【 第二話 】「先生」
朝。
捜査一課。
会議室には重たい空気が流れていた。
連続殺人事件。
4人目の被害者が見つかった。
資料が配られる。
上司「状況を。」
科捜研「今回も被害者同士の関係は見つかっていません。」
刑事A「現場から新しい証拠もありません。」
上司「引き続き聞き込みを続ける。」
上司「小さな情報でも見逃すな。」
結愛「はい。」
会議は終わった。
⸻
夕方。
聞き込みを終えた結愛はデスクへ戻る。
机の上には人形館の資料。
自然とカイトの顔を思い出す。
優しい話し方。
落ち着いた笑顔。
事件とのつながりは見つからない。
それでも。
胸の奥の違和感だけは消えなかった。
⸻
仕事を終えた結愛は、叶衛と約束していた店へ向かった。
店へ入ると、奥の席で叶衛が手を振る。
叶衛「お疲れ。」
結愛「お疲れ、先生。」
向かいに座る。
飲み物を注文する。
料理が来るまで、他愛もない話が続いた。
ふと、結愛は叶衛を見る。
昔は眼鏡をかけていた。
黒髪で真面目な先生。
今はコンタクトに変わり、髪も明るく染めている。
最初に会った時は、本当に別人かと思った。
結愛「先生さ。」
叶衛「ん?」
結愛「髪まで染めちゃって。」
叶衛は笑いながら前髪を触る。
叶衛「そんなに変?」
結愛「似合ってるけど。」
少し笑う。
結愛「学校で怒られないの?」
叶衛「周りからは結構言われるよ。」
叶衛「『教師なんだから黒に戻せ。』って。」
結愛「やっぱり。」
叶衛「でも、生徒には受けがいい。」
結愛「そうなの?」
叶衛「『先生、その髪色かっこいい。』って。」
結愛「へぇ。」
叶衛「前より話しかけてもらえることが増えたかな。」
結愛「眼鏡なくなった時、本当に先生か分からなかった。」
叶衛「そこまで?」
結愛「うん。びっくりした。」
叶衛「ちょっと傷付くな。」
二人は顔を見合わせて笑った。
⸻
料理が運ばれてくる。
しばらくして叶衛が聞く。
叶衛「仕事は?」
結愛「全然進まない。」
叶衛「例の事件?」
結愛「うん。」
結愛はグラスを揺らしながら眺めていた。
結愛「この前、人形師さんのところへ話を聞きに行った。」
叶衛の手が少し止まる。
叶衛「……カイト先生?」
結愛「知ってるの?」
叶衛「俺を育ててくれた家族なんだ。」
結愛は少し驚く。
結愛「そうだったんだ。」
叶衛「小さい頃から人形館で育ったようなものだから。」
結愛「初めて聞いた。」
叶衛「聞かれなかったし。」
結愛は少し考える。
結愛「どんな人なの?」
叶衛「優しい人だよ。」
叶衛「人形を作り始めると周りが見えなくなるけど。」
叶衛「昔から変わらない。」
結愛は小さくうなずいた。
確かに。
そんな人にも見えた。
⸻
食事を終え、店を出る。
夜風が気持ちよく吹いていた。
叶衛「送るよ。」
結愛「悪いよ。」
叶衛「先生の言うこと聞け。」
結愛「まだ先生なんだ。」
叶衛「現役だからな。」
結愛は笑った。
結愛「じゃあ、お言葉に甘えます。」
二人は並んで歩き出す。
昔話をしたり、
学校の話をしたり。
仕事の話をしたり。
歩いている時間はあっという間だった。
途中、結愛はバッグからタバコを取り出した。
叶衛「また吸うの?」
結愛「1本だけ。」
ライターで火をつける。
白い煙が夜空へ消えていく。
叶衛「やめなよ。」
結愛「仕事終わりだけだから。」
叶衛「その一本が毎日なんだろ。」
結愛「先生みたい。」
叶衛「先生だから。」
結愛は思わず笑った。
結愛「その言葉、便利だね。」
叶衛「便利じゃない。」
叶衛「本当に心配してる。」
結愛はタバコを見つめる。
少しだけ申し訳なさそうに笑った。
結愛「そのうちね。」
叶衛「絶対言うと思った。」
二人は笑いながら歩いた。
⸻
気付けば結愛の家だった。
結愛「ありがとう。」
叶衛「ちゃんと鍵閉めろよ。」
結愛「子どもじゃないんだけど。」
叶衛「先生からしたら、今でも教え子だから。」
結愛は笑う。
結愛「その言葉、本当に昔から変わらないね。」
叶衛「変える理由もない。」
結愛は玄関の鍵を開ける。
ドアを開ける前に振り返る。
結愛「先生。」
叶衛「ん?」
結愛「今日はありがとう。」
叶衛「また連絡しろ。」
結愛「うん。」
叶衛「おやすみ。」
結愛「おやすみ。」
玄関のドアが閉まる。
家の明かりがついた。
叶衛はその明かりを見届ける。
静かにスマートフォンを取り出す。
短く文字を打つ。
問題ありません。
送信。
数秒後。
既読が付く。
叶衛はスマートフォンをしまう。
そして何事もなかったように、夜の道を歩き出した。
第3話へ続く▶︎▶︎




