第1話 日野紅羽容疑者、逮捕
「日野紅羽さん、あなたを決闘の容疑で現行犯逮捕します」
学校の制服を着た、ちょっと正義感が強いだけの、普通の女子中学生。今、彼女の両手に、手錠がかけられようとしていた。
――ある夜
遂にここまで来た。日野紅羽はようやく組織の幹部にたどり着いた。コードネームはジェームズというらしい。
そして今、二人は夜の港で対峙している。周囲には人影一つなく、月の光だけが二人を照らす。
「小娘が、俺達の取引を邪魔しやがって。だがここまで俺達の事を知られちゃ、生かしてはおけねぇな」
ジェームズは嘲笑った。
「そうやって、罪もない人を何人殺してきたの......」
紅羽はじっとジェームズを見つめていた。ジェームズは右手を近くのコンテナの方に向けると、鉄製のコンテナを触らずに持ち上げた。
「さあな、いちいち数えてねえし、記録にも残らねぇよ。てめぇの亡骸も、ここなら海に沈めれば誰にも見つからねぇ!」
ジェームズが腕を振り下ろすと、コンテナはジェームズの作った磁力に引っ張られ、紅羽のほうに素早く動き出す。
紅羽は足を踏ん張り、深呼吸する。
―活火激発―
紅羽は後方一帯に火を巻き散らした。後方の空気は温められて膨張し、紅羽を大きく前に押し出す。
「なにぃ!?」
紅羽はコンテナよりはるかに早く前方に跳んだ。体をそらしてコンテナの下をかいくぐる。ジェームズとの距離が一気に知事待った。
紅羽は勢いそのまま、右の拳を握りしめてジェームズの腹を殴った。ドスッと鈍い音が鳴った。ジャームズは腹を押えて言う。
「ちっ...痛ぇじゃねえか」
ジェームズは腰に巻いた鉄のベルトに磁力をかけ、自分の体を大きく後方に動かし、紅羽と距離をとった。
「今まであんたが苦しめてきた人の痛みが、少しわかった?」
紅羽は淡々と言った。ジェームズは、両手を広げて、周囲のコンテナを多数持ち上げる。コンテナはまるで雨雲のように上空を漂っている。
「小賢しい小娘が!くたばれ!」
ジェームズが両手を振り下ろすと、コンテナは一斉に紅羽の方に振り注ぐ。
―活火激発・連式―
紅羽は周囲に火を灯し、上昇気流の力で自分の体を持ち上げる。紅羽は飛んできたコンテナに飛び乗った。目にもとまらぬ速さで、次から次へとコンテナに飛び乗っていく。
紅羽が通った後には紅い火の道ができていた。紅羽は最後のコンテナから飛び降りた。ジェームズの上から、手に火をまといながら降下する。
「......まだだ」
ジェームズはポケットから小さなナイフを取り出した。
「空中じゃよけれねぇだろ!」
ジェームズは紅羽に向かってナイフを投げ、磁力で加速させた。ナイフは重力に逆らって、紅羽の方に進んでいく。ナイフの刃が、紅羽の胸に突き刺さりそうになった、その瞬間――
―陽炎―
紅羽の姿が揺れた。ナイフは紅羽の体をすり抜けた。ナイフが通った後の紅羽の姿は絵の具のように歪んでいた。紅羽は周囲の空気を温めることにより、陽炎のように周囲の光を屈折させて幻影を作っていた。
「どこ狙ってんだよ」
ジェームズの背後から、紅羽の声が聞こえる。
「しまっ―」
ジェームズの背後に、熱風が押し寄せた。ジェームズは勢いよく倒れて、熱を逃がそうと、体を地面にこすりつける。
「ああああ!熱っ!」
「大丈夫。焼け死なない程度に加減してるから」
紅羽はジェームズを地面に抑えつけて、首を掴んで、睨みつける。
「私の勝ちだよ。さあ、全部教えて。お前らの組織のアジトも、ボスのことも。もう抵抗は考えない方がいいよ」
紅羽は首を掴む右手の温度を少しずつ温めていく。
「それで脅してるつもりか!?ばか言え、どうせ俺がどうしようが、お前には俺を殺すことも、捕らえることもできねぇんだよ!お前の勝利は全部無意味だ!」
ジェームズは息を荒くしながら叫んだ。
「どうしても口を割らない気?」
「ああ、俺は負けねぇからな」
その言葉に、紅羽はやり場のない怒りを感じた。その時だった。鋭い痛みが、紅羽の右足を走った。どこからか飛んできた一本の金属の針が、紅羽の右足に突き刺さった。針の電子が一気に紅羽の体に流れ込む。
「あッ!」
紅羽は感電の痛みに耐えながら、とっさに超能力を解除して、体内の電気を整えた。紅羽は自分の右足を見る。針が皮膚を貫通して、出血している。下手に抜くと出血が悪化するかもしれない。しかし、この針が刺さったままだと、超能力が使えない。
「まだこんな悪あがきを......」
「おいおい、俺は何もしてないぞ」
「まさかあんたの味方が?」
「いやそんなはずは――っ」
紅羽に刺さっているのと同じ針が、ジェームズのズボンを貫通し、右足に突き刺さった。
「えっどういうこと、この針はいったい......」
背後から足音が聞こえる。紅羽が振り替えると、コンテナの陰から出てきたのは、黒いスーツを着た男性だった。
「誰だ!?」
「その声は、日野紅羽さんですね」
黒いスーツの男性は、低い声でそう言った。
「そうだけど、この針打ち込んだのってまさか―」
「ここで、超能力を使われてはやっかいですからね」
(何者かわからないけど、こいつも敵?だったら、多少出血しようが針を抜いて戦わないと―)
紅羽は右手でジェームズの首を抑えながら、左手で針に手を添える。
「無駄ですよ、その針は遠くから狙撃班が撃ってるので。すぐに次の針が飛んできます」
紅羽は周囲を見渡す。辺りは開けていて、遠くから狙撃しやすい。この男の言ってることもハッタリではなさそうだ。
「......ちっ」
「私たちはあなたをこれ以上傷つける気はありません」
「はぁ!?あなたいったい何者なの?」
「警察庁公安部、超能力犯罪対策課の者です」
その言葉に、紅羽は思わず息を呑んだ。
「えっ、ちょっと待ってどういう―」
「日野紅羽さん、あなたを決闘の容疑で現行犯逮捕します」




