【 第三話 】「芸術家」
朝。
捜査一課。
会議室には重たい空気が流れていた。
事件は5人目の被害者を出した。
資料が配られる。
上司「状況を。」
科捜研「今回も同じ特徴が確認されました。」
スクリーンに資料が映る。
科捜研「被害者全員、白いワンピースを着せられていました。」
科捜研「右手の小指には浅い傷があります。」
科捜研「髪は肩につく長さで切りそろえられていました。」
部屋が静まり返る。
刑事A「年齢も職業も違う。」
刑事A「なのに、発見された時だけ同じ姿になる。」
刑事B「犯人は何を考えてるんだ……。」
誰も答えられなかった。
⸻
会議が終わる。
席を立とうとした時だった。
刑事B「一つ提案があります。」
上司「何だ。」
刑事B「人形師のカイトさんに協力してもらうのはどうでしょう。」
刑事A「芸術家を?」
刑事B「人体や造形に詳しい人です。」
刑事B「警察とは違う見方ができるかもしれません。」
上司は少し考える。
そして結愛を見る。
上司「結愛。」
結愛「はい。」
上司「人形館へ行ってくれ。」
上司「正式に捜査協力をお願いしよう。」
結愛「分かりました。」
⸻
午後。
人形館。
静かな音楽が流れている。
カイトは人形の服を整えていた。
結愛に気付くと、小さく笑う。
カイト「こんにちは。」
結愛「こんにちは。」
結愛「今日はお願いがあります。」
⸻
応接室。
紅茶が運ばれてくる。
結愛は資料を机へ置いた。
結愛「事件について、ご協力いただけませんか。」
カイト「私で役に立てるでしょうか。」
結愛「芸術家としての意見を聞きたいんです。」
カイトは少し考えたあと、静かに笑った。
カイト「分かりました。」
カイト「私で良ければ。」
⸻
翌日。
捜査本部。
カイトは軽く頭を下げ、会議室へ入る。
事件の説明が終わると、資料を静かに見つめた。
しばらくして口を開く。
カイト「人形を作る時。」
部屋の視線が集まる。
カイト「最初に決めるのは、顔ではありません。」
結愛「違うんですか?」
カイト「はい。」
カイト「全体の形です。」
カイトは資料へ目を向ける。
カイト「髪の長さ。」
カイト「服。」
カイト「指先。」
カイト「この三つだけで、人の印象は大きく変わります。」
誰も口を挟まない。
カイト「犯人は。」
カイト「被害者を、自分の理想の姿へ近づけています。」
刑事A「理想の姿……。」
カイト「白いワンピースを着せる。」
カイト「髪を切りそろえる。」
カイト「小指に傷を付ける。」
カイト「どれも殺すためではありません。」
少し間が空く。
カイト「完成させるためです。」
部屋が静まり返る。
結愛「完成……。」
カイト「犯人には完成した姿がある。」
カイト「だから、その姿へ作り変えているんです。」
結愛は静かにメモを取る。
警察にはなかった視点だった。
⸻
会議は終わる。
廊下を歩く二人。
結愛「今日はありがとうございました。」
カイト「少しでも力になれたなら。」
展示室の前で足を止める。
カイトは一体の人形を見つめる。
カイト「私は。」
カイト「完成する瞬間が一番好きなんです。」
結愛も人形へ目を向ける。
結愛「完成する瞬間。」
カイト「ええ。」
カイト「どれだけ時間が掛かっても。」
カイト「理想の形になった時は嬉しいものです。」
結愛は少し笑う。
結愛「本当に人形が好きなんですね。」
カイト「人生そのものですから。」
結愛は軽く頭を下げる。
結愛「失礼します。」
人形館をあとにした。
帰り道。
結愛の頭には、
カイトの最後の言葉だけが残っていた。
「どれだけ時間が掛かっても。」
第4話へ続く▶︎▶︎▶︎




