第2話 超能力者留置所
「日野紅羽さん、あなたを決闘の容疑で現行犯逮捕します」
公安部超能力犯罪対策課を名乗る男は、紅羽に警察手帳を見せつける。偽物には見えなかった。公安部超能力犯罪対策課―紅羽も噂話では聞いていた。
「ちょっと、どういうこと」
「どういうことも何も、あなたの行動は犯罪ですよ。警察でもないのに、勝手にこんなことして」
男は淡々と語る。
「いやそりゃそうかもしれないけど......」
「これ以上あなたの暴走は看過できません。そこにいる男と一緒に連行します」
パトカーのサイレンの音が近づいてくる。
「......私がこいつを倒すのを待って漁夫の利したの!?卑怯な!」
男は手錠をもって紅羽のほうに近づく。
「卑怯?スポーツでもしてるつもりですか?」
紅羽は、針に手を添えたまま、歯を食いしばる。
「さあ、両手を前に出しなさい」
「ちょっと待ってくださいよ。私はこいつらに友達を奪われて......」
「どんな事情があろうと、我々は一般人の超能力の戦闘への濫用を見逃すわけにはいきません」
超能力が普及してからというもの、超能力を悪用した犯罪が多発した。政府は対策として、超能力を使った犯罪を厳しく取り締まりだした。紅羽のように一般人でありながら超能力を誰かを傷つけるために使ったりしたら、中学生だろうと責任からは逃れられない。
「そんなのは知ってる、でも......」
「ぎゃぁっ!」
紅羽は男に右腕を引っ張られる。手首をつかまれて、手に金属の輪っかを押し付けられる。
カチャ、という音とともに、紅羽の手に手錠がかかる。左手にも手錠をかけられ、両手首が鎖でつながれた。
「うそ......」
紅羽は今まで、組織に日常を奪われてきたと思っていた。しかし今まさに、普通の中学生としての日常も、悪の組織と戦うヒーローというロールも、全て奪われた。
二台の覆面パトカーが近くに停車した。警察官が降りてくる。
「連行します」
紅羽は2人の警察官に両脇を捕まれ、車の方に連れて行かれる。倒れていたジェームズも、警察官達に引きずられながら車に入れられる。
紅羽は目から涙がこぼれる。紅羽は不自由な両手で、必死に涙を拭う。二人の警察官は表情を崩さず、紅羽を車の後部座席に放り込む。
「これから、超能力者留置所に連行します」
「超能力者......留置所......? 」
紅羽は涙をこらえ、鼻をすすりながら言った。車は動き出す。
「あなたやあの組織の人たちのような、超能力を使える被疑者を留置するところです」
「被疑者......」
紅羽は、自分と組織のやつらを並べられたことに、絶望感を感じた。ヒーロー気取りの少女は、残酷な現実を叩きつけられた。
「そうそう。超能力留置所の場所は秘密事項ですので、目隠しをさせてもらいますよ」
隣に座っている警官は目隠しを取り出して、紅羽の目を隠す。
紅羽は足が震える。紅羽は両手や視界の自由が奪われたまま、連行されていったのだった。
―超能力者留置所
「着きましたよ」
紅羽は目隠しを外される。もう涙は乾いていた。車が止まったのは、どこかの地下駐車場だった。紅羽は車から降ろされ、腰に縄を巻かれる。
「ここが留置所......?」
「ええ。その通りです。行きますよ」
周囲の警察官が見守る中、縄で引っ張られるように、紅羽は歩かされた。無機質な鉄のドアの向こうには、蛍光灯で照らされた薄暗い廊下が広がっていた。
紅羽は自分の足で歩くたびに、足の針が痛む。
「こちらへ」
紅羽と警官は右手のドアに入る。飾りのない、コンクリートに囲まれた部屋。棚には、簡易的な医療器具がそろっている。
「針は抜きますので、そこの椅子に座ってください」
紅羽は両手を前で拘束されて、座ることすらいつものようにできなかった。なれないように、スカートを広げたまま座る。
「抜きますよ?」
警官は紅羽の足の針に手を添える。紅羽はただ黙って待っていた。
「うっ」
警官は紅羽に刺さった針を抜く。針に止められていた血は一気に流れ出す。警官は急いでガーゼをあててテープで固定して、止血する。
「これで時間がたてば血は止まるはずです」
「ありがとうございます」
紅羽は小さい声で、つぶやくようにそう言った。
「針はもう必要ないですからね。その手錠がある限り、あなたは超能力を使えないはずなので」
紅羽は自分にかけられた手錠を眺める。
「さあ、立ってください。行きますよ」
紅羽は次の部屋に連れていかれた。その部屋には、一人の女性がいた。20代後半から30代前半ぐらいの、長髪で大人びた風貌をしている。
「清滝さん。連れてきましたよ。この人」
「はい、ありがとう。ここからは私がやるね」
清滝は紅羽の縄を受け取る。
「さて紅羽さん」
「......なんですか?」
「写真撮影しましょっか」
「......はい」
清滝のやけになれなれしい口調は、紅羽にとって気味が悪かった。紅羽はカメラの前に立つ。清滝はカメラのシャッターを構える。
パシャッ、という音、白いフラッシュ。清滝は紅羽の写真を撮った。
赤のインナーカラーが入ったセミロングの黒髪、少し大人びたかっこよさを出しながら、幼いかわいさも感じさせる顔。明るい青色のブレザーとグレーのプリーツスカートの制服を着て、首に紺色のネクタイを締め、胸には校章が刻まれている。どこからどうみても、普通の中学生―しかしその両手には手錠がかけられている。
「しかし、この制服。あの子を思い出すわね」
「ん?」
「あ、いや。なんでもないの。さあ、行きましょうか」
紅羽は部屋を出て、別室で身体検査を受け、留置所のほうに通された。
「ここがあなたの独房ね。今日はもう遅いから、さっさと寝ちゃいなさい」
鉄格子の扉の向こうには、畳の部屋があった。敷布団が敷かれ、窓や家具はない、殺伐とした部屋だった。清滝は扉を開けて、紅羽の背中を押す。紅羽は鉄格子の向こう側に足を踏み入れる。
「私は納得してないです。こんなの」
「そう、じゃあ、またね」
清滝は鉄格子の扉をしめる。ギンッ、と音がなる。清滝は鍵を閉めてその場を後にした。紅羽は布団に入る。
友達を奪われた。これ以上誰も奪われたくなかった。だから敵を倒した。自分は正しいことをしただけなのに、自分が悪人になった。紅羽は悔しさを胸に、ぼんやりと天井を眺める。そうして紅羽はいつしか眠りについたのだった。




