嫌悪感
「お母さんたち…離婚してたんだ…」
「え?」
「知らなかった…」
美有は、青年の「同じ名前」という指摘には、決して触れなかった。
「……。ありふれた名前だし…おばさんと美有のお母さんが同じ人とは思ってないけど…」
「うん…」
「もし、そうなら、赤ちゃんにいろんなリスクもあるかもしれないから…検査しておきたいんだ…」
青年は、言ってしまった、と思っていた。美有の表情は、やはり曖昧で読み取れなかった。
実のところ、美有は、バレたか…と思っていた。施設にいる時、援助交際を数回した。そのお金で、戸籍謄本を取り寄せた。祖父母の家を調べた。それから、探偵を雇った。そして、自分にいとこがいることを突き止めた。それで就職も決めたのに…
青年は、出産までは…と思って、うだうだした。しかし、美有と自分の唾液を取って、送ってしまった。結果が届く前に、美有が陣痛に苦しみ出した。
美有は、病院に着くと、ぐったりして、たまに顔を歪めた。青年は心配でうろうろとした。美有は、声も出さず、また顔を歪めた。青年が、
「何かできることない?」
と聞くと、美有は黙って首を振った。そこに医師が来て、内診をしたり、助産師と話したりして、
「少し長引いているので…」
と、促進剤を使うことを説明してきた。そうこうしているうちに、美有が出血した。そこで、美有が、
「また赤ちゃんが…」
と言ったのを、青年は聞いてしまった。
「また?」
青年は口にした。美有は、そんなことに全く構わず、パニックを起こしていた。医者が、赤ちゃんの状態を確認したり、出血の量を見たり、美有のお腹の張りを確かめたりして、子宮口が開いたことによる出血で、異常がないことを伝え、励ました。助産師が落ち着いて息を吐くように指示をした。それでも、美有の目は揺れていた。
美有は、促進剤の効果なのか、痛い…と声を漏らした。青年は、心配で仕方ない心の内にも、また?というさっきの疑問が付きまとう自分に嫌悪感を抱いた。




