【外伝】ララ、叫んで進む
「パイセーン! いくよぉッ!!」
叫んだ。全力で。
――怖かったから。
震えてた。
手も、脚も、たぶん声も。
でも、叫んでる間だけは自分をごまかせる。
だから叫ぶ。
バカっぽくても、恥ずかしくても、関係ない。
……いや、ほんとはちょっと恥ずかしい。
でも、恥ずかしさより怖いのが来たら、そんなの一瞬で吹っ飛ぶ。
だったら先に、こっちから吹っ飛ばしてやる。
叫んで、無理やりでも前を向く。
それが今の私の戦い方だ。
地獄門の向こう。
火の匂いと、重たい空気と、音のない音。
「来る……」
ちゃたろ〜がそう呟いたとき、私の中で何かが動いた。
怖くて仕方なかったのに、
あの人が立ってるだけで――なんで、こんなに安心するんだろう。
前を見ると、心が持っていかれる。
だから私は、パイセンの背中だけ見た。
背中が立ってる限り、私の肺も立てる気がした。
《エンドオブフェイス》
閃光がケルベロスの顔面をぶち抜く。
うお、まじすげぇ――って思った。
でも、口には出さなかった。
出したら、たぶん今の私、調子に乗る。
調子に乗った瞬間、足が絡まって死ぬ。
……そういうの、分かる。悔しいけど分かる。
私は《マジカルブースト》。
火力を高めて、雷と炎を全部ぶちかます準備。
「タイムアシスト、発動しました」
オリーブの声が聞こえる。
眼鏡、曇ってない。よし。あの子も大丈夫。
……大丈夫って思えるだけで、また一段、息が入った。
よし。
みんな、やる気だ。
やるしかない。
ケルベロスが咆哮した。
「ひっ……」
足がすくんだ、その瞬間。
ちゃたろ〜の光が走った。
《セイクリッドキュア》
全身が、すぅっと軽くなった。
心臓を握られてたのが、ほどけた感じ。
あれがなかったら、たぶん泣いてた。
泣いて、詠唱どころじゃなくなって、全部終わってた。
「ありがと、パイセン……」
声、ちょっと掠れてた。
でも、聞こえなくていい。
あの人は、背中で分かるから。
――でも、次の瞬間にはブレスが来た。
やばい。
無理。
火耐性、まだ貼ってない。
……って思った。
正直に言うと、
火力職なのに火に焼かれて死ぬの? って、ちょっと思った。
ダサすぎるでしょ。笑えない。
それでも、オリーブが《ヒール》を差し込んでくれて、ギリギリで動けた。
「ありがとぉッ!!」
思わず叫んだ。
泣きそうだったけど、笑った。
もういい。
笑っとけ。
どうせバレてるんだ、私のビビりなんて。
……でも。
火が効かないって分かってたのに、最初に火で行ったのも私だ。
あれ、私の意地だった。
火力職の意地。
師匠の名前を盾にした意地。
悔しいけど、あれは“役に立つ形”じゃなかった。
だから次は――意地を、形にする。
ちゃんと通るところに撃つ。
通る瞬間に撃つ。
勝つために、叫ぶ。
ルンナは水の鎧まとってて、ガチでかっこよかった。
黙ってんのに、全部伝わってくるタイプ。ずるい。
ちゃたろ〜は三連撃食らっても倒れないし。
《ハイヒール》で立ち上がるし。
なにあれ、ヒーローすぎでしょ。
マジで、盾ってああいうこと言うんだな。
――ほんと、すごい。
「チャージ、入った……!」
オリーブの声が緊迫してて、私も一気に集中した。
ちゃたろ〜が《エイシェントグレイス》を私にかけてくる。
え、私でいいの!? って思った。
でも同時に、信じてくれたんだって思った。
そしたら背中が熱くなった。
私、やるよ。
見てて、パイセン。
超必殺の爆風。
視界が真っ白になって、足が浮く感覚がして、
……あ、これ死ぬかも、って思った。
でも――誰も倒れてなかった。
「すげぇ……! ほんとに耐えた……!」
叫びが勝手に出た。
怖いのに、嬉しい。
怖いのに、笑える。
ああ、私、今ちゃんと戦ってるんだって思った。
ちゃたろ〜が全体ヒールで体力戻してくれて、
私、そこからがマジ本気だった。
《アイスショット》連打!
氷ぶつけて、雷落として、炎も混ぜて、全部ぶちかまして!
「こっちの番だぁぁ!!」
叫びまくった。
何回叫んだか分かんない。
でも、それくらいやらないと私の魔法は届かない。
あの化け物には、叫びも力のうちだ。
……いや、ほんとは叫ばないと怖くて手が震えるだけなんだけど!
だったら叫ぶ!
震えも一緒に撃ち込む!
ルンナも剣でガンガン斬ってて、
ちゃたろ〜がまた《セイクリッドキュア》。
敵の耐性下げるやつに合わせて、ちゃたろ〜の「どーん」。
「ズルッ! なんでそれだけでスタンするの!?」
とか叫んだけど――かっこよかった。
悔しいけど、かっこよかった。
悔しいのに、助かるの、ずるい。
そして、最後の詠唱。
《ラスト・エターナル》
雷と水を重ねて、あのバカでかい魔法陣を組んで、
ちゃたろ〜がヘイト取ってくれたから、集中できて――
ここだけは、叫びが変わった。
声が低くなった。
震えが止まったわけじゃない。
震えごと、狙いに変えた。
撃ち込む。
「いっっっけえぇぇぇえええええっ!!」
光が全部を包んで、
ケルベロスの首が、落ちた。
しーんってなった。
誰も、言葉を出せなかった。
「……倒した?」
自分の声なのに、自分のじゃないみたいだった。
オリーブが眼鏡を押し上げてて、
ルンナは剣をしまってた。
ちゃたろ〜が、盾を地面に突いた音がして――
ああ、終わったんだって思った。
だから私は、背中を叩いた。
「ねえ、パイセン――カッコつけすぎ。
でも……マジで、ありがとう」
振り返らなかったけど、小さく頷いてくれたの、見えた。
……背中が、ちょっとだけ軽くなった気がした。
たぶん、私の方が軽くなったんだと思う。
勝ったってことが、やっと身体に入ってきた。
――勝ったんだ。
地獄の番犬に。
私たちの手で。
それが、すっごく誇らしかった。
もう一回くらい、叫びたくなった。
ぶっちぎりで勝利ぃぃぃッ!!
……それは、心の中だけにしておいた。
言ったらたぶん、泣く。
泣いたらたぶん、みんなも釣られて泣く。
そしたらパイセン、困る顔する。
だから今日は、笑って帰る。
叫びは、次の戦いのために取っておく。
だって――
私、もう一回、勝ちたいから。




