第6話 護送車の中
――留置所の廊下
「取引だと?」
「うん」
「今さら何を」
「そう言ってあなた達も困ってるんでしょ?組織のやつらにこの場所がバレて」
紅羽がそう言い終わった時、放送が留置所の廊下に鳴り響いた。
「各員に告ぐ、エレベーターの地上口において、看守長と組織構成員が戦闘中!至急被疑者を護送車に移し、総員退避せよ!」
「私を解放してくれるなら、私も組織と戦ってあげるよ」
高橋はあきれたような顔をして、紅羽の縄を引っ張りながら歩き出した。
「あぁあっ!」
紅羽は突然引っ張られて、転びそうになりながらも、体勢を立て直して歩き出した。
「バカなガキだ。犯罪組織を滅するために囚人の力を借りるなど警察の面目もないだろ」
「そう......」
「大体俺に勝手にお前を解放する権限はない。お前を地上へ連れ出したら後は逃げるだけ。お前の手など借りる必要もない」
紅羽は黙って歩き続ける。高橋は前を向きながら話す。
「清滝さんの話に乗らなかった時点で、お前が釈放される道は消えたんだよ。しっかり罪を償え」
高橋は語気を強めて言ったが、紅羽は表情を崩さなかった。
「わかった」
紅羽は少しだけ口角を上げた。その表情を見て、高橋は少し眉をひそめる。高橋に連行されている紅羽は、蛍光灯が点滅する薄暗い廊下を抜けて、駐車場へとたどり着いた。
駐車場には何台かの護送車がエンジンを鳴らして待機していた。
「ほら、乗れ。座って待ってろ。立ったり騒いだりしたら罰則があるからな」
紅羽は足を上げる。まだ昨日の傷が痛い。紅羽は護送車の中に押し込まれた。高橋は護送車の後部ドアを閉めて、鍵をかける。
「満員になった車から順番に出るぞ」
護送車は次から次へと出発し、エレベーターのほうに向かう。そして車用のエレベーターで順番に地上に移動していっている。
紅羽は護送車の中の長椅子に座る。とてつもなく固い木製の長椅子だ。少し座るだけでお尻が痛くなる。
車内には汚そうなトイレと、この長椅子しかない。椅子には手錠をかけられた被疑者たちが横並びで座らされている。
被疑者の年齢、性別は様々だ。ここに集められている人は、超能力犯罪―その中でも超能力犯罪対策課が目をつけるような犯罪の容疑者達だ。紅羽のような少年少女も少なくなく、男女比は半々ぐらいである。
紅羽の右隣に座っているのは、気の弱そうな少年だった。紅羽と同い年くらいに見える。彼は何の罪に問われてここにいるのだろうか。一見犯罪などするような人には見えないが、人は見かけによらないのだろうか。それとも、何かの冤罪なのか。紅羽には知りようがなかった。
その少年の前に、一人の男が近づいた。
「おい!お前、久しぶりだな」
「......塩滝さん」
少年はおびえたようだった。
「お前の裏切りのせいで俺たちはこんなとこに閉じ込められる羽目になったんだぞ!」
塩滝は少年に一気に顔を近づけ、睨みつけた。
「それは......」
「どうしてくれるんだよ!」
塩滝は両手にかけられた手錠で、少年の頭を殴った。少年は悲鳴を上げることもなく、ただ殴られるのを受け入れるしかなかった。周囲の被疑者達はただ目をそらしていた。
「ちょっと!何してるの!」
その光景を目の当たりにした紅羽は、思わず声が出てしまった。
「お前は関係ないだろ、黙ってろ!」
塩滝はさらに少年を殴ろうと腕を振りかぶった。そこに紅羽がとめに入る。
「やめなよ.......」
紅羽は精一杯の勇気を振り絞って言った。この手錠がある限り超能力は使えない。そんな中で、この大柄な男にはかなわない。
「おいおい、何の真似だお嬢ちゃん。お前もぶちのめされたいか」
「――やれるもんならやってみたら?」
超能力を使わないと紅羽はかなわない。しかしこの手錠は紅羽が超能力を使うのを許さない。――でも、足の少しだけ。足の少しだけに超能力を集中さえれば、手錠の電子によって感電することなく、超能力が使えるかもしれない。
紅羽にとっても初めての挑戦。うまくできるかはわからないが、やるしかない。
「じゃあやってやるよ!」
塩滝は両腕を振りかぶる。紅羽は左足を加熱させて、塩滝より先に、塩滝の脇腹に蹴りを食らわせる。
「あっ......熱っ!」
(やった!できた!)
塩滝は車の底に脇腹を押しつける。
「てめぇ......よくやったな」
塩滝は立ち上がって、紅羽の方を睨みつける。その時、護送車のドアが開いた。
「お前達!暴れるんじゃない!」
高橋が、女性の被疑者を連れて戻ってきた。高橋は手に持ってる鉄の棒を磁力で振り回して、紅羽と塩滝の首元突きつける。
「ちっ......超能力か......」
「もうすぐこの車も出発するから、おとなしくしてろ」
高橋は鉄のチェーンを取り出して投げる。
「えっ!」
鉄のチェーンは塩滝と紅羽の腰をつかんで、椅子に縛り付ける。チェーンは椅子に取り付けられた金具に取り付けられて、解けないように固定された。
高橋はドアを閉めて、鍵をかけた。しばらくすると紅羽が乗る護送車も動き出した。
「あの......」
隣に座ってた少年は、ボソボソとした声で紅羽に声をかけた。
「どうしたの?」
「助けてくれてありがとう」
「いいんだよ」
「ごめん。僕を助けるために......その鎖、きつくない?」
「大丈夫だよ。頭を殴られた君より全然大丈夫だから」
「なんで助けてくれたの?」
「それは......なんだか弱いものいじめみたいで、許せなかったから」
「ここでそんな言葉を聞くなんて思いもしなかったよ」
その一言で、紅羽ははっとした。この場所、この護送車に乗ってる人達は、基本的に悪人、"弱いものいじめ"をしてきた人達だろう。紅羽だって、例外とは言えないのかもしれない。
「ねえ、君はなんで捕まったの?」
少年は言葉を返さなかった。
「ごめん。言いたくなかったら言わなくていいの」
紅羽はそう続けた。その時、護送車は停車した。その後ゆっくりと前進し、車用エレベーターに乗った。
機械が動くような音が聞こえる。紅羽は重力が重くなったように感じた。エレベーターが動き出したのだろう。紅羽を乗せた護送車は地上へと向かって行った。




