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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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見知らぬ少年との出会い

 クリスティアはあの純白の世界から抜け出し目醒めれば、自室のソファーにもたれかかっていた。

 いつ眠ってしまったのだろうかと夕日を眺めながらボーッとしていると、タイミングを見計らったかのように誰かが扉をノックする。

「はい、どうぞ」

 扉に向かって声を投げかけると、ゆっくりと扉が開いていけば彼女の昔からの付き合いである四十字騎士団の面々と一度この国を裏切り内側から崩壊させたバルデン司祭、そしてかつてはこの国で腐り豪遊をしていたが今では英雄として民から暑い信頼と人気を誇るハミルト公爵だった。

 その珍しい組み合わせにクリスティアは瞳をまばたかせる。

「お久しぶりですなクリスティア聖女様」

 貴族を統べるハミルトが恭しくお辞儀をする。

「はい、ハミルト公お久しぶりですね。見ない間に体格が変わられましたね」

「いやはや、日々の鍛錬と仕事に精を出していたらこのような肉体を手に入れておりましたよ。お陰でクリスティア様から任せられております領地は安寧です」

 冗談めかしく可笑しそうに笑うハミルトと対照的なバルデンはか細い震えるような声で喋りかける。

「その、申し訳ありません。私のような者も混ざってしまって」

 バルデン司祭は居心地が悪いのか瞳を伏せながらも肩身を狭くしていた。

 バルデンの犯した罪は決して許されるべきものではない。特に目の前にいるクリスティアからしたら両親の仇でもある。それでも、彼はそれを後悔し続け日々雑務や布教活動に精を出し彼なりに罪を償おうとしていたのはクリスティアも知っていた。

「バルデン司祭。貴方は十分に自身の過ちを深く反省し、日々仕事に努力をしているのは知っています。私は聖人君子ではありません。ですから正直に言いますとお父様とお母様の事を考えると未だに貴方を許しきれていません」

「はい……」

「ですが、貴方もまた私にとって大切な民であり臣下です。いつか本当に許せる日が来るまで共に頑張っていきましょう」

「クリスティア様……」

 バルデンは元より信仰に厚く、今もその証拠に膝を折りその場で祈りを捧げている。これは、もう癖というものなのだろう。

「バルデン殿、聖女様を敬う気持ちは素晴らしいですけど、そのような場所で跪かれると邪魔です」

 四十字騎士団隊長ステラ・アイリスに諭されバルデンはゆっくりと腰を上げ、申し訳ないと頭を指で掻く。

「それでステラ、今日はどのような集まりなんですか?」

 バルデンとハミルトがいるのでつい聖女としての口調になってしまう。

「聖女様……いいえ、クリスティア。今日はこのメンバーで城下にある飲み屋にいこうという事になったんです。ですからクリスティアも是非ともって此方のお二方が」

 ステラの視線の先にはバルデンとハミルトが居た。

 クリスティアも折角の誘いを無碍に断ることはせずに、二つ返事で了承する。

 すでに店は決めてあり用意がよく人数分の予約まで取ってあるとの事で、身支度を適度に整え、城下の繁華街に足を運ぶ。

「あっ、聖女様。その……此方になります」

 店の手配をしたのはバルデンらしく、貴族趣味の店ではなく普通の大衆酒場といったような場所だった。

「申し訳ありません。その……聖女様には少々不釣り合いかとは思いますが、民からの評価が高かったもので」

 一国の王をこのような場所に連れてきてしまった事に申し訳無さげな表情を浮かべているが、クリスティアはあどけない少女の笑みを見せる。

「ふふ、バルデン司祭なかなか賑わいがあっていいお店ですね。貴方の働きには感謝していますので、どうか、普通に接していただけると嬉しいのですが」

「えっ!? あぁ、はい」

 ようやくバルデンの肩の荷が下りたかのように少しだけ表情が柔らかくなったところで、ハミルトが割って入る。

「おいおいバルデン。そんな所でボーッと立たれたら店に入れないではないか」

「そうだぜ、バルデン。久しぶりに酒を飲むんだからお預けは無しだぜ」

 酒に飢えたグレイもバルデンを急かせる。

「酒……か。フッ……今宵は楽しめそうだな聖なる乙女よ」

 先程まで珍しく黙っていたシンもようやく口を開き、入店しては店員に席を案内され皆腰を落ち着かせては、案内してきた店員にはじめの一杯として各々得意な酒を注文する。

「いやぁ、シン君と言ったかな? キミは先の大戦で大いに活躍したみたいじゃないか。是非ともこの目でその武勇を目に収めておきたかった」

 武芸の話しに目がないハミルトは早速シンに絡み始める。

「俺はただ、奴の咎を少し背負ってやっただけだ。活躍と言えば俺なんかより聖なる騎士であるジークリートの方だぜ」

 シンは遠慮がちに笑い、会話の中心人物をジークリートに向けさせる。

 余計なことをしてくれたなと目で訴え掛けるが、シンはそれを見事にスルーし酒が来るまでの間ジークリートはハミルトに執拗に絡まれていた。

 運ばれてきた酒が皆の前に置かれ、それぞれグラスを手に取り掲げる。

「乾杯!」

 女性陣は果実酒を頼み、味を楽しみながら共に運ばれてきたつまみを口に運んでいくが、それと対照的なのはジークリートとバルデン司祭を除いた男性陣だった。乾杯をした瞬間に店員を呼び出し、メモを手にクリスティア達の卓に付く前にグラスの酒を一気に煽りては幸せそうな楽しげな表情を浮かべる。

 普段は業務に励み、今その働きに対するご褒美を堪能している。そんな顔だった。

「お姉さん、えっ……と、取り敢えず酒精が強いものを3つお願いします!」

 一杯飲み干しただけでグレイの顔は朱色に染まり始め、陽気な声で勝手に3人分の酒を注文する。

「最初から飛ばすなグレイ。いいぜ、その酒付き合ってやるぜ!」

「はっはっは、酒の味も分からぬ青臭いガキどもに飲み比べで俺が負けるはずはないだろう」

 何故か飲み比べの雰囲気に一変し、運ばれてきた少々匂いが強い酒を3人は勝負の開始を合図するかのようにグラスをもう1度打ち鳴らし豪快に喉に流し込む。

「あっ……あのぅ。そんなに勢いよく飲まれて大丈夫なんですか?」

「バルデン、気にするな。倒れても吐いても自業自得だ」

「まぁ、そうなんですが……」

 心配そうに大酒飲み達に視線を向ける。

「バルデン司祭は私たちと共に自分のペースで飲みましょう」

 ステラの一言に2つ返事で頷き、つまみを口に運びながら酒を喉に流していく。

「クリスティア、婚姻はどにように考えているんだ?」

 突如ジークリートに婚姻という普段考えたことのない話しを振られ、口に含んだ果実酒を誤飲してしまい大いにむせる。

「ケホッ……ゴホッ、私は……エホッ、そそんな事考えてないよ」

「だが、クリスティアはこの国の王なんだ。世継ぎを産まねば国は繁栄するどころか衰退していくぞ。まさか気になる相手もいないというわけじゃないだろ?」

 気になる相手……。

 まだ飲み始めだが確実に脳はアルコールでいい感じに回転し始めているクリスティアはその単語を聞くと瞬間的に条件反射のように1人の男性を思い浮かべる。

 自分で初めて作った友人。美しい銀色の髪と優しい翡翠色の双眸を持つ魔王の姿。

「ふふ、言葉にしなくても分かるわよクリスティア。第3魔王アルベール・ハイラント・ルードリッヒでしょ。違うかしら?」

「えぇ!? ど、どうして?」

 素っ頓狂な声を上げてしまい、ステラは可笑しそうに笑う。

「図星ね。だって、彼と会話している時のクリスティアは本当に楽しそうだったから、もしかするとってね」

「魔王様ですか。確かにあの方は美しく人間に優しい御仁でしたね。私はとても良いと思います。それに、聖女様が魔王様と結ばれれば国は一段と強い結束が生まれるのではないでしょうか?」

「確かにな」

「えっ……で、でも私なんかじゃ……あっ、店員さん少し強いお酒ください!」

 胸が高鳴り、この状況を打開しなくてはと酒に逃げようと強い酒を頼み、後は酔に任せてしまおうと運ばれてきた透明の液体を馬鹿騒ぎする男性3名と同じように一気に煽り飲み干す。

「ちょっと、クリスティア!?」

 ステラが流石に止めようとするが、グラスには既にいってきも酒は残ってはいなかった。

「あるぇ?」

 視界がブレて全てのものが重複しているように見える。脳は完全に麻痺したかのように思考を拒絶し、迫り襲う睡魔に任せてテーブルに突っ伏してしまう。

「せっ、聖女様!?」

 バルデンが駆け寄るがただ眠ってしまっただけだとわかると安堵に胸をなでおろす。

「少々寝かせておいてやろう」

 最近は落ち着いてはきたが、今までの激務に心身共に疲弊しているのは誰の目にも明らかだった。

 それでもなお、それを隠し民に臣下に微笑みという勇気を振りまき続けてきた彼女に少しでも楽しんでもらおうというのが教本来の目的だった。


 夢の世界に誘われたクリスティアは自分がいる場所に視線を巡らせていた。

 いつも見る歪んだ純白世界では無く、澄んだ青空に柔らかそうな白い雲がゆっくりと形を変え宙をゆるやかに流れている。

「久しぶり、クリスティア」

 聞きなれない声は背後から聞こえ振り返れば、やはり見たことのない少年が立っていた。

 少年の出で立ちは奇異で真っ黒な髪から推測すれば東洋の子なのだろうと推測できるが、彼の身に纏う衣装はどの国でも見たことがなく、とても綺麗でしっかりとした作りなのが見て取れる。こんな技術を持つ国があるのなら有名になるはずだ。

「えっと、ごめんね。たぶん初めてじゃないかな?」

「?」

 少年は小さく小首を傾げる。

「あっ」

 少年が首を傾げた時に、前髪によって完全に覆われた右目が姿を一瞬だけ現し、黒色の左目とは神秘的な美しさを放つ淡い紫色で、思わず声が漏れてしまった。

「どうしたの?」

 抑揚なく喋る彼から感情や一切の情報を得ることができずに少々困っていたが、彼は何を思ったのか今度は小さく頷く。

「大丈夫だよ。必ず僕が……僕たちが助けてあげるから」

 助けるとは一体どういう事なのか。この状況を全く把握できないまま、時間が流れる。

「もう、泣かないで済むようになるから」

「それってどういう事なの?」

 少年は空を見上げる。

 クリスティアもそれに釣られ見上げるが一面に広がる青空しかなく、再び視線を彼に向けるといつの間にか少年の姿は何処にも存在していなかった。

「僕たちが助けるってどういう事なんだろう……これも邪神と何か関係があるの?」

 一件頼りなさそうにも見えたが、彼の大丈夫という言葉に何故か心が軽くなった気がした。

 地面に咲き誇る翠の草々を撫でる風がとても心地よく、何もない場所だがとてもリラックスでき、風の涼しさや草々の揺れ擦れる音、日差しの温かさその全てが現実のようにリアルだった。

 彼とはまた何処かで会えるんじゃないかと、そんな気がしてならない。

 もし、その時が来たらもっと色々と聞いてみようと決め、その場で横になりその身で自然の温もりを感じながら瞳を伏せる。


こんばんは上月です。

外に少し出ただけでものすごく暑い……(^_^;)

最近になってしょうやく蝉の鳴き声や綺麗な夕日を見ていると夏を実感しますね。

さて、次回はクリスティアとアルベールの話しとなります。投稿日は7月12日の火曜日となりますので、よろしくお願いします^^

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