第7話 地獄を照らす地上の光
――エレベーターの地上出入り口において
ガシャン、と大きな音が鳴り、エレベーターの上昇が止まった。どうやら地上に出たようだ。
ガレージの扉が開き、護送車が前進し始める。前の方から会話が聞こえる。
「おい、こりゃまずいな」
「ああ、やばいな。俺たちも清滝さんの援護に回るぞ」
護送車の動きが止まった。護送車には窓がなく、紅羽は外の様子が見えない。しかし、外から聞こえる轟音は紅羽の耳にも届く。
「すごい音だな」
「外で戦ってるようだが、俺たちを助けに来てくれたのか?」
「いや、口封じに粛清しに来たのかもしれないぞ」
被疑者たちは、希望、困惑、恐怖など、十人十色の表情を浮かべていた。
紅羽は両手に手錠をかけられた上で、鎖で椅子に縛り付けられている。一切動くことができない。しかし、紅羽は動揺を見せていなかった。
(外で戦ってるおかげでこっちへの警戒は手薄......脱出するなら今だ!)
紅羽はあの気が狂いそうになる牢屋の中で、ずっと考えていた。どうすれば脱獄できるかを。超能力さえ使えれば、手錠も、鍵のかかった扉も、すべて熱で変形させて簡単に破れる。
なら超能力が使えないのは何故か――それは手錠があるからだ。手錠という金属に触れているせいで、超能力を使おうとすると感電してしまう。だったら、手錠に直接触れなければいい。
紅羽は手錠と鎖による拘束に必死にもがいて、ブラウスとブレザーの袖を手錠の内側に少しずつ通す。ブレザーの青い生地は伸びて、元に戻ってしまいそうになるが、なんとか手錠の輪の内側に通した。
(よし!)
紅羽は超能力を使って、手錠の鍵を挿す部分を過熱させる。ブラウスとブレザーの袖という絶縁体のおかげで、手錠の電子は紅羽の体に流れない。
「やった!」
加熱されて柔らかくなった手錠を、紅羽は力づくで外した。体を縛っている鎖の接合部分も加熱させて、体を前に倒して強引に引っ張り、鎖を解いた。紅羽は体から外した鎖を投げ捨てる。
紅羽は椅子から立ち上がる。周囲は被疑者は唖然としている。
「うそ......!?」
「なんで手錠を解けたんだ?」
「頼む、俺のも外してくれ」
「私のも頼むわ」
被疑者たちは紅羽に懇願する。紅羽は彼ら彼女らの方ではなく、隣に座っている少年の方に目を向ける。彼は何も言うことなく、ただうつむいて座っていた。
「......ねえ、私と一緒に逃げよう」
――わかっていた。ここで彼を解放することは、この世界のどこかにいるであろう、彼の犯罪による被害者を冒涜し、さらなる被害者を生む可能性があることぐらい。彼の行いも、それによって生じた被害も、紅羽は知らないのだ。
それでも紅羽は、目の前で虐げられて苦しんでいるように見える彼を、見捨ててはいけなかった。しかし、彼は首を縦には振らなかった。
「気持ちはうれしいけど、僕はいいよ。僕は罪を償うって決めたんだ。君だけでも逃げてよ」
逃げる決断をする紅羽を見下すような口調ではなかった。そのまっすぐな言葉を聞いた紅羽は、無理に説得しようとは思わなかった。
「わかった......でも最後に、名前だけ聞いていいかな?私は紅羽って言うの」
「僕は翔太。またどこかで会えたらいいね」
「うん」
紅羽は護送車のドアの方に向かって歩き出す。塩滝は大声で言う。
「おい、俺の鎖もどうにかしてくれ!お前のせいでこんな羽目になったんだぞ」
紅羽は塩滝のほうを睨みつけるが、何も言わず、ドアの前に向かった。このドアを破ることは、何を意味するのだろうか。他の被疑者は手錠されたままとはいえ、動くことはできるはずだ。
その場合、彼ら彼女らは脱走してしまうかもしれない――もちろん外にいる公安の警察官に取り押さえられる者も出るだろうが。彼ら彼女らの中には凶悪犯もいるだろうし、あの組織の連中も多いだろう。
そんな人たちが脱走するリスクがあるのに、このドアを破るのが正しいことなのか?紅羽はドアを前にして、少しとどまってしまった。
――しかし紅羽には、この護送車から出ず、檻に移されて中で過ごすのは耐えられなかった。それはあの退屈な独房が嫌だというだけではない。
紅羽には、戦うことをやめることはできなかった。日常や友達を全部守る。自分の手で組織を滅ぼして、理不尽な目にあう人を救うと、心に誓ったのだから。
紅羽はドアの鍵の部分を過熱して、ドアを蹴り飛ばした。外の光が、紅羽のもとに入ってくる。しかし、外の光景を見た紅羽は鳥肌を立てた。
――太陽の光は、地獄のような光景を照らしていた。血を流し重傷を負った人が、そこら中に倒れている。周囲の木は倒れ、葉は焼け焦げている。そして、辺り一帯には焦げた臭いが漂っている。
そして、今もなお、何人もの警察と組織の超能力者が、火を撃ち合い、電撃を撃ち合い、風で押し合い、殴りあって戦っている。中には銃を使っている者もいる。
その中でも真っ先に紅羽と視線がぶつかったのは、先ほど紅羽をこの護送車に連行した、高橋という男だった。




