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Reborn ― ロイが読み解く真実 ―  作者: ラビリンス
ロイが気づき始める編
8/11

8.幸せを見つけて

(この三枚の暗号は、どれも童話が由来だ。

二枚目と三枚目は分かった。でも一枚目だけが分からない。

――「私の好きな言葉」って、何だ?)


「ロイ、暗号は解けたか?」

スティーブが尋ねる。


「あと、もう少しかな」


「何が分からないの?」

ルイーザが首をかしげる。


「一枚目なんだ。『私の好きな言葉』っていうのが分からなくて……。

リチャードさん、グウェンちゃんがよく使っていた言葉って分かりますか? 口癖とか」


「ああ。グウェンはよく、ことわざを口にしていたね。

あとは本を読んで、気に入った言葉を繰り返したりしていたかな」


(ことわざ……)


「豆と雲は『ジャックと豆の木』、銀と星は『星の銀貨』……なるほど」


ロイはニヤリと笑った。


「何か分かったみたいだな」

スティーブが言う。


「もう分かったの? 私、全然ついていけないんだけど」

ルイーザが言う。


「10歳の女の子が考えた言葉だよ。難しく考えすぎないで。

一枚目は少しひねってあるけどね」


三人は黙り込む。


「一枚目は後回しにして、二枚目から整理しよう。

文章の中に数字が出てくるだろ?」


ロイは二枚目の紙を指さした。


「2歩進む、7歩進む、9歩進む、14歩戻る。

それを、このアルファベットに当てはめる」


「最初はA。2歩進むとB。

Bから7歩進むとI。

Iから9歩進むとR。

Rから14歩戻るとD」


「つなげると……Bird」


「さらに、文字が青色で書かれている。

だから答えは Blue Bird(青い鳥) だ」


「『幸せの青い鳥』を指しているんじゃないかな」


「ああ……その本なら、娘のお気に入りだったよ」

リチャードが目を伏せて言う。


「どうやら正解みたいだな」

スティーブがうなずく。


「でも、どうしてこれが童話だって分かったの?」

ルイーザが聞く。


「文章の流れが『青い鳥』にそっくりなんだ。

男の子と女の子が、幸せの象徴を探して旅に出る。

途中で人に出会い、最後に“戻った場所”でそれを見つける」


「探していた幸せは、ずっと身近にあった――

まさに『青い鳥』そのものだろ?」


「なるほど……ヒントだらけだったわけだな」

スティーブが感心したように言う。


「三枚目はどう?」

ロイが続ける。


「人魚姫、赤い靴、眠り姫……共通点が分からないわ」

ルイーザが眉を寄せる。


「それぞれの結末を思い出して。

これは遺書なんだ。そしてヒントは

『私はお父さんの体が心配です』」


「人魚姫は、最後に泡になる」

「赤い靴は……両足を失う」

「眠り姫は、生きているのに死んだように眠る」


「リチャードさん、ここまで聞いて何か気づきませんか?」


「どれも……悲劇だということぐらいしか」


「そうです。でも、それが答えなんです」


(酒を飲みすぎて、煙草を吸って、体を壊すような生活をしていた。

グウェンちゃんは、死ぬ直前まで、あなたの“これから”を心配していた)


「……グウェンは、私の人生が悲劇になることを心配していたのか」


「その通りです」


「本当に……優しい子ね」

ルイーザが呟く。


「でも、どうしてわざわざ暗号に?」

スティーブが言う。


「その前に、一枚目の答え合わせをしよう」


「雲と豆、星と銀貨、姫とりんご、少女とマッチ。

全部、童話だよな?」

「そう」


「重要なのはタイトルだ。

ヒントは『私の好きな言葉』。

グウェンちゃんは、ことわざが好きだった」


「答えは

Every cloud has a silver lining

――『どんな雲にも銀の裏地がある』」


「グウェンは、その言葉をよく口にしていたよ」

リチャードが静かに言う。


「三枚の暗号を合わせると、こうなる」


私がいなくなっても、希望を失わないで。

身近な幸せを見つけて。

どうか、体を大切にして。


「……実に、あの子らしい」


「暗号にした理由は、

“忘れられないように”するためです」


「考え続ければ、思い出し続ける。

それが、グウェンちゃんの願いだったんです」

「……そうか。確かに、私はずっとグウェンのことばかり考えていたよ」

リチャードは、ゆっくりと息を吐いた。


「体に気をつけて、か……思い当たることはたくさんある。

毎日酒を飲んで、煙草を吸って、料理もろくにできないから偏った食事ばかりだ」


少し自嘲気味に笑う。


「昔は、こんな生活じゃなかった。

妻が生きていた頃は、毎日食事を作ってくれてね。

グウェンもよく手伝ってくれていた」


「料理も上手になって、

私が仕事から帰る前には、夕飯も風呂の準備も終わっていた」


「妻を亡くして、ひどく落ち込んでいた私を、

あの子はいつも励ましてくれたんだ」


――「私がずっとそばにいるから、大丈夫」


「グウェンだって、悲しいはずなのにね……」


部屋の空気が、静かに沈む。


「そんな毎日が続いたある日、あの子は病気になった。

それでも、こう言ったんだ」


――「必ず治るから、心配しないで」


「だが、容体はどんどん悪くなっていって……

もう助からないと分かった時、グウェンは――」


声が震える。


――「ずっと一緒にいるって言ったのに、約束守れなくてごめんね」


沈黙が落ちる。


「……私が悪い。私のせいで、あの子は……」


「違います」


ロイが、はっきりと遮った。


「グウェンちゃんは、

あなたに自分を責めてほしくて遺書を残したわけじゃありません」


「奥さんを亡くして、深く落ち込んでいたお父さんを見ていた。

だから、自分までいなくなったらどうなるんだろうって――

それが、怖かったんです」


「優しい娘さんは、

“自分がいなくなった後”のあなたを心配していた」


「だから、気を強く持ってほしかった。

ちゃんと生きてほしかったんです」


「……そうだな」


リチャードは、静かにうなずいた。


「娘の遺言に従って、酒も煙草もやめるよ」


「それと……『幸せの青い鳥』を読んでみてください」

ロイが言う。


「グウェンちゃんのお気に入りだったはずです。

暗号にまでして伝えたかったぐらいですから」


「ああ。今夜、読んでみよう」


「三人とも、今日はありがとう。

おかげで、娘の想いを受け取ることができた」


「いえいえ。頑張ったのはロイですよ」

スティーブが言う。


「そうよ。一番の功労者だわ」

ルイーザも続ける。


「ううん。これは、みんなで解いた暗号だよ」


「そうだ、ロイ君。報酬の本を選ばないと。

好きなだけ選んでいい」


「あ……そういえば、そうでしたね」


思い出したように言い、ロイは一瞬固まる。


(……え? 十冊じゃなかったの?)


「……いいえ。報酬はいりません」


「本は大好きですけど、今回は貰わないことにしました」


「本当にいいのかい?」

「大丈夫です。暗号を解くことで、たくさん勉強になりましたから」


「スティーブ君とルイーザちゃんは?」


「俺も遠慮します」

「私もです」


(三人とも、同じ気持ちだった)


「……よかったら、また来てくれないかな。

一人だと、少し寂しくてね」


「はい、喜んで」


三人は声をそろえた。



三人が帰った後、リチャードはしばらくその場に立ち尽くしていた。

静まり返った家の中で、自分の呼吸の音だけがやけに大きく聞こえる。


やがて、棚に手を伸ばした。


一冊の本を引き抜く。

『幸せの青い鳥』。


指先が、かすかに震えた。


「……読むって、約束したからな」


誰に言うでもなく呟き、椅子に腰を下ろす。

ページを開いた瞬間――胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。


――昔の記憶が、堰を切ったようによみがえる。


――「お父さん、お帰りなさい。ご飯できてるよ」

――「それとも、先にお風呂入る?」


明るい声。

当たり前だった、あの時間。


――「じゃあ、ご飯にしようかな」

――「分かった。すぐ用意するね」


小さな背中が、忙しなく台所を行き来する。

あの頃は、それがどれほど無理をさせていたのか、考えもしなかった。


――「ねえお父さん。童話ってね、

悲しい結末もあれば、ハッピーエンドもあるんだよ」


――「私、将来こういう話が書ける人になりたいな」


「……ああ」


喉が詰まり、声にならない。


――「なれるさ。グウェンは優しい子だから」


そう言いながら、

本当は自分が一番、その言葉に救われていた。


――病室。


――「私、病気になったけど大丈夫。

だって、お父さんを一人にできないもん」


無理に笑った顔。

小さな手。


――「……私、もうダメなんだよね」


ページが、見えなくなる。


――「泣かないで。

Every cloud has a silver lining。

私がいなくても、お父さんは大丈夫」


「……グウェン……」


本の上に、ぽたりと涙が落ちる。

一滴、また一滴。


「お前は……幸せだったか?」


声が、かすれる。


「助けてやれなくて、すまなかった……」

「守ってやれなくて……本当に、すまなかった……」


肩が、小さく震えた。


しばらくして、リチャードは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「……でもな」


震える声で、続ける。


「もう、大丈夫だ」

「ちゃんと……生きていく」


「お前が心配してくれた“その先”を、歩いてみるよ」


「新しい友達も、できた」


空を見上げる。


「だから……天国で、お母さんと一緒に」

「もう少しだけ、見守っていてくれ」



ロイたちは、三人一緒に帰り道を歩いていた。


「リチャードさん、『青い鳥』読むかしら」

ルイーザが言う。

「今度、感想を聞いてみましょう」


「ロイはどう思う?」

スティーブが尋ねた。


「アンデルセンが言ってたんだ。

『幸せとは、気づく心を持つことだ』って」


「アンデルセンって、童話作家よね?」

ルイーザが確認する。


「うん。

『人魚姫』や『マッチ売りの少女』、『みにくいアヒルの子』を書いた人だよ」


「リチャードさんなら、きっと大丈夫だと思う。

だって『青い鳥』は、身近なところに幸せがあるっていうメッセージが込められているから」


「……幸せ、か」

スティーブがぽつりと呟く。


「幸せね……」

ルイーザも、小さく息を吐いた。


三人は、それぞれの思いを胸に、しばらく黙って歩く。


やがて、ルイーザが思い出したように言った。


「ねえロイ。どうして本をもらわなかったの?」


「それはね」

ロイは少しだけ考えてから答える。


「思い出の詰まった、あの家から

何も奪いたくなかったんだ」


「たとえ、本一冊だったとしてもね」


「でも、これはあくまで僕の考えだよ。

二人が本をもらうって言っても、僕は止めなかったと思う」


「そうだったのか」

スティーブが苦笑する。


「俺はてっきり、どこか悪くなったのかと思ったぞ。

ロイが本をいらないなんて、絶対おかしいって」


「私も思ったわ。

どこかで頭でもぶつけたのかって」


「ひどいなあ、二人とも」


ロイが抗議すると、三人は顔を見合わせて笑った。


――幸せは、きっと身近な日常の中にある。

それに気づけるかどうかは、人それぞれだ。

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