても幽霊だ。
「なんでオラだけ残ってんだ……?
あ、そっか。モブだからか!」
他の兵士の魂は、まるで風みてぇにスーッと消えてった。
綺麗な消え方だった。哀しいほどに。
なのにオラだけ、誰にも気づかれねぇ。
透明感MAX、存在感ゼロ。
……これがモブの宿命かよ。
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◆唯一、オラを感じてくれた人
でもな、ひとりだけ反応した奴がいた。
あの小っこい霊媒士の嬢ちゃん――フィーネだ。
「……いま、“誰か”が呼んでる気がする」
そうだ! 呼んでるのオラだ! ここだ!
オラ、必死で振ったんだよ。
手も足もないけど、魂で全力で振ったんだよ。
けど嬢ちゃんは、ずっと眉を寄せてこう言う。
「うう……なんか……しょっぱい声が……」
「しょっぱいってなんだよぉぉぉ!!!」
霊感あるならもう少し丁寧に扱ってくれ!
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◆頑張った結果がこれだよ
悔しくて、なんとか存在を示そうとしたオラは、
転がってる死体をぐいっと動かしてアピールしたんだ!
「見えるか!? 動いただろ!? オラだぞ!!」
その瞬間――
「ホーリーボール!」
メイス盾の坊主、ちゃたろ〜の光球が炸裂した。
「ぎゃあああああああ!!!!」
オラ即浄化。
弔うでもなく、悼むでもなく。
ただ淡々と、仕様通りに消された。
「坊主ぅ……! オラ……本当は……名前……欲しかったぁ……!」
最期の叫びも、光に飲まれて消えた。
ちゃたろ〜は全然気づかねえ。
盾の角度とかひとりで呟いてる。
その横でフィーネがぼそっと言った。
「……しょっぱい声がした気がします」
「だからしょっぱいって何!!?」
魂、完全に消える寸前までツッコミいれてやったよ。
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◆そして――誰も知らないまま
オラが消えても、砦はいつも通りだった。
叫びも血の匂いも、何も変わらねえ。
だがな。
オラは間違いなく、あの日この砦に“いた”。
名前も、墓も、記録もねぇ。
けど、オラみたいなモブが何百人もいて、砦はどうにか保たれてたんだ。
誰も覚えちゃいねぇ。
誰も語っちゃくれねぇ。
それでも確かに――
オラは戦ってた。
それだけは、嘘じゃねぇんだ。




