襲われている男の子
「お父様、お兄様。私たちもお祭りに行きましょ」
ステージから降り、裏に向かえば、お父様とお兄様が座って待っていてくれた。
私は毎年、初日はステージでの衣装のまま、お祭りに参加している。理由は単純。お母様がそうしていたから。
「ルルラティア様!今年も素敵な舞をありがとうね!あ、領主様!坊ちゃんまで!今年は家族水入らずでお祭りですかい!」
「あ、パン屋のおじさん!」
「これ、あげるよ!新作のパンだよ!」
そう言ってパンを3つ差し出してきたのを反射的に受け取ってしまった。
「えっ、悪いわ!お金はちゃんと払います!」
「いいんだよ、領主様はいつも私たちのことを考えてくれていますし、坊ちゃんは困った時はいつも助けてくれている。ルルラティア様からは今年も素敵な舞を見せていただけた。あの舞に、毎年救われているんですよ。領民は。」
そんなことを言われては、こちらもしつこく出ることはできない。
「では、ありがたくいただきますね。ありがとう」
パンをありがたく受け取り、お父様とお兄様と一緒に食べる。
「ん、うまいな」
「ああ、ここのパンにはいつも驚かされる。」
「美味しいですね!」
持った感じだと、硬めのパンだと思ったが、カリッとしていたのは外だけで中はふわっふわ。
「次は何があるかな!早く行きましょ!」
ワクワクした気持ちには抗えず、お父様とお兄様の手を引き歩きはじめる。
その後は、道行く先々でいろいろなものをいただいた。お代を払おうとしてもどうしてか受け取ってもらえない。
でも、領民の気持ちを無碍にもできないので、領地運営で恩返しをしていこうと心に決める。
そうして、あらかた屋台を回り終えた。
私たちの腕の中には、溢れかえるほどのおみあげが抱えられていた。
「・・なせ・・・」
何か、祭りの喧騒の中で何かの声が聞こえた。
「今、何か聞こえませんでした?」
「いや、聞こえなかったが。」
お兄様には聞こえなかったようだが、絶対に空耳なんかじゃない。
お父様も、何やら周囲を気にしているし、きっと何かあったはず。
「クロス」
「はっ」
お父様が声をかけると、影から家の影たちが姿を現した。かと思えば、マリアも姿を現した。
「お嬢様、おみあげは私がお預かりいたします。」
とりあえず、マリアにおみあげを預け、私はお父様のそばによる。
「・・はなせ・・・!!」
今度ははっきり聞こえた。
「お父様、あっち!」
私は、声のした方に父の手を引いて向かう。
「ルル、まて!お前はマリアたちと屋敷に!」
お父様はそういうけど、ここでお父様から離れる方が危ない気がする。
お父様の後ろにはお兄様もついてきてるし、なおさら二人とは離れたくない。
声のする方に向かってみれば、一人の男の子が、男に囲まれて捕まえられていた。
「お前たち、何をしている。」
「ルル、こっちにおいで。」
お父様が私を後ろに隠し、お兄様にバトンタッチされる。
「ここがフェルリテ領だとわかっての蛮行か。」
「なんで辺境侯爵がこんなとこにいるんだよ、、!おい、ずらかるぞ!」
そう言って逃げ出した男どもを影たちが追っていく。
「ちょっと、大丈夫?!」
男どもは影に任せ、私は囲まれていた男の子に近づいた。
「あ、こらルル!」
「お兄様、彼、怪我だらけ!体も熱いし」
熱があるのかもしれない。
どうしてかわからないけど、このまま放っては置けない気がして、お兄様とお父様に目を向ける。
「一旦屋敷に連れていくか。」
お兄様が彼を抱き抱え、私はお父様に抱き抱えられた。
「彼、大丈夫かな?」
「彼の体力次第だね。」
お父様のいうとおり、あとは彼の体力次第。彼がの治癒能力がどこまで残っているか。
見た感じ、彼はフェルリテ領の出身ではない。肌の色が、隣国の者と同じ色だ。
ルルーシア王国はどちらかといえば、白っぽい肌の色が基本だ。
それに対して、隣国は肌の色が黒い、褐色系が多い。
隣国はルルーシア王国を敵対視しており、隣国では、肌の色で差別もされると聞いたことがある。
だが、敵対視しているのは隣国だけで、こちらとしては、移民も快く受け入れているのが現状だ。
フェルリテ領は隣国と接している領地のため、よく移民も見かける。
「見た感じ、彼は国から逃げてきたか、はたまた孤児か」
「逃げるなんて。なぜ?」
「移民として国を出ることを、隣国は許可していない。」
なるほど。そりゃ、追われるわけだ。
「助けたい。このまま見過ごしたくない」
「わかったよ。ルルラティアがそういうなら。」
◇◇◇
祭りの初日から3日が経とうとしていた。
昨日で、祭りは終わり、あの時助けた少年は今朝、ようやく目を覚ました。
話を聞いていたら、いろいろなことがわかった。
彼の名前はアイン。歳は9歳。
隣国から出る時に国兵から追われ、その時に両親は亡くなったそう。
なんとか一人逃げてきたけれど、兵士が追ってきて、捕まりそうになった時に私たちがアインを助けた。
「アイン、これから、行くあてはあるの?」
「・・・」
無言。これはないってことね。
「お父様がね、もし行く宛がないなら、ここで私の侍従として働かないかって」
「え・・・」
私には専属メイドが二人だけ。お父様はそろそろ、私専属の侍従兼護衛が欲しいらしい。
「俺なんかで、いいのか。」
「アインがいいのよ。」
お父様から、もし、私が欲しいなら伝えろと言われた。だから、これは私の意思でもある。
アインは、目が覚めて一発目に私に威嚇するでもなく、感謝をしてくれた。
敵か味方かの分別はしっかりついているらしいので、私としても仲良くしたい。
「ルルラティア様に、忠誠を捧げます。」
ベッドから降りて私が座る椅子の前に膝をついたアインは、突如としてそう宣言した。




