夢の中の少年
必ず僕が……僕たちが助けてあげるから大丈夫だよ。
あのとき夢の中の少年が言った言葉が脳裏に焼付いて離れず、あれは単なる夢だったのかそれとも現実だったのかも分からないが、確かに感じた妙な安心感。
この事をアルベールやクルト達に話すべきか悩んだのだが、特に悪いものでもなさそうなので彼女の胸の内に秘めておくことにした。
「はぁ、世界を救うか私を救うか……ですか」
クリスティアは自室のソファーに座り、ぼんやりと開かれた窓から夜空を眺めていた。
先程まで皆と繁華街の酒場で酒を飲み交わして笑い楽しい時間を過ごした。と言ってもクリスティア自身は途中で潰れ眠ってしまたのだが、それでも、やっぱり皆が楽しそうにしている姿を見ているだけで十分楽しめた。
未だに残るほんのりとした酔いが眠気を誘う。
「ふぁ~そろそろ寝ようかな」
出来ればあの夢ではなく、先ほどみたいに安らかな心地の良い夢だったらいいなという願い、明りを消しそのままベッドに潜り込む。
室内をちきあかりが薄く照らし、夜の静寂と澄んだ風が心を落ち着かせてくれて、そのまま次第に意識は遠のき瞳を閉じる。
先ほどと同じ場所だった。
一面を緑の草原が広がり美しいほどの青空と白い雲だけしか存在しない世界。
「あっ」
正面にはクリスティアの事を知っていた少年が気持ちよさげに昼寝をしていたので、ついつい釣られてその隣りで横になる。
暑くもなく寒くもない。時折涼しげな風が吹き抜ける。そんなのどかな世界に今は謎の少年と2人きり。
「ん……来てたんだ?」
少年は上体を起こし隣で寝転がるクリスティアを無表情で見つめる。
だが、その無表情には冷たさや拒絶といった感情は感じられず、ただ感情表現が苦手なのだろうかと苦笑すると、以前してみたように彼は小首を傾げる。
「そんなに面白い事があったの?」
「えぇ、私のことを知っている私の知らない男の子に会えました」
「僕等は何回か夢の中で会ってるよ」
「そうなの?」
夢……。
最近の夢は絶対と言っていいほどあの純白の世界で1人、自身と同じ声が常に囁く。そういう夢だった。
「最初はいっぱい泣いてたよ。ごめんなさいって謝ってた。でも、最近になって笑ってくれるようにもなったけど、今度は記憶がないの?」
彼自身困惑しているのだろうか、表情と感情を読ませない淡々とした口調から察するのは難しいが、なんとなくだが困っているんじゃないだろうかと直感した。
「どうなんだろう……私が今まで見ていた夢はとても怖い夢だったんだけど。その中で君に会ったことはないですよ」
彼はコクりと頷き、起こした上体を再び寝転がせる。
「人生は一度きりだから楽しめるうちにいっぱい楽しんだほうがいいよ。僕の友達がいつも言ってる」
「うん! 全くその通りだね。今を楽しまなきゃね」
彼に言われ、少し前向きになれた気がした。
なら、明日の業務は大臣達に丸投げして一日を楽しく遊び尽くそうと決意する。
大臣たちの驚く顔を想像するだけで、胸中は楽しみだと高鳴る。
「じゃあ、僕はもう帰るね」
そう言って少年は眩い光に包まれて消えていった。それと同時にこの草原の空間も薄れ消える。
室内を照らす日差しによって起こされる。
ベッドの中で大きく伸びをして、清々しいきぶんで ベッドから出ては洗面所で顔を洗い聖女としての衣服ではなく私服に着替える。
「よし! さっそく誰かを誘って遊びに行こうかな」
部屋を戸締りして初めに執務室に顔を出し、大臣達に今日は仕事を休む旨を伝えると、驚きの表情ではなく安堵の表情で皆に3日間ほど休むよう言われ、1日のつもりが3日の休息時間を得てしまい、逆にクリスティアが大臣達に驚かされてしまった。
「う~ん、まぁ、折角もらった休日だしゆっくりさせてもらおうかな」
とは言ってみるが、ゆっくりなんてできる時間はクリスティアには無いことは十分に承知していた。だからこそ、せめて今日1日だけの休日を楽しむつもりだったのだから。
どのように邪神は世界を滅ぼそうとするのだろうか……と思い馳せながら廊下を歩いていると、中庭で銀色の物体が動くのを視界に捉える。
「うん?」
よく、見てみると中庭でアルベールが木陰に腰を降ろし空を眺めていた。
「アルベール君暇かな」
暇ではないだろう。
世界とクリスティアを助けるために他の魔王達と共にその打開策を講じているのだから一分一秒とて時間を無駄にはできないはずだ。
それでも、少しだけお話しできればなと中庭に歩を進めていく。
「む? クリスティアか。私服姿という事は今日は仕事は休みなのだな?」
ドアを開き中庭に足を踏み入れたクリスティアにやさしげな微笑みを浮かべる。
そんな彼の隣に断りを入れて同じように腰を下ろす。
「今は息抜き?」
「うむ、たまには休憩を挟まねば良き案が浮かばぬのでな」
「そっか……ごめんね」
「何故クリスティアが謝るのだ?」
「ううん、今のは忘れて」
本当は知っていた。
自分が生きていちゃいけないことを。
それでもアルベールやクルトが必死になにか手立てはないかと探してくれているからクリスティアはそんな彼等の故意を無為にしないために、今自分に出来る事をして懸命に前を向いて生きている。
「クリスティア、この後予定はあるのか?」
「う~ん、無いよ」
「なら、2人で少し出かけぬか?」
思いもよらぬ誘いにクリスティアの頬はほんのりと朱色に染まる。
「ほっ本当にいいの? だってアルベール君は今忙しいんじゃ……」
「言ったであろう。休息を挟まねば良き案が浮かないと」
アルベールはあたふたとするクリスティアの反応が可笑しく喉を小さく鳴らし笑う。
「では、決まりだな。30分後に馬小屋付近でよいか?」
「う、うん大丈夫だよ」
翡翠色の双眸を楽しげに細め、頷くと銀色の髪と左肩に携えている漆黒のマントを揺らしながら、中庭を後にする。
「どうして馬小屋?」
そんなクリスティアの疑問に答えるべき相手はもうその場にいなかった。
こんばんは上月です_(:3 」∠)_
今日本屋で永遠の0を購入しました。
去年も夏にテレビで放送していたのを思い出し図書券で購入しました。
読み応えのある厚さで、今週の週末にでも読み始めようかと思っています。
次回もアルベールとクリスティアで書いていきます。
次の投稿日は7月14日になりますので、是非ともよろしくお願いします(*゜∀゜*)ノ




