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代読責任者は、本人の声を読了済みに変える係ではありません

「代読、という言葉は悪くありません」


リディアは、赤字の紙をすぐには裂かなかった。

裂いてしまえば、リーナの枕元へ紙を読む人も、カイルに夜道の注意を伝える人も、エダが賃金袋の文字を確かめる時に横で支える人も、まとめて消えてしまう。


必要なのは、声を借りる手順だった。

声を奪う手順ではない。


「読めない人へ、読む手は要ります。眠っている人へは、起きた時刻にもう一度読む約束が要ります。目が悪い人へは、本人が止められる速さが要ります。字を知らない人へは、意味を言い換える人が要ります」


若い書記は筆を握ったまま、赤字の末尾を見た。


代読完了をもって、本人読了とする。


「ここまでが、危ないのですね」

「はい」


リディアは青札を四枚、机へ並べた。


一枚目。リーナ。

薬粥室の小窓の下、火が細く残っている。リーナはまだ熱で眠っている。紙を枕元で読み上げても、本人の喉は頷かない。けれど、読まなければ明朝の加温薪が『説明済み』として削られる。


「代読者は、薬を飲ませる人であっても構いません。ただし、代読済みは、リーナさんが目を開けて水を飲み、自分で『聞いた』か『もう一度』かを言える時刻まで、読了済みにしない」


リディアは一枚目に書いた。


代読は、本人の再読時刻を残すための仮声。

薬薪は、本人読了まで削らない。


二枚目。カイル。

西三つ角の灯りの下に、帰着札がまだ掛かっている。カイルは夜道で足を止め、灯りの残りを見てから帰る。誰かが彼の代わりに紙を読んだとしても、その人は彼の足元の暗さを歩かない。


「カイルさんの代読者は、灯りを消してよい人ではありません」

「帰着札と照合する人、ですね」

「本人が灯りの下まで戻り、『読んだ』か『読めない、もう一度』と言うまで、灯油札を閉じない人です」


二枚目に青線が入った。


代読者は帰着確認者ではない。

帰着確認は、本人の足と灯りで行う。


三枚目。エダ。

賃金袋は本人手渡し棚に残っている。エダは文字を読める。けれど、手が震えて紐をほどくのに時間がかかる。横の係が読み上げた瞬間、赤字の規則なら『本人読了』へ流れ、賃金袋は支払済み箱へ落ちる。


「読むのを助ける人は、袋を受け取る人ではありません」


エダが小さく言った。


リディアは頷いた。


「その通りです。代読責任者の声で、あなたの手渡し欄を閉じません」


三枚目に、エダ自身が震える字で一行を足した。


読んでもらっても、受け取るのは本人。

受け取れない時は、支払済みにしない。


若い書記の筆先が止まった。


「本人に書かせるのですか」

「本人が書ける時は、本人に。書けない時は、本人が止めたことを止め札に残します。代読者のきれいな字だけで、本人の遅い声を消さないでください」


四枚目。リディア本人の料理帳写し。


そこには、母の火入れ欄と、伯爵家の旧印と、北門施療院へ残した小竈の順番が写されている。誰かが読み上げれば、確かに言葉は耳に届くかもしれない。だが、リディアがその一行を自分の仕事として読み、どの火を守るか決める前に、読了済みへ落ちてしまえば、また料理帳は誰かの手柄の紙束になる。


「私の欄も同じです」


リディアは、四枚目の余白を指で押さえた。


「代読で聞くことはできます。けれど、私が読んだことにはなりません。私が止めるべき火を、私の前で止められるまで、読了ではありません」


係は、赤字の紙を見直した。


「では、代読完了をどう扱えば」

「補助完了です」


リディアは言った。


「本人読了ではありません。代読補助完了。本人再読待ち。生活到達保留。この三つに分けてください」


机の上に、三つの欄が新しく引かれた。


代読補助者名。

本人再読時刻。

生活到達保留理由。


リーナの薪束は、薬粥室の火の横に残った。

カイルの灯りは、西三つ角で小さく揺れた。

エダの賃金袋は、本人手渡し棚の上で、まだ本人の指を待っていた。

リディアの料理帳写しは、誰かの声で閉じず、リディア本人の前に戻された。


若い書記は、赤字の上へ青い訂正を書き込む。


代読完了は、本人読了にあらず。

代読者は、本人の声を預かる者ではなく、本人の声が戻る場所を守る者とする。


その一文が入ると、部屋の中の急ぎ足が、また少し遅くなった。


遅い声のための空白が、机の上に残った。


「リディア様」


エダが賃金袋の紐を、ようやくほどいた。


「読んでもらっても、私の声は、私のものでいいんですね」


「はい」


リディアは答えた。


「あなたの声は、便利な欄ではありません」


その時、廊下の奥から別の係が駆け込んできた。

彼の手には、王宮厨房本帳の写しが握られている。


「大変です。本人再読時刻を待つ者は、朝礼名簿から一時除外、と新しい通達が」


リディアは、青札の端を押さえた。


声を守ると、今度は名前ごと朝から外される。


通達の表題には、こうあった。


再読待機者は、当日勤務対象外として整理する。

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