【 エピローグ 】「始まり」
木の香りが漂う展示会。
芸術家たちが作品について語り合っている。
私は十八歳だった。
まだ、人形師として歩き始めたばかりの頃。
一体の人形を整えていると、一人の男性がこちらへ歩いてきた。
小さな女の子の手を引いている。
父親「初めまして。」
父親「娘を連れて、ご挨拶に来ました。」
私は軽く頭を下げた。
カイト「初めまして。」
父親は娘の肩を優しく押す。
父親「結愛、ご挨拶。」
女の子は一歩前へ出た。
ピンクのワンピース。
少し緊張した表情。
ぺこりと頭を下げる。
結愛「こんにちわ。」
私は自然と笑みがこぼれた。
カイト「こんにちは。」
結愛は私ではなく、人形をじっと見つめている。
しばらく見つめたあと、私を見上げた。
結愛「おじさんが作ったの?」
父親は慌てて苦笑する。
父親「こら、結愛。」
父親「まだ若いんだから、お兄さんだろ。」
私は思わず笑ってしまう。
カイト「危なかった。」
カイト「もう少しで、おじさんになるところでした。」
父親も吹き出した。
父親「すみません。」
カイト「いえ。」
カイト「結構、刺さりましたけど。」
三人で小さく笑う。
結愛は何が面白いのか分からず、不思議そうに首をかしげていた。
私はしゃがみ込み、結愛と目線を合わせる。
カイト「改めまして。」
カイト「お兄さんが作ったんだ。」
結愛は「ふーん」と小さくうなずく。
もう一度、人形を見る。
服のレース。
髪飾り。
光を受けて輝くガラスの瞳。
目を輝かせた。
結愛「きらきら。」
父親はその様子を見て微笑む。
父親「小さい子って、綺麗なものや可愛いものを見ると、すぐ目がいくんですよ。」
結愛は人形へ少しだけ手を伸ばす。
結愛「さわってもいい?」
カイト「もちろん。」
カイト「優しくですよ。」
結愛は両手でそっと人形へ触れる。
結愛「つめたい!」
その声に、大人たちは笑った。
結愛もつられて笑う。
私は静かに、その様子を見つめていた。
不思議だった。
作品を褒められることは何度もあった。
賞をもらったこともある。
けれど。
人形を見つめて、
あんなふうに目を輝かせた子は初めてだった。
その光景だけが、
なぜか心に残った。
⸻
(現在)
地下のアトリエ。
静かな音楽が流れている。
私は椅子に座る結愛を見る。
十八年。
長い時間だった。
私はゆっくり近付き、
右手をそっと包む。
カイト「ようやく。」
少しだけ微笑む。
カイト「また会えましたね。」
返事はない。
それでも構わない。
私は静かに椅子へ腰掛ける。
結愛を見つめながら、小さく微笑んだ。
カイト「こんにちは。」
あの日と同じ挨拶が、
静かな地下室へ溶けていった。
------完結-----
上手く騙されて頂けましたでしょうか?最後まで拝読ありがとうございました(*^^*)
明日は良い事ありますように(ㅅ´ ˘ `)




