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翌朝の後処理室は、誰の夜を終わったことにして片づける部屋なのですか

翌朝、という言葉は、やわらかく見えた。


夜を越えたあとなら、怒号も鐘も少し遠くなる。紙をまとめる人間にとっては、散らかった札を束ね、赤い未了線を消し、棚へ移すのにちょうどよい時刻なのだろう。


けれど、リディアは転送票の最後の刻印を見たまま、青札から手を離さなかった。


代理完了予定時刻を過ぎた青保留欄は、翌朝、晩餐会後処理室へ自動移管する。


「後処理室へ移す前に、後処理できる夜かどうかを読みます」


返却処理係が、疲れた顔で言った。


「後処理室は、晩餐会の残務をまとめる場所です。未読欄が残るなら、そこへ送って整理するしかありません」


「残務、という言葉を分けます」


リディアは、四つの青札を机の上に置き直した。


リーナの夜薬加温薪。

カイルの西三つ角帰宅灯。

エダの南倉臨時夜番賃金袋。

リディア本人の未読欄。


「食べ終わった皿、返した器、使い終えた薪の数。そういう残務は、後処理室で整理できます。でも、まだ飲まれていない薬、まだ帰っていない足元、まだ渡っていない賃金、まだ読んでいない本人欄は、残務ではありません」


リーナが、薬袋を胸に抱いた。


「わたしの薬は、朝になったら、もう昨日の分になるのですか」


「違います」


リディアは、薬袋の札に新しい行を書いた。


夜薬加温薪、服用確認まで未完了。

後処理室移管不可。

翌朝整理済みに置換しない。


「夜の薬は、夜に喉へ届いていないなら、朝の片づけではなく、未服用の確認です。冷めた薬を飲ませるのか、作り直すのか、医師が見るのか。そこまで決める場所へ戻します」


メイナの名を、リディアは横に添えた。


北門施療院看護婦長メイナ、服用確認待ち。


リーナの肩から、少しだけ力が抜けた。


次に、カイルが灯油札を出した。


「俺がまだ西三つ角を通っていなければ、朝には消灯済みになりますか」


「なりません。帰宅灯は、明るかったかどうかを後で帳面に書くための灯りではありません。帰る足元を守るための灯りです」


リディアは、灯油札の赤い予定線から青い札を引きはがさず、上に重ねた。


西三つ角帰宅灯、本人帰着・鍵箱返却・次番引継ぎまで未了。

後処理室で消灯済みに整理不可。

朝確認時、帰着未確認なら捜索札へ移す。


カイルは息を呑んだ。


「捜索札、ですか」


「帰っていない人を、片づける棚へ入れません」


その言葉で、机の端にいた夜灯係の若い書記が、はっと顔を上げた。


「なら、帰着していない者の灯油札は、残務ではなく捜索対象です」


「はい」


リディアは頷き、その書記の名を確認者欄に書かせた。


三つ目は、エダの賃金袋だった。


袋はまだ、本人名が見える向きで結ばれている。


返却処理係は、小さく言った。


「未受領賃金は、後処理室で一括保管されます。翌朝、本人が来れば渡せます」


「本人が来られる帰り道を、誰が確認しましたか」


リディアが問うと、返却処理係は黙った。


「賃金袋は、袋だけが保管棚へ着けば完了ではありません。働いた人が帰れて、本人名で受け取れて、次勤務を自分で読めるまでが到着条件です」


リディアは、賃金袋の札へ書いた。


エダ・南倉臨時夜番。

本人手渡し未了。

帰宅路確認未了。

次勤務同意未読。

後処理室一括保管は、支払済みではなく本人待ち保管に限る。


エダは、その青札を指で押さえた。


「朝になっても、わたしの夜は消えないんですね」


「消えません。働いた夜は、本人の手へ戻るまで残ります」


最後に、リディアは自分の未読欄を見た。


旧台所係リディア・ヴェルナー。

代表読了予定者。

代理完了予定時刻超過。

翌朝後処理室へ自動移管。


どの言葉も、本人が読む前に紙を先へ進めるための階段だった。


「私の欄も、後処理室へ送りません」


返却処理係が眉を寄せる。


「あなたはここにいます。読めばよいのでは」


「読めば済むものと、読んだことにして他人の生活を閉じるものを分けます」


リディアは、自分の欄に青線を引いた。


本人未読欄は、添付明細到着後に本人が範囲を読んで記入。

他者の薬・帰宅灯・賃金の読了代替不可。

後処理室移管不可。


「私が今ここで読むなら、読んだ範囲だけを書きます。読んでいない薬、帰っていない灯り、渡っていない賃金を、私の名で朝の片づけへ送りません」


セレスティアは、そこでようやく監督官印を取った。


紙に押したのは、完了印ではなかった。


後処理室移管停止。

生活到達条件未完了。

本人別確認へ差戻し。


三行の青い印が、赤い自動移管の上に重なった。


「晩餐会後処理室は、皿と器と残務を片づける場所です」


セレスティアの声は低く、はっきりしていた。


「人の夜を終わったことにする場所ではありません」


返却処理係は、深く息を吐いた。


「では、後処理室へ送るものは」


「送れるものだけです」


リディアは、机の上を指で分けた。


空の器。

使い終えた薪数。

返信待ちの照会写し。


そして、送れないもの。


リーナの未服用確認。

カイルの未帰着確認。

エダの未手渡し賃金。

リディア本人の未読欄。


小さな仕分けだった。


それでも、四つの夜は、朝の掃除籠へ落ちずに済んだ。


その時、後処理室へ送れるはずの空器束の一枚が、机の端でずれた。


底に貼られた小さな札が見える。


晩餐会後処理室、残務整理棚二番。

旧台所係関連未完了欄、朝礼前に一括清算予定。


リディアは、青札をもう一枚取った。


「次は、清算という言葉を読みます」


朝になれば消えると思われた夜の下に、今度は金額の線が引かれていた。

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