私が麻里よ。
秀一の自宅前にいた玲美を見て私は直ぐに分かった。
『秀一を忘れられずに来た』事を
「真夏、玲美の事は任せなさい」
「駄目だよ麻里ちゃん...」
私の服の裾を掴んで首を振る真夏に私はそっと囁く。
「大丈夫、もう復讐なんか考えてないよ。愛佳や真夏と約束したからね」
私の言葉に真夏は静かに頷いて服を離した。
「玲美、ここに秀一は居ないわ」
「秀一...秀一はどこよ...」
酷い顔色だ、いつもお洒落に気を付けていた玲美とは思えない。髪は乱れて目も虚ろ、きっと私も病んでいた時あんな感じだったのだろう。
「話をしましょう、私の家にいらっしゃい」
後ろで真夏の驚いている様子を感じるが、私は今回の事にけりをつけなくてはいけない。
これは私の責任だから。
「真夏大丈夫よ、終わったら連絡するから」
私は後ろを振り返り真夏に優しく告げる。
今度はしっかり頷いた真夏に私は笑顔を向けた。
「それじゃ、玲美行きましょう」
玲美の前を先導するように歩くと玲美は無言でついて来ているのを気配で感じる。
そして私の家に玲美を連れて来た。
「さあ上がって」
玄関で靴を脱ぎスリッパに履き替えて、玲美のスリッパを並べてると無言で玲美は靴を脱ぎスリッパに履き替えた。
「誰もいないから安心して」
私の言葉に玲美は少し落ち着いたように頷いた。完全に我を忘れている訳ではないようだ。
ダイニングテーブルの椅子に座らせ私は紅茶を淹れて玲美の前に出すと静かに紅茶を口に運んで私をじっと見た。
「秀一はどこ?」
玲美の言葉に私は静かに首を振る。
「ふざけないで!秀一はどこよ!私知ってるのよ!」
玲美の大声が部屋に響いたが怯む訳にはいかない。
「知ってるって何を?」
「あんたが私達を嵌めた事よ!
よくも私から秀一を奪ったわね!」
玲美の言葉が私に突き刺さるが退く事は出来ない。
「奪ったって随分ね、あなたが秀一を棄ててホイホイ亮に乗り替えただけでしょ」
「ふざけるな!」
激昂した玲美の平手打ちが私の頬を叩く。
避けようとすれば簡単に避けれたが私は敢えて叩かれた。口の中が少し切れたみたいだ、鉄の味がしてきた。
「あなたね、私の気持ちを分かっててあの馬鹿達を煽って秀一とのキスを見せつけたんでしょ?
そっちの方がふざけてると思うわよ」
怒りを堪えて玲美を睨み返しながら言った。秀一の様に威嚇するのでは無く、ただ単純に玲美を睨む。
「何よ秀一の事が好きな癖にウジウジしててさ、だから奪ってやったのよ!ざまあないわ!」
玲美の煽る言葉、以前なら私は我を忘れていただろう。しかし今の私には玲美の言葉が滑稽に感じた。
「だから秀一を奪って満足したんでしょ?親切な私は次の男に乗り替える手助けをしてあげたのよ。なぜ秀一に拘るの?なぜ亮と別れた後も次々と男を取り替えてるの?」
「うるさい!」
再度私の頬を玲美の平手打ちが襲う、同じ所は勘弁してほしいが鼓膜を破られては堪らないので少し顔をずらして頬の真ん中付近を叩かせる。
「どう満足した?もう戻れない事は分かってるでしょ、秀一の心にはもうあなたはいない、自分から棄てたのよ」
傷む口で玲美に話すが上手く話せない。
そう言えば玲美は陸上競技の選手だった、なかなか良い平手打ちだ。
「ふざけないで...秀一を返してよ...」
涙を流す玲美だが私の心は動かない。もう復讐はしない、しかし許す気も無いからだ。
「もう諦めなよ、心も体も元には戻れないんだから」
「ふざけるな!私は確かにホテルに行ったが、まだ最後まで体を許してないわ!」
何を言ってるんだこいつは?
「あなたが男に体を許したかどうかなんて、私聞いてないよ?」
私は思わず素に戻る。
「え?」
私の呆れた言葉に玲美も我に返った様だ。
「馬鹿みたい...」
「本当、馬鹿みたいね」
玲美の言葉に私も乗るが、もう叩きに来なかった。
「帰る。見送りは要らない」
玲美は立ち上がり玄関に小走りで去って行き、
玄関の扉の閉まる音を確認してから私は鍵を閉めた。
「いてて...これは腫れるな..」
玄関の鏡で真っ赤になった自分の頬を見ながら真夏への連絡は通話じゃなくラインにしようと思う私だった。




