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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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勇者シンの生誕

「だぁっ!」

 シンの裂帛の気合と共に大剣が振り下ろされ、アルベールは刺突剣で受け止めるのではなく、流れるように軌道を変え大剣を滑らせる。

「まだだっ!」

 初撃がダメなら次への攻撃に繋げ頭突きを繰り出すが、アルベールの拳で殴打され、またしても上手く決まらない。

「シンよ、流石にこの距離で頭突きというのはどうかと思うぞ」

「ふっ、本当の勝負はこれからだぜ銀の魔王」

 シンはあの時の感覚を思い出し、身体に熱を這わせる。

「よし、来た」

 詠唱を必要としない特異的な力がシンを守護し、脅威を打ち払う必殺の後出しの能力が再び開花する。なんとなく不安定さは感じるものの、それは次第に慣らしていけばいいと今は重要視せずに長く共にあった相棒の光神剣・破帝を構えアルベールの攻撃を誘うように待機する。

 シンの力は話しで聞いていたが、彼の力は魔力によるモノではなく奇跡に近い何か。その正体はアルベールを持ってしても分からず、だからこそ挑みたくなってしまうのは戦いに身を置くものとしての定めだろうか、アルベールは詠唱を唱える。

「威厳と誇りを胸に主を守護せし穢れ無き騎士、汝の牙は安らかなる眠りをもたらす賜物なり━━━━ズィルバンシュ・フェーレン(守護せし誇り高き銀獣)」

 銀聖の魔王の足元で伏せる忠誠を胸に抱き破邪の銀より生まれし銀狼。

 生み出されたからには意思を持ち、シンに牙を見せ低く唸り声を上げ、主の命を今か今かと待つ。

「ゆくぞシン……」

「あぁ、来い」

「邪を切り裂く銀狼よ我は許可する、彼の者にその牙を突き立てよッ!」

 大口を開け地を四足の足で蹴り上げ宙を駆ける。その速度は視界で追う事が困難で一筋の銀が残像として視界に映るくらいだった。だが、シンは焦りを捨てていた。いくら本気で殺す気はないと分かっていても、恐怖や焦りを拭うことなど到底は不可能。自身を強く信じるから、ある意味での自己信仰という暗示によってシンは常人では踏み出すことが躊躇われる一歩を踏み出したのだ。

 もちろん、アルベールは彼の奥底の自信を見抜いていた。だからそれが嬉しく笑みをこぼしてしまう。

 銀狼はシンの上空より牙を剥き出し下降する。頭部への損傷は生ける者にとって重傷となる場所。

 常に迅速に相手を無力化させるべきと教え込まれた動きを銀狼は見せる。

「見えたぜ!」

 頭上に顔を向け、大剣では急降下する狼を切るには間に合わないと判断するや右手を大剣から離し、拳を握り天井に突き上げる。

 この時にシンの能力の効果が最大限に発揮される瞬間だった。

 拳は狼の牙に屈することなく打ち砕き、そのまま頬を貫き胴体部までもを抉り抜く。血潮の変わりに銀の粒子が宙を舞いそのまま銀狼は霧散し消滅する。

 この光景を目の当たりにしたアルベールは満足げに頷く。

「シンよ、貴殿の力は警戒するに値する力だ。その調子で磨き上げればもしかすると我やクルトを打倒出来るやもしれぬぞ?」

「おだてるなよ銀の魔王。俺がこの力を発揮できるのは物理攻撃の場合だけだ。未来改変や銀変換には通用しないんだぜ」

「ふふふ、であれば未来を切り裂く大剣と、銀変換すら遠く及ばせない意思と身体を手に入れてみよ」

「流石に俺もそこまで自惚れちゃいないぜ」

「果たしてそうか?」

 含みのある笑みを見せる銀の魔王にシンは首を傾げる。

「どういう事だ?」

「ふむ、貴殿のその力は特異なのだよ。一般の者達が扱える術式ではなく我らと同じ能力の部類だ。そして我やクルトでさえ詠唱を必要とする所を貴殿のソレは無詠唱での発動。先程言ったようにその能力は警戒に値するモノだ。もしかするとまだ未知なる能力が秘めているやもしれんということだ」

 なるほどとシンは思った。確かにこの力を行使する際に詠唱をしていないし、意識すれば勝手に発動しているこの能力はアルベール達の使う能力とはまた少し事情が違うようだと理解する。

「銀の魔王よ、もっと俺に戦い方を教えてくれ。俺はこの力と俺自身の可能性をもっと見てみたい」

「うむ、いいだろう。もっとも戦いを教えるのは我だけではなくクルト、ヘル、アズデイルがしっかりと講義しよう」

 そう、アルベールだけでは戦い方がパターン化してしまう。だから他の魔王とも戦い、色んな相手に対応できるようしなければならない。

「望むところだ!」

「良い目付きだなシン。守る為の力を求めるその姿勢と決して挫けることのないその意思、まさにお伽噺に出てくる勇者に相応しい男だ」

「勇者……」

 幼い頃に本の中で何度も自分に輝きをみせてくれた存在。咎を嘆き善を慈しむ者に強い憧れを抱き今まで生きていた。そんなシンが今は魔王に勇者だと認められた。

 胸の奥底で熱い者が込み上げ、シンの向上欲を更に掻き立てる。

「銀の魔王よ、俺はお伽噺に出てくるような誰もが憧れる勇者になるぜ!」

「そうか……ならば問う。貴殿の名を言ってみよ!」

「俺は……俺は咎を嘆く者シン・リードハルト。世界や全人類を救うなんて傲慢は言わない。俺はただ災厄を打ち払う者でありたい」

「ははは、いいぞシン。我は貴殿こそ人類の希望だと信じるよ」

 そう言いアルベールは戦意と魔力を霧散させ、背を向けて試合場から退場しようと歩き出す。

「この手合わせは俺の勝ちでいいのか?」

「うむ、今回は貴殿に勝ちを譲ろう。だが、次はその勝ち星を返してもらうぞ」

「ふっ……いい事を教えてやるぜ、勇者は魔王に負けはしないんだぜ!」

「ふむ、なら常に強くあれ勇者シンよ」

 アルベールは影のように揺らぎ中庭から姿を消した。

 残された者達も言葉を紡ぐことができず観戦していたが、糸が切れたように歓声があがる。いつのまにやら兵士やメイドや執事、料理人まで数多くの観戦者が窓から顔を覗かせていた。皆口々に生誕した勇者シン・リードハルトを称える声を上げている。

「俺はもっと強くなるぞ……」

なんとか投稿できました。

次回はクリスティアとシオンのお話しとなりますので次もどうかよろしくお願いします。

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