分かるよ。
「ふむふむ『今日はお泊まりに来れません』か...」
麻里ちゃんとラインをしながら何が起きたか大体の想像がついた。
私を心配させまいとする気遣いは嬉しいが、無理をするのは麻里ちゃんの悪い癖だ。
「『それじゃまた後でね』っと」
私はラインの最後にそう打ち込んでスマホの電源を落とした。
「さてと、行きますか」
独り言を言いながら着替えセットとバスタオル等を用意して鞄に詰める。
「お母さん、冷えた保冷剤と口内炎の薬あるかな?」
階段を降りてリビングで寛いでいたお母さんに尋ねた。
「あるけど真夏ちゃん、何かあったの?」
少し驚いたお母さんは聞いたけど適当に誤魔化して受け取った。
保冷剤は昔から家の冷凍庫に冷やしてあって、最近は私のお弁当箱の下にいつも敷き詰めている。
「今から麻里ちゃんのお家にお泊まりに行ってきます」
「いきなりね、大丈夫?」
本当は麻里ちゃんと兄ちゃんの部屋で一緒に泊まるつもりだったけどね、まだお母さんに言ってなかったので、すんなりお泊まりの許可が出た。
お母さんも麻里ちゃんが病んでる時は随分心配していたから、先日麻里ちゃんが家に来た時涙ぐんで喜んでいた。だから私が行く事には寛容だ。
「大丈夫だよ、行ってきます」
お母さんから保冷剤と他にも色々持たされた私は家を出た。
「うりゃ」
麻里ちゃんの家に着いた私が呼び鈴を押すと間もなく扉が開く。
呼び鈴についているカメラで私を確認したのかインターホンからの返事は無かった。
「よ!」
「....来ると思ったわ」
私が軽く手を挙げて挨拶すると少し呆れた表情の麻里ちゃんが笑顔で呟いた。タオルで頬っぺたを冷やしながら笑うが腫れてるのがまるわかりだ。
「よいしょっと」
麻里ちゃんの家に上がり、ダイニングテーブルの上に持ってきた荷物を置かして貰う。
そして保冷剤と薄手のタオルを取り出して麻里ちゃんに手渡した。
「ありがとう」
麻里ちゃんは手慣れた手つきで保冷剤をタオルで巻いて頬に押し当てた。
「あー気持ちいい!やっぱり水で濡らしたタオルじゃ駄目ね!」
「そりゃ良かったね~」
麻里ちゃんが笑い出した。なんか私の言葉がツボったらしい。
傷む口を押さえながら泣き笑いする麻里ちゃんを見て私も笑う。しばらく2人で笑いあった。
「それにしてもよく分かったね」
「長い付き合いですから」
麻里ちゃんはどうして叩かれていた事を分かったのか不思議そうだったけど、私には分かるんだよ。
あんなに楽しみにしていた兄ちゃんの部屋でお泊まりを急に断ったり、連絡もラインだし。
麻里ちゃんの性格だから女狐を煽っちゃったんだろうな。
「真夏、今日泊まるって言っても夕食はどうするの?私は口が痛いからお粥でもしようと思ったんだけど」
「大丈夫、お母さんが持たしてくれたとっておきがあるんだよ」
「真夏...まさか...」
麻里ちゃんの質問に私が答えると察しの良い麻里ちゃんは直ぐに分かったようだ。
「じゃーん、素麺だよ!」
「待ってました!」
「今日のは麻里ちゃんの好きな極細のひね物だよ!」
「やったあ!」
いつも冷静な麻里ちゃんだけど素麺には目がないんだよね。
家の母さんの実家、お祖父ちゃんの兄さん(大伯父)が関西で製麺所を営んでいて毎年木箱に入った素麺を送って来てくれる。
麻里ちゃんも私も大好物だ。
「真夏ちゃん何束?」
「3束!」
「私も3束で計6束ね、早速作りましょ!」
「ラジャー」
私達はコンロの前に立つ。素麺をゆがくのは麻里ちゃん担当。私はめんつゆ担当だ。
今日の麻里ちゃんは口を切っているから醤油を少な目、出汁多めのサッパリめんつゆにしよう。
「よし!」
素麺を1本口に含み掛け声と共に麻里ちゃんが素麺の入ったお鍋をシンクの中に置いたザルに流し込む。
素早く流水で素麺を締める表情は真剣その物だ。
素早くぬめりを取ったら水気もしっかり切り大皿の上に1口大に摘まんで並べて行く。
「こっちも出来たよ」
私も火を消して熱々のめんつゆの入った手鍋を陶器のうつわに入れる。本当は冷した方が美味しいが口にしみたら大変だ。
「美味しい!」
「本当!」
素麺の固さ、のど越し、麻里ちゃんのゆがき加減は達人の域を感じさせる。去年は麻里ちゃんのゆがいた素麺を食べられなかったから尚更だ。
「どうしたの?」
私が目を瞑り素麺を啜る様子に麻里ちゃんが聞いて来た。
「またこうして麻里ちゃんと素麺を食べられる事が嬉しくて」
「真夏...」
私の言葉に麻里ちゃんは涙ぐんでしまった。
「ごめんなさい」
私は慌てて謝るが麻里ちゃんは私の言葉は手を握って笑い掛ける。
「ううん、私もよ。私もこうして真夏と一緒に食べられる事が夢の様よ」
「麻里ちゃん...」
こうして私達は美味しい素麺を堪能した。
その後一杯お喋りをした。
「叩き返してやればよかったのに」
「そんな事したら大変よ」
「そうよね、麻里ちゃんが本気で叩いたらあいつの首が捻切れるよね」
「まさか!でもむち打ちにはなるかもね」
笑い合いながら会話を楽しむ、やっぱり麻里ちゃんとの会話は楽しい。
シャワーを浴びてパジャマに着替えて麻里ちゃんの部屋で一緒に寝るのだが私は鞄から枕カバーを麻里ちゃんに手渡す。
「こ、これは...」
麻里ちゃんは直ぐに気づく、さすがだ。
「兄ちゃんのだよ。私の分もあるからお揃いだね」
「ありがとう真夏」
そうして私達は眠りにつくまで兄ちゃんの話で盛り上がるのだった。
次は愛佳ちゃんも一緒だよ。




