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作業所での1日

 雨。台風の影響らしい。

 電車が止まっていないかネットで確認。今のところ動いているらしい。

 この前は午後から運休になってしまい、バスで帰らなければならなかった。バス代千円払うなら休んだ方がいいと思ったが、今日はちゃんと動いている様子。

 家を出て少しすると、近くのアパートから若い男性が出てくる。たしかこの前も、彼は雨の日に前を歩いていた。同じ時間にパートか、または専門学校生なのかもしれない。

 そこら中に水溜りができている。こういう日は特に足元に注意して歩いてしまうのだが、その男性は滑りそうな錆びた踏み台も、あちこちにできた水溜りも、特に気にする様子もなくスタスタと歩いていく。

 小さい頃はよく雨や雪の日には道で滑ったり、靴をびしょ濡れにしていたので、特に注意してしまう。自分の気にし過ぎなのか、それとも彼は足元で滑った経験があまりないのかもしれない。

 出かけて早々、人と比べてしまい、ぼんやりと暗い気持ちになる。



 駅に入って構内を歩いていると、今日も歩行器の女性を見かける。

 体をよじるようにして一歩一歩あるいている。こんな雨なのだから休んでしまえばいいのに。でも、A型は20日は出勤しなければならないルールがあるから、そういうわけにもいかないんだろう。

 歩行器を使っているのでお年寄りかと思いこんでいたが、もしかしたら若い人なのかもしれない。わからない。何となく悪い気がして、ちゃんと顔を見たことがない。

 電車は7分の遅れ。昨日も10分遅れた。

 理由があるなら仕方ないが、何となく駅員の態度が横柄に感じてあまり印象は良くない。30分に1本の電車も満足に運行できないポンコツ本線、と密かに心のなかで怒っている。

 小走りで向かったため、遅刻はしなかった。いちおう電車が遅れたことは指導員の方に報告しておく。

 その後ぼんやりと作業をする。

 隣の人が作業所に来なくなって2週間ほど経つだろうか。若い女の人で、目測20後半~30前半くらい。「遠慮なくごみ捨ててくださいね」と足元のくずかごを進めてくれたり、「隣居なくて寂しかったから」とぼそっと口にしてくれた。チェック柄の服を着ていることが多くて、髪の毛先だけ少し明るい色に染めているようだった。ちらりと指輪をしているのも見えた。どこの指にしていたかはよく見なかった。

 「暑いのが苦手」と言っていて、早退することが多かったが、本格的に体調を崩したのかもしれない。私物はまだ席にあるので辞めたわけではなさそうだが。でも、もしかしたら入院しているのかもしれない。それか休職しているとか。

 とにかく、いま自分の席の周りは誰もいない。そのせいか、何となくつまらない。



 今週は掃除当番なので、トイレ掃除をした。

 この一週間は指導員の人が入ってくれたり、一人でやったりしていた。トイレ掃除は気分転換代わりにもなり、いやではない。今日も一人でやるぞぉと思っていると、杖をついたおじさんが入ってきた。足が悪いらしい。

 「ごめんなさい当番だったのに」と謝罪があり、いえいえと返す。孫ほど離れていてもおかしくないのに、丁寧な方だった。

 「トイレ掃除初めてで」「どこやればいいのかな」などと訊かれる。自分も今週が初めてだったが、とりあえず指導員の人に教えてもらったことをそのまま伝える。

 相手に悪いので便器に立候補し、手洗い場をお願いする。

 「洗剤(クレンザーと言ったか)つけなくていいんですかね」と言われ、指導員の人もスポンジで軽くこすっている程度だったので大丈夫だと……思います、と、もじもじしながら返事にもならない返事をする。

 またゴミの捨て場所を訊かれたので、教えてもらった捨て場所へ案内する。

 最後の仕上げにモップで床を拭こうとしたら、「いろいろやってもらったので私やりますよ」と言われ、まごつく。杖をついているのに何だか悪い気がしたが、せっかくの相手の言葉なので甘えさせてもらった。

 ちょっとのことだけど、久しぶりにまともに人と会話できたことが嬉しかった。



 お昼の休憩前、就業規則の確認があった。毎月恒例らしい。

 作業所の道具は持ち出してはいけないとか、利用者同士のお金の貸し借りは禁止、などはわかるが、連絡先の交換禁止や、休憩中であっても会話を慎む、過度にプライベートな会話はしない、という注意には心のなかで首を傾げる。

 誰と仲良くなろうが、その人の自由のような気もするが……。なんだか縛られているというか、“管理”されているような気がして、あまりいい気分になれない。毎月これを読むというのも、なんだか釘を刺されているような感じがする。

 例え障害者であれ男女であるのだから、諍いの種が起きないようにする。その理屈も分からないではないが、結局自由がないんだなと嘆息気分。友達づくりもできないというのは、なんだか。



 帰る頃、ハンドメイドの棚でごそごそしていると、突然横から割って入ってくるように手を出してくる人に遭遇。この前もそんな人がいて、少しくらい待ってればいいのにとムッとしたが、今回はなんども横からの闖入があり、ストレス値が急上昇。

 せっかちな人というのはどこにでもいる。駅の昇りエスカレーターに乗っていても、ずかずかと横を通り過ぎていく輩。そんなに急いでいるなら階段使えばいいのに……といつも愚痴をつぶやいているが。

 てめえふざけんなよと、心のなかで怒鳴ってやるシュミレーションを開始。

 なんだかもう作業所をやめたくなってきた。

 ガキの遊びで金貰う。とか、不謹慎なことが浮かびだす。

 最近はほんとうに、身も心も障害者になってきた。心の火が消えて、やりたいことがなくなった。何をしていてもつまらない。

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