【 第一話 】「人形館」
深夜2時。
街明かりも消え、人形館は静寂に包まれていた。
営業を終えた館内とは対照的に、地下のアトリエだけが白い灯りに照らされている。
作業台の前に立つ一人の男。
人形師・カイト。
彼は一体の等身大人形の髪を丁寧に整え、小さな筆で睫毛に色を重ねていた。
細部を確認し、少し離れて全体を眺める。
満足そうに微笑む。
カイト「……あと少し。」
静かな声だけが部屋に響く。
完成まで、あと一歩。
時計を見る。
針は午前2時を回っていた。
カイト「もうすぐだ。」
そう呟くと、再び人形へ視線を戻した。
⸻
翌朝。
警視庁捜査一課。
慌ただしい空気の中、捜査官・結愛は事件資料を抱えて会議室へ入る。
一週間で3件。
連続殺人事件。
被害者同士に接点は見つかっていない。
年齢も職業もバラバラ。
唯一の共通点。
被害者全員が、白いワンピースを着せられた状態で発見されていたことだった。
上司が資料を閉じる。
上司「犯人の目的はまだ見えない。」
上司「聞き込みを広げる。」
上司「今回は芸術関係者にも話を聞く。」
結愛は小さく頷く。
資料の最後に目を通す。
聞き込み対象。
そこには一人の名前が書かれていた。
人形師 カイト
市内で人形館を営む芸術家。
精巧な等身大人形を制作し、国内外でも評価されている人物だった。
⸻
午後。
結愛は人形館を訪れる。
扉を開けると、静かな音楽が流れている。
大小さまざまな人形が館内に並び、そのどれもが今にも息をしそうなほど精巧だった。
思わず立ち止まる。
結愛「……すごい。」
奥から一人の男が姿を現す。
落ち着いた黒い服装。
穏やかな笑み。
カイト「ようこそ。」
結愛は警察手帳を見せる。
結愛「警視庁捜査一課です。」
結愛「少しお話を伺ってもよろしいでしょうか。」
カイトは表情を変えず微笑んだ。
カイト「ええ、もちろん。」
⸻
応接室。
結愛は事件当日の行動や、芸術関係者との交流について質問を続ける。
カイトは一つひとつ落ち着いて答えていく。
受け答えは自然だった。
曖昧な返答もない。
結愛は手帳を閉じる。
結愛「ご協力ありがとうございました。」
席を立つ。
その時だった。
カイトが窓の外を眺めながら静かに口を開く。
カイト「白には、不思議な魅力があります。」
結愛は振り返る。
結愛「……白ですか?」
カイト「ええ。」
カイト「何色にも染まらないようで、何色にも染まれる。」
カイト「だから私は、一番美しい色だと思っています。」
結愛は一瞬だけ考え込む。
今回の事件。
被害者全員が白いワンピースを着せられていた。
もちろん、その情報は報道されている。
偶然かもしれない。
ただ——。
妙に心へ引っ掛かった。
⸻
人形館を後にする。
夕暮れの街。
結愛は資料へ目を落とす。
カイト。
芸術家。
穏やかな人物。
受け答えも自然。
だが、芸術という言葉を口にするたび、その瞳だけが少しだけ熱を帯びていた気がした。
結愛(心の声)
「……考えすぎかな。」
そう呟きながらも、人形館をもう一度振り返る。
夕日に照らされた建物は、静かに街へ溶け込んでいた。
第2話へ続く▶︎▶︎▶︎




