侵食する歪んだ白、運命を語るパラノイア
クリスティアとネクロ、そして雅とアムナリアはそれほど広くはない、落ち着いた一室でソファーに腰を落ち着かせ各々の近況を軽く済ませ、テーブルに並ぶつまみと酒を嗜み世間話に笑い合っていた。
酒というものは人を開放的にさせ、普段見られない一面をさらけ出させる魔法の液体だった。最初アムネリアもネクロも何処か一線を引いて女性方に
気遣いながら話していたが、酒を飲むにつれて自制が崩れ始めていた。
「はっはっは、ネクロ皇帝よ。そんな貧弱な身体付きで世の女性方を魅了できるとでも思っているのかね? 我が戦場の古傷をその肉眼に映し脳に焼付けたまえ」
「おいおい、筋肉なんて今時はやらないんじゃないかァ? そんな汗臭い男を誰が魅了されるというのか! 嘆かわしいなアムナリア王よ。今の時代は知性とそこに隠れた野獣性に女性はときめくのだ」
衣服を脱ぎ捨て背に刻まれた無数の刀傷や矢傷を呆れた視線を送るネクロ。それに対抗心を燃やしてか、テーブルの上の蒲萄を一粒つまみ妙な色気を放ち口に含む。
「どうですか? 雅殿にクリスティア殿。俺とアムナリア王のどちらに魅力を感じましたか?」
対面に座るクリスティアと雅は苦笑いを浮かべ、互に視線でどうするかと意思疎通を交わす。
「あはは……私はどちらも魅力を感じますよ」
無難な回答をするクリスティアに男性2人は不服そうな表情でその矛先を雅に絞り、筋肉と色気の流し目で魅了させようと徐々に迫る。
「はぁ、正直申し上げればお二方とも気持ち悪いです。いいですか、まずアムナリア王はむさっくるしいです。そしてネクロ皇帝はキモイです」
彼等の胸に深々と刺さる一言に良いが覚めたのか悪い方へ酔ったのか、項垂れ大きく肩を落としブツブツと何かつぶやいている。クリスティアはそんな両名の痛ましい姿にオロオロし、雅に言い過ぎでは? アイコンタクトを送る。
「別に言い過ぎではないでしょう。これくらい言わねば誤った思考のまま人生を歩んでいってしまうのですよ。誰かが心を鬼にせねばならないのです!」
雅も段々と酒を飲むペースが早まっていき、頬を真っ赤に染めるのではなく、ほんのりと朱色に染め売るんだ瞳でクリスティアに熱っぽい視線を向けているのを心の何処かで警笛がなっているのを背筋の寒さと共に感じ、やはり苦笑いで少々距離をとる。
「雅ちゃん、あの~なんか、視線が熱いというか、その色っぽい?」
「あら? クリスティアには私がそう映っているのですね? ふふ、多分気のせいではありませんよ」
視線以上に熱く、酒気を纏った吐息が首筋を撫でる。
「雅ちゃん、その飲みすぎだよ。そうだお水飲もう……ね?」
急ぎ水割り用に置いてあった水をコップに注ぎどんどん距離を縮めてくる脅威に勧めるが、それを一切眼中に入れずにコップを握る手を両手で包み込む。
「ヒィっ!?」
最早逃げられないと悟り、諦め初めてのキスを同性に奪われるんだと覚悟し眼を強く瞑る。
「ん~」
「……」
「ん~ん~」
「……」
「?」
なかなか訪れないキスの味に恐る恐る眼を開ければ、今まで迫ってきていた上体はソファーに深くもたれかかり小さな寝息を立てて眠っていた。
男性陣の方も項垂れたまま微動だにせず、ただただ酔い潰れ気持ちよさげに意識は夢の中に迷い込んでしまっていた。
「仕方ないですね」
寝ている3人にクリスティアはクローゼットから薄いシーツを羽織らせ、起こさないようにテーブルの酒やつまみを片し始める。
「世に……秩……もたらし……浄化」
不意に脳裏に直接響く自身と同じ声に脳が激しく揺さぶられるような頭痛がクリスティアを襲う。
「ぐっ……」
その場でしゃがみ込み、両の手で頭部を押さえつける。
「破壊……再生……世界は……を望む」
もうやめてと強く訴えかけるように願ってもそれは止むことなく。むしろ言い聞かせ洗脳するかのように言葉を繰り返し繰り返し響かせる。
視界が揺らぎ、平衡感覚は失われ地面に倒れ伏せて意識は失われた。
意識を取り戻したシオンは周囲を見渡せば、客のいない先程の小物屋に置かれた長椅子に寝かされていた。
「クソっ、何だったんだよ。さっきのは……夢か?」
「そう、夢だよ。だが夢でも実際にに木実が体験したことには変わりはないんだけどね」
声のする方に視線を向ければこの店の店主にして、第6魔王シオンを相手に余裕の笑みを浮かべながら圧倒する力を持った存在がそこにいた。
「テメェ……何の真似だ」
「なんの真似とはどういうことかな?」
「すっとボケてんじゃねぇぞ! あんな変な力見せつけて俺を殺さねぇとはどういうことだって聞いてんだよ」
怒りを抑えることなく、今までで感じたことのない不快感と屈辱は目つきを一層鋭くさせる。そんなシオンにパラノイアは肩を竦めてやれやれといったように吐息を漏らす。
「言っただろう。この世界で最強と呼ばれる部類に位置する魔王の実力を見てみたかったんだよ。まぁ、期待はずれだったので少々方が下がったがね。まぁ、君達程度の実力者が最強ならこのまま行けばこの世界の
崩壊は確約されているな」
「世界が崩壊だと?」
意識が失われる寸前にそんな事を聞いたような気がして、だけどそれは一体どういう意味なのかは分からない。
この世界が何者かの手によって消滅させられるなら、ソイツは一体何者なのかと疑問に思っていれば、パラノイアは全てを見透かしたように笑う。
「人魔共存か……あぁ、実に素晴らしいね。彼女は全くの善意に満ちているようだ。だが、それは本当に彼女がしたい事なのかな? 本当は誰かを何かを壊したくて仕方がないんじゃないかな?」
シオンにはそれがクリスティアのことだと即座に理解する。確かにあの少女は今だ幼いながらも人間と魔族という種別の違う生命体を上手く纏め上げ、今では魔王という強大な力を傍に置いている。
それでも彼女はそんな破壊なんてものはのぞみもしないし考えもしないというのは僅かな時間を一緒に過ごしたシオンでもそこははっきりと分かっていた。
「馬鹿かテメェは、あの女がそんな大それたことを考えるわけねぇだろうが」
「ふふ、まぁ彼女は所詮入れ物に過ぎない。本体と同化すればそれはどうかな?」
「なに?」
パラノイアの話す意味不明な話しはとうとうオカルトや宗教的な匂いを強くし始めていて、シオンは怪訝な表情を浮かべ目の前の男の頭を本気で心配するほどだった。
「あまり時間は無いが、いいだろう。少しだけ語ってあげよう。かつて神々が生きた常世の時代に生まれた秩序と摂理を司る邪神の話をね」
こんばんは上月です。
最近は暑くなってきて、日中外に出るのが億劫ですね。
次回は5月25日くらいに投稿しますのでよろしくお願いします(*´ω`*)




