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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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異世界の男、地を這うシオン

 クリスティア達は長い道のりを経てようやくフィール連合国家の首都に辿りついた。

「到着しましたね、シオン君も皆さんもお疲れ様です」

 旅路の友をしてくれた仲間に礼を言い、馬車を預けまずは到着したことを知らせるべく城内に赴く。

「おい、クリスティア。俺はその会議にまでは付き合う気はねぇからな」

「うん、城内なら襲われることはないと思うから大丈夫だよ。シオン君達にはお小遣いを渡しておくから好きに物見遊山でもしててください」

「物見遊山ねぇ~」

 シオンの脳内にはいつもバカみたいに遊びまわっている三人の仲間の姿が描かれる。特にやることもないのでその物見遊山とやらに興じてみるのもいいかと思いクリスティアが1人1人に小袋を手渡していく。

「おぉ~クリスティア様、ありがとうございます!!」

 歓喜に涙する騎士達に呆れた様子で眺めていると、シオンの分の小袋が手渡される。

「?」

 その結構な重さに中身を確認すれば金貨が大量に詰め込まれていて、パッと見だけでも1ヶ月は豪遊してもまだ残る額だった。

 シオンを含めて11人に行き渡らせるこの大金はいったい何処から出てきているのかと問いただしたくもなったが、その意を察してかクリスティアは人差し指を口元にあてがい、これ以上は聞くなと無言で微笑んでいた。

「会議は明日行われますので、皆様には今日と明日の夜までは自由に遊び回っていてください」

「そんで、オメェは今日はどうすんだよ」

「私はアムナリア王やネクロ皇帝、雅皇帝と少々談笑してきます。では解散です!」

 クリスティアは城内へ騎士達は城下へと別れ、シオンはその場で立ち尽くしていた。

「いきなり物見遊山とか言われても何すりゃいいんだよ……」

 取り敢えずは騎士達が向かって行った城下へと足を向ける。

 やはり、連合国の首都は商いが盛んに行われていて各地の土産物や郷土料理が販売され、行き交う人々も個々の特徴があり他人種で賑わっていた。

そんな中でシオンは一件の小さな店に惹かれなんとなく扉を押し開き入れば、店内にはアンティーク調の小物が並び、客層も若い女性が多く引き返そうとしたが店主と思しき男の手招きされてしまい、気は進まなかったが男に近づいてみる。

「いらっしゃい、この店は初めてだね?」

「なんとなく入ってみりゃあ、女子供の好きそうな小物屋じゃねぇかよ。俺がいんのは場違いすぎんだろ」

 軽く舌打ちをしつつ店を今一度全体を眺めるがやはり女性客が多く目立つ。特に小物に興味がないシオンにとっては時間の無駄な場所としか捉えられず、さっさと退出しようとするが、店主がそれを阻み許さない。

「まぁまぁ、そうそう急くことないじゃないか。せっかくだしゆっくり店内を見て出来れば何か購入してほしいんだがな」

「興味のねぇモンに金を払ってられるほど俺も物好きじゃねぇんだ。客ならいっぱいいるんだし俺じゃなくてもいいだろうが」

 あえて突き放すように言い放つシオンだが、男は客商売をしているうちに身に付いた柔和な笑みを浮かべ、まぁまぁとシオンをなだめる。

「そう仰らないで……な?」

 あまりにしつこい店主にシオンは頭を掻き、ついには折れ仕方なく店内を見て回ることにした。その時の店主は満足気な表情で会計にきた女性客を相手していた。言われるがままに小物の1つ1つを見ていたのだが、ある1つの品物がどうしても気になり、手に取ってまじまじと睨めつけるように観察する。

「なんだよコレ……」

 見た目はごく普通のガラス細工で出来たコップなのだが、魔王という術式の専門家である彼には感じる、その代物から溢れ出す魔力のような禍々しい気配を。

 視線をふと上げ、店主にむけるがその異様な光景にシオンは言葉を失う。

「……」

 店主を含め女性客全員がシオンを薄ら笑いながら硝子玉のような瞳を向けていた。背筋に寒い物を感じ、これは尋常じゃないと察した瞬間には魔力を体全体に行き渡らせ、いつでも攻勢に回れるように身構える。

「おや、どうしたのですか。シオン・トレヴァリオン君?」

 店主に名前を呼ばれた瞬間に込み上げる吐き気と喪失感に脳がぶれるような錯覚に視界が一瞬明暗する。

「テメェ……何で俺の名前を知っていやがるッ! それに何だ、この不快感や不安感は」

 店の雰囲気もそうだが、肌にねっとりと纏わり付くような感覚に危機感を感じていた。

「キミの名前を何故知っているかって? そんな些細なことはどうでもいいのだよ。そんな事より彼女には気をつけたまえ、アレは世界を滅ぼす災厄の器だ。早期に壊しておいたほうがこの世界のためだよ」

「災厄の器だぁ? なに訳のわからねぇこと言ってやがる。それに彼女って誰のことだ」

「彼女は彼女さ。あの万人に向ける微笑みははたして、真実か偽りか……本当の彼女はどっちかな」

 含み笑いをする男性にシオンの我慢も限界を迎えた。

「もういい、テメェはぶっ殺す……道を誤りし愚者には光の届かぬ冷酷の回廊を、我は回廊の番人にして王である━━━━ルーフ エルデン(永遠の楽園)」 

 シオンは無限回廊の術式を展開し、異空間の穴をそこいらに発現させ、目障りな客の形をした異形の存在の首を銅を全身を異空間の開閉により切断飲み込んでいく。

 あらかた片付け終わり、ついには男の首、胸、上腕、前腕、手首、大腿、足首と異空間が捉える。

「無限回廊の番人か……終わることのない回廊の牢獄を歩かされるのは少々酷だな」

 男が指を鳴らせば、瞬く間に異空間は霧散し消える。その光景に唖然としたシオンはその刹那の瞬間に隙を見せてしまう。

「0から1へ、天使は訪れる」

 意味不明な言葉をつぶやいた男の背後に紅蓮に燃える両翼を生やした人型が空間のブレより姿を現し、その見る者の眼を焼き尽くさんように輝く翼を羽ばたかせた。

 まるで、ゴミを吹き飛ばすかのような仕草で。

 たったそれだけで翼から舞った火の粉は地表に零れ落ちては、火柱を立て燃え上がり地を掛けシオンを飲み込まんと周囲のもの全てを消し炭にしながら迫る。

「チッ!」

 すぐさま異空間を展開しその中に逃げ込み閉じては相手の隙を伺い強襲しようと算段していたが。

「甘いよシオン・トレヴァリオン君。天使の焔は臆病者を許さない」

 異空間に逃げたはずのシオンだったが、再び異空間を開き、焔を身に纏い転がり落ち火を消そうとのたうち回る。地を這わせられることがシオンに取って最も屈辱的な行為だと男は理解していた。

「ふざけんな……ふざんけんじゃねぇ! こんな出鱈目な力があってたまるか。テメェは一体何モンだッ!!」

「俺か? そうだなパラノイアとでも名乗っておこうか。まぁ、到底理解できないと思うけど俺はこの世界の住人じゃ無いんだよ。この世界からちょっとヤバイ気配を感じたからちょっと覗いてみただけさ」

 なんとか火を消し焦げ臭い匂いが充満する中でシオンはそれでもフラフラと立ち上がって、目の前の男を睨みつける。

「別世界の人間だと? アホくさ……そんな、馬鹿げた話しを誰が信じるもんか」

「じゃあ、キミは今見た……君達の世界では術式と言うのか? これを見たことがあるかな?」

 先程の天使が脳裏に映し出される。

 アルベールの創り出した銀狼と似てはいるが、アレは完全なる別物だった。アルベールの銀狼はあくまでも彼の扱う銀によって形作るものだが、先程の天使は別空間から呼び出されたと表現した方がが正しいだろうか。

「キミの命を奪いたいわけじゃないんだ。ただ、この世界で最強という存在に位置する魔王の実力を見てみたかったんだが、正直残念興ざめだよ」

 パラノイアと名乗る男は最早シオンに興味が薄れたように、背後の天使は空間に溶けるように存在が薄くなり消えてしまった。

「眠れ、これは夢だったんだよ。だが、覚えておいてほしい。世界と彼女のどちらかは確実に失われる」

 その言葉を聞いている途中でシオンの気力は尽き崩れ落ちる。

こんばんは上月です。

新たな登場人物パラノイア。異なる世界から訪れたと言っている彼ですが、今作では出番はもう次の話し以外はありません。退場です。

次回はその後のシオンを描きますので、どうか次回もよろしくお願いします。



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