【 第四話 / 後編】「完成」
地下のアトリエは静かだった。
工具。
木材。
絵の具。
作りかけの人形。
結愛はゆっくり周りを見渡す。
結愛「ここで全部作ってるんですね。」
カイト「ええ。」
木の匂いが濃くなる。
結愛は小さく息を吸った。
やはり、少しだけ懐かしい。
けれど、それが何なのかまでは分からなかった。
⸻
奥に、もう一枚の扉があった。
鍵が掛かっている。
カイトは静かに鍵を回す。
カチャ。
扉が開いた。
結愛は部屋へ入る。
そして、足が止まった。
壁一面。
写真。
三歳。
小学生。
中学生。
高校生。
警察学校。
捜査一課。
全部、自分だった。
⸻
部屋の奥には等身大の人形が並んでいる。
制服姿。
私服姿。
スーツ姿。
眠っている顔。
笑っている顔。
全部、自分だった。
結愛「……何。」
声が震えた。
結愛「これ……何なの……。」
カイトは静かに写真を見る。
カイト「三歳でした。」
結愛は振り返る。
カイト「芸術展で初めてあなたを見たのは。」
カイト「あなたは、ピンクのワンピースを着ていました。」
結愛の顔から血の気が引いていく。
カイト「あの日から。」
カイト「ずっと待っていました。」
結愛「やめて……。」
逃げなきゃ。
そう思った。
結愛は扉へ走る。
勢いよく開けた。
そこに、一人の男が立っていた。
結愛「……先生?」
叶衛だった。
いつもの優しい顔。
何も変わらない。
だからこそ、怖かった。
結愛「どうして……。」
叶衛は少しだけ目を伏せる。
叶衛「ごめん。」
それだけだった。
結愛は助けを求めるように叶衛を見る。
結愛「先生……。」
叶衛は静かに首を横に振った。
⸻
結愛の中で、今までの日々が崩れていく。
家庭教師だった頃。
教師として再会した日。
煙草を注意してくれた夜。
家まで送ってくれた帰り道。
全部、嘘ではなかった。
だからこそ、信じられなかった。
⸻
カイトがゆっくり近付く。
カイト「ありがとう。」
カイト「叶衛。」
結愛は後ずさる。
結愛「来ないで……。」
カイトは怒っていない。
笑ってもいない。
ただ、穏やかだった。
カイト「十八年。」
カイト「長い時間でした。」
結愛は首を横に振る。
結愛「こんなの、おかしい……。」
カイト「おかしくありません。」
カイトは静かに言う。
カイト「ようやく、帰ってきただけです。」
結愛の呼吸が浅くなる。
結愛「帰るって……何……。」
カイトは結愛の右手をそっと包んだ。
震える手。
十八年間、一度も触れたことのない手。
カイト「ようやく。」
少しだけ微笑む。
カイト「あなたに触れられました。」
静かな沈黙。
カイトは結愛を見つめる。
そして、穏やかな声で言った。
カイト「完成しました。」
扉が閉まる。
鍵の音だけが、地下室に響いた。
エピローグへ続く▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎




