魔王の結束と意志
聖域から即刻帰宅したアルベール達は中央教会ヴァレンリーア城の応接間に全魔王を招集させていた。
「やれやれ、クルト殿。いったい私たち全員を集めてなにを始めようと言うんですか? 私はこう見えてもあまり暇じゃないんですよ」
「暇じゃないってどの口が言うんだかな。俺にはエリーザの人形に話しかけてはにやけてるようにしか見えなかったぜ」
「うわ~アズデイルまだそんな事してたんだ……」
シラーから告げられるアズデイルの多忙にエリーザは一歩二歩とアズデイルから距離を置く。
「エリーザ!? 違うんですよ。これはですねぇ、その……シラー貴方はなんでいつもいつも余計なことを言うんですか!!」
「はぁ? 知らねーよ。だったら言われて困る事をしなきゃいいだけだろ?」
「うぐっ……」
アズデイル自身自覚はあったらしく、言葉に詰まる。そんな3人の漫才を静かに見守っていたクルトがそろそろ話しを始めようと、一歩前に出ては皆の視線を集める。
「漫才もその辺にしといてくれるかな? これから大切な話しがあるんだ」
一同を見渡し、一人一人が頷くのを確認するとようやく本題に入る。
「これから現実味も無くお伽噺のような話しをするが、それは全て現実で近い将来訪れるであろう災厄の話しだ」
いつになく真剣な表情にエリーザは固唾を飲む。
「そうだな、まずは常世の時代についての話しからはじめるとしようか」
かつて、神々が栄し繁栄の時代があり、クルトとアルベールはその神々の魂の残骸であるという事。そして、その時代に破滅をもたらした邪神は今我々を繋いだクリスティアと容姿が同じこと。さらにはその邪神がクリスティアに干渉し世界を滅ぼさせようとしている事を事細かく話した。
正直、皆の反応がどのようなものであるかは分からない。戸惑いを見せる者、冗談話だろうと肩を竦めるもの、既に先を見据え覚悟を決めているもの、それぞれだった。
「俺からも1ついいか?」
灰色の髪に鋭い肉食獣のような瞳を持つシオンが片手を軽く上げる。
「構わないよ」
クルトと交代するようにシオンは一歩前へ踏み出す。
今までクルトに注がれていた視線はシオンへと置き換わり、何を話すのやらとエリーザは何とも言えない微妙な表情をしていた。
「俺はつい最近までクリスティアの護衛でフィールに行っていたんだが……」
城下街にて異様な雰囲気を放つアンティークショップがあり、そこにはかつて感じたことのないほどの力を有した男が存在し、彼は世界を救いたければクリスティアを殺すべきだと世界とクリスティアを天秤に掛けさせシオンを試した事。全力で立ち向かったにも関わらず一撃すら満足に与えることなく敗北してしまったことを包み隠さずありのまま起こった真実を告げた。
その話の内容に流石にエリーザやシラー達も茶々を入れる気はなくなり、先程までまったく信じていなかったアズデイルの表情にも変化が訪れ、ようやくその事態の深刻さに気付き真剣な面持ちになる。
「正直あのパラノイアって男は尋常じゃなく強ぇ。この事を認めんのは癪だが、冗談抜きに言ってアイツとやりあえんのはアルベールかクルトくらいだと俺は思ってる」
あの時の敗北の記憶が脳裏で拒んでも勝手に再生される。
忌々しいあの天使を従える男の姿と意味不明な言葉がシオンを苛立たせる。
「へぇ~シオン負けちゃったんだ~、ふ~ん。ねぇねぇ負けたときどんな気持ちだった?」
シオンの心境を知ってかエリーザが悪戯好きな笑みを浮かべながらシオンの脇腹を指で小突く。
「……」
「ねぇってば~シオン、黙ってないで教えてよぉ。負けた感想を知りたいな~」
「うっせーぞこのクソ女ッ! 人が黙って大人しくしてりゃ付け上がりやがって、そんなに知りたいなら今此処でその身を持って教えてやってもいいんだぞ!」
「きゃー、シオン怖い~」
沸点の低いシオンの怒声にエリーザは楽しげに両手を上げアルベールの背後に隠れる。
「アルベール助けて~」
「む? いや、だがこれはエリーザが悪いのでは?」
「まぁね。シオン冗談だよ? そんな怒らないでよ」
エリーザは人通り楽しんだという感じに満足し、アルベールの背からひょっこり姿を見せる。
「……」
「シオン? えっと、無言で睨まれると本当に怖いんだけど……謝るからホント許してよぉ」
「別に本気で怒ってた訳じゃねぇよ。テメェのバカ騒ぎに少し付き合ってやっただけだ」
シオンは溜息を1つ溢しては脱線した話題の進路を修正する。
「そんで、その邪神ってのは、その俺を倒したやつより断然強ぇはずだ。そんなのに正面からぶつかろうってんだ、1人2人の死人は覚悟してんだろうな」
シオンの鋭い瞳が皆を見渡す。
「お……れの……答え、決まって……いる……クリスティアは友達……だったら、悲し……ませない」
「まぁ、お姉さん的にはあの娘はどうでもいいけど、まだ遊び尽くしてない世界を壊されたくないだけ」
リリアンとヘルは己の素直な意思を皆に示す。
「私は魔王という血の繋がりがないけど掛け替えのない家族とお友達のために戦う」
「私が行動する意味は世界が失われようと変わりません。それはもちろんエリーザの為です。エリーザが戦うのでしたら私も戦うだけです」
「俺はこの平和とそれを必死に築いたクリスティア達の努力をぶっ壊そうとする奴をぶっ潰すだけだ」
エリーザ、アズデイル、シラーも当然のように答えは一本に定まっている。
「聖域でも言ったけど俺は希望を失わせたくはないんでね。邪神には悪いが全力を持って打ち払わせてもらう」
「我も同意だ。クリスティアはわれにとって初めて出来た人間の友。友の涙なんて見たくはないのでな」
魔王の中での2強も揺るがぬ意志と闘士をにじませた言葉を吐く。
「そういうシオン。お前はちゃんと覚悟が出来ているんだろうな?」
クルトは茶化すようにシオンに視線を向ける。
「そんなん聞くまでもねぇよ。アイツは俺との約束を果たして魔族の迫害を消し人魔平等の国家を築き上げた。だったら、俺もその恩に報いるのは当然だろうが」
「ホントはクリスティアに恋しちゃったんじゃないんですかね」
ボソリと呟くアズデイルの言葉を発端にその場の空気は一転する。
「おい、アルベール?」
クルトが隣で異様な殺意にも似た気を周囲に撒き散らしていた。
「シオン、貴公とは後でゆっくり話しをしよう」
「はっ……えっ?」
普段見ぬ彼の姿にさすがのシオンも言葉を失い冷や汗が肌に浮かび上がる。
だが、こうしてこの場での魔王会議は満場一致での終幕となった。
クリスティアと世界を守らんと強大な力を持つ全魔王が立ち上がった。
こんばんは上月です。
次回はクリスティアが城下町で不思議な体験をする話しとなりますので、どうかよろしくお願いします。
次の投稿日は7月10日の日曜日になります




