表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

第四話 やっぱキモいんだ

第四話 やっぱキモいんだ


 健康って大事だー!

 だるい風邪の諸症状はそのままだけど、そんなの物の数にも入らない。

 夜の間に身体が中から溶けて、朝には俺の形をした染みがベッドに……なんてことにならなくてよかった。

 ペナルティって本当に怖いね。昨日のはさすがに極端な例だけど。

 無事、人界っていうかほぼ神界の強さだったペナルティを現状できる目一杯まで除去できた俺は、なんとハクラギからの提案により一晩中彼の腕の中で過ごすことができた。最高すぎる。しかもハクラギに「クロウは良い香りがするな」とか言われちゃって…!お風呂で肌が削れそうなくらいピカピカに洗っててよかった!

 これで結婚してないとか、嘘でしょ俺たち。


 ちなみにハクラギは朝シャワーの真っ最中。寝汗でもかいたのかな?

 昨夜の余韻を噛み締めながら、ベッドから出てシーツを簡単に整える。ハクラギがお風呂から出てくる前に着替えを済ませておこう。

 せっかく用意した冒険者っぽい服は昨日の二代目『ヘッヘッヘッ』に破かれてしまったので、ポイしてしまった。似たようなのはあと数枚しかないから、大事に着たい。二代目『ヘッヘッヘッ』は今度会ったら犬の腹行き決定だ。

 パジャマを脱いで、収納空間の中から見習い魔術師服を取り出す。背後からガタリと音がした。

「——…、ク、クロウ」

 あ、ハクラギだー!

 おはよ…

「も、もう一度シャワーを浴びてくる」

 う?

 お風呂から出てきたと思ったら、俺に背を向けてまた浴室へと戻って行った。

 ……俺の着替えが終わる頃に出てきたハクラギは、何故かひんやりしていた。

 どしたの?





 素人に毛が生えたみたいな魔術師用の服を着てても、気品が隠せない俺。さすが俺。ハクラギも別に鎧とか着てないのに、一目見て「あ、この人絶対剣士系だ」ってわかるからすごい。余談だけど、髪は三つ編みにさせてもらえなかった。

 昨日は体調が悪くてそれどころじゃなかったけど、街を歩いていると人間からの視線がすごかった。みんな一斉にこっちを見てくる。とくにハクラギへの、それがすごい。やめろ、俺のハクラギをそんな目で見るんじゃない。犬のご飯にしてやるぞ。

 気持ち的に辺りを威嚇しながら歩いていたら、ハクラギにグイッと肩を掴まれて引き寄せられた。すぐ側を、また『ヘッヘッヘッ』とか言いそうな奴がどこか悔しげな顔をしてすれ違って行く。スリかな?俺の警備、ザルだからな。

 自分が強い自信はあるんだけど、それでもどうやっても気配の察知とか身のこなしなんかは、年下のハクラギに軍配が上がる。

 才能もあるんだと思う。

 ハクラギの父親である魔帝ノクルドは、別名雷帝の名を持つ魔族だった。魔帝?雷帝?どっちも帝なら雷魔帝とかでよくない?って昔ママ上に聞いたら、「本人に言え。殺されるだろうがな」と言われた記憶がある。自身の魔力を雷に変えて身体に纏い、肉弾戦を得意とする。そこだけ聞けば、俺の好きなタイプだ。

 ただ、あれの性格は魔族の俺から見ても最悪だった。子の命乞いをする親の前でその子を食ったり、親の為に勝てもしないのにノクルドと戦わされて嬲り殺しにされる様子を親に見せて楽しんだり。そんな奴だから、ノクルドの国はゴミみたいな連中の集まりだった。俺が聖界にいる間にママ上が片付けてくれていたのは、素直にありがたいと思う。……ノクルドは、千年前の俺では勝てない相手だった。

 魔界も聖界も神界も、腐った奴らが多すぎる。せめて人界くらいは、まともな生き物がいますように。


 そんなことを考えながら、通りを歩く。


 人間の街は色が多くて、見ていると、ちょっと目が疲れる。でもハクラギが楽しそうだから、俺も見る。

 神都、あるいは旧聖都。どっちでもいいけど、サンクトリアは人界の世界の中でも上位存在からの影響が強い場所だ。

 独立してはいるものの、名称は国じゃなくてあくまで『都』。自分たちは、上位存在の国の一部であるという認識らしい。つまりこの場合は神界に属しているので、神々の国の中にある都の一つとして名乗っている、という考えだ。

 改竄されているとは言え歴史は長いから、街の造りもしっかりしている。文化水準がそれなりに高いんだろう。



 宿を出たのは朝の少し遅い時間だった。

 ハクラギに、俺が用意したペナルティ対策の説明をしていたからだ。

 あんまりに「危険だから私が一人で行く。クロウはここにいなさい」って言うもんだから。

 俺は対ペナルティとしての秘策『限定解除』を、左耳につけているピアスとノートに書いた長文を使って伝えたのだった。



「クロウ、あの果物は何だと思う?食べてみよう」

 秘策を聞いてやっと外出許可を出してくれたハクラギは、さっきから通りに並ぶ店をあっちこっちしていた。こんなに可愛い生き物がこの世に存在する奇跡に、もはや乾杯するしかない。

 気になるもの全部食べないと気が済まないのか、店に吸い込まれては二人分買ってきてくれるので、俺はお腹がいっぱいです。

 あ、でも不思議なことがあった。

 ハクラギに「美味いか」と聞かれたので全力で頷いたら、少し俺を見つめて「ちゃんと、美味いか?」と聞いてきたんだ。ちゃんと、って何だろう?と考えてしまって。今はノートがあるから、文字で返した。


『味覚も聖界で死んじゃったから味とかはよくわからないけど、ハクラギがくれるものは全部美味しいよ』


 ハクラギはノートを読んで少し驚いて、それから優しく笑った。「なら、私と全部食べよう」って。


 ……嬉しいけど、限度があるよ。

 俺は大食い美形キャラじゃないんだ。

 でも、きっとハクラギも嬉しいんだろうな、と思う。

 人界の食べ物は、魔界よりもずっと色があって種類が豊富だから。



 結局、俺が満腹になった後はハクラギが全部二人分食べた。お腹が全然出てないけど、あの大量の食べ物はどこに行ったんだろう。

 昨日風呂上がりの姿を見た感じでは筋肉しかなかったお腹を、服の上からジロジロ見ていると、視界の隅に明るい茶色の髪が見えた。

 呼び止められて、立ち止まる。


「こんにちは。昨日はありがとうございました」

 

 魔物から助けていただいたターシャです。と丁寧にまた名乗られる。昨日街道で黒ゴブリンに襲われていたところを助けた、白装束の女の子だ。

 ハクラギを見ても頬を染めなかった貴重な子である。

 その辺を歩いてる人間とか、みんなこっちに視線を向けて見惚れたりしているのに。

「君か。あの後無事に街に戻れたようで何よりだ」

 人望の塊のハクラギが笑顔で答えると、全然関係ない通りの人間が足を止め頬を染めた。

 これは場所を変えた方がいいな。彼女には色々聞きたいこともあるし。

 クイクイとハクラギの袖を引いて『場所を変えよう』とノートで提案すると、「そうだな」と返ってきた。

「よかったら少し話をしないか?この街には来たばかりなのでね。色々教えてもらえるとありがたい」

 どうやら同じことを考えていたらしい。

 提案に女の子は

「もちろんです。お二人は命の恩人ですから、わたしでできることでしたら何でも仰ってください」

 とにっこり笑った。

 良い子だ。この子も何か困っていたら、助けてあげよう。


 そうして女の子に案内されて、しばらく歩いてやってきたのは。

 周囲を白い外壁に囲まれ、正面にでっかい白門を構えた巨大な建造物。

 ——……街の一番奥にデーンと聳え立つ、大神殿だった。

 

 それは、そう。

 巫女だもんね、彼女。

 昨日ハクラギに聖力を分けて貰ってて、よかった。


「一番下の巫女なので、大神殿の中でも外側の部屋なんです。あっ、でもその分、静かなんですよ」

 そこは小さな一間だった。木の床と木の壁、小さな窓の側に一人用の木製ベッド。部屋の中央には丸いテーブルと椅子が一つ。

「椅子、ちょっと壊れかけてますけど予備を出しますので、それも使ってください。わたしはベッドにでも座りますから」

 テキパキと椅子を出し、三つのカップにお茶を注ぐ。どうぞとテーブルに置かれたお茶からは、優しい香りがした。

「改めて、お礼を申し上げます。わたしは大神殿で巫女を務めております、ターシャ・キリエと申します」

 ベッドの縁にちょこんと座った女の子が頭を下げる。

「私はハクラギ。こちらはクロウだ。……すまないが彼は事情があって声が出なくてね」

 紹介されたので俺も頭を下げる。女の子は「こちらこそ、気が付かずにすみません」と慌てたように言った。

 とりあえず、一旦みんなでお茶を飲む。お茶好きのハクラギが喜んでいる。好みの味らしい。よかったね。可愛い。

「君は街から出ることが、よくあるのか?」

「そうですね。位が低い巫女は、修行として近くの村へ祈りを捧げに行くことが多いです」

「……そういえば、昨日もそんなことを話していたな」

「はい。小麦の生育が良くないと嘆願があった村に、豊穣の祈りを捧げに行った帰りでした」

 彼女の話によると、下っ端巫女は遠征が多く、昨日も祈りを終えて神都に戻る途中だったのだと言う。ところが街まであと少しという所で矢をかけられ、あっという間に馬車を囲まれてしまったと。

 護衛の人間たちの遺体は、昨日の親切な兵たちによって街まで運ばれ、清められた後にそれぞれの家に戻されたらしい。

 今までは魔物に襲われても撃退できていたそうなので、黒ゴブリンは彼らにとってそれだけ強敵だったということだ。

「それでその……大神殿に戻って報告したのですが……。命の恩人のお二方のご容貌をお伝えする際に、ハクラギ様のお姿の話をしてしまいまして……」

 ほうほう、そこに繋がるか。

 と言うことは、さっき通りで会ったのは偶然じゃないな。


 彼女は、俺たちを探していたんだ。


「そうしたら、ルミエル様が興味を持たれて探しに出られてしまって」

 ルミエル……?あぁ、あいつか、ママ上の眷属の拷問大好きパンイチおじさんと同じ目をした神人。

「エリシウムヴェイル様に選ばれた神人は、この神都にさえルミエル様お一人しかいらっしゃいませんから……。ルミエル様だけでなく、神官たちも皆お二方を探されているのです」

 申し訳ありません、と頭を下げられる。

「……黒ゴブリン討伐の報酬を辞退されたということは、神都であまり目立ちたくなかったのではないかと考えまして。お二方がルミエル様から『祝福』を受ける前にと、お声をかけさせていただきました」

 ——……ん?

 今、気になる点があったな。

 後で聞こう。

 ズズッとお茶をすする。ハクラギの好みの味みたいだから、何ていう茶葉かあとで聞いておこう。

「……そうか、気を遣わせてしまったようだな。たしかに、君の言う通りあまり目立ちたくはない」

 答えるハクラギの声が優しい。目立ちたくない理由が、人界征服コンビだから、だとしても。

「だが昨日、その『ルミエル様』には会ってね。彼も驚いていたよ」

「えっ…!」

「クロウを助けてくれたらしい。大神殿にいると聞いたから、改めて礼をするために向かっていたところだったんだ」

 ハクラギの話は本当だ。宿を出た俺たちは、実際大神殿に向かっていた。まさかこんな、いきなり中に入るとは思ってなかったけど。

「……そうだったんですね。……あの、……大丈夫でした?」

 ……また気になる言い方をしたな、この子。

 あの見た目がハクラギ色で中身が神にそっくりな神人には、かなり裏がある。腹の中に残酷な一面を隠し持っている。けれどそれは人間には見抜けないほど、巧妙に隠されている。バレてないと思っているから、本人もあのキャラで通してるんだろうし。

「……大丈夫、とは?」

 やっぱりハクラギも、そこ気になったか。

「あっ!いえ!別に」

「あの神人の中身が、優しげな態度とはまるで違う点かな?」

「——…!」

 一気に踏み込んだぞ。そして彼女もそれを知っている。

 ……何者だ、この子。

「警戒しないでくれ。そこそこ場数を踏んできたせいで、人を見る目があるというだけだ」

 そしてハクラギは緩急の付け方が上手い。かっこよくて強くて頭もキレるとか、大好きすぎる。

「あまり治安が良くない所の出身なものでね。恥ずかしい話だが、神都や『ルミエル様』についても詳しくないんだ。よかったら色々教えてくれないか?」


 その言葉に、女の子は真正面からハクラギの目をじっと見つめた。

 

 しばらくしてから、「信じます」と肩の力を抜く。

 そうして、俺とハクラギを交互に見た。

「わたしの『異能』は、嘘を見抜きます。今までのハクラギ様の言葉に嘘はなかった。……だから、信じます」

 ——……おっ、と。

 これは、…ひょっとしたら危ないところだったか、俺たち。

「……嘘を見抜く、か。なるほどそれで『ルミエル様』の二面性に気付いたと」

 驚いた顔を隠すことなく、ハクラギが問い返す。

 頷いた女の子は、目の前に急に苦手な虫が飛んできた時みたいな顔をしていた。

「アイツ、全部の言葉が嘘だから、ほんとガチでクソキモいです」

 口調、そっちが素なんだ。

「あっ、でもわたしの異能はみんなには内緒なんです。嘘を見抜くなんて、集団生活の中じゃ面倒事しか起きませんし。ルミエル様が嘘まみれでキモすぎるとか、周りに言ったとしても絶対信じてもらえませんし」

 俺、結構この子好きだ。あの神人を本気で嫌がってるところとか、気が合う。

 ノートに『君の性格、好き。仲良くしよう。あの神人、めちゃくちゃキモいよね』と書いて見せる。

 まじまじとそれを見た女の子は、「はい!めっっちゃくちゃキモい!」と元気よく笑って答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ