代表読了予定者は、誰の薬と灯りと賃金を読み終えたことになっているのですか
代表読了予定者。
リディアの名は、その欄の中で、ひどくきれいに収まっていた。
書記官は、転送票を持つ手を少し下げる。
「旧台所係リディア・ヴェルナー。生活影響明細未着分の代表読了予定者、です」
リーナが薬袋を抱えたまま、リディアを見た。
「リディアさんが読んでくださるなら、わたしの薬薪は通るのですか」
「いいえ」
リディアは、すぐに首を振った。
「私が読んだことになっても、リーナさんの薬を飲む喉にはなりません」
セレスティアが無言で新しい紙を出した。
リディアは、代表読了予定者欄の横へ、四つの小さな枠を作った。
リーナ・夜薬加温薪。
カイル・西三つ角帰宅灯。
エダ・南倉臨時夜番賃金袋。
リディア・本人未読欄。
「代表読了予定者という言葉を、そのまま読まないでください」
リディアは青い線を引く。
「これは、誰かが読む予定、という形で、本人の未読欄を一か所に集める処理です」
返却処理係が眉を寄せた。
「しかし、代表者が読めば、処理は進みます。未着分をまとめて送るだけですから」
「まとめて届くことと、まとめて読み終えたことは違います」
リディアは、転送票の端を押さえた。
「私ができるのは、紙の到着先として受け取ることです。未着のものを、未着のまま保留することです。本人欄へ戻すために仕分けることです」
そこで、彼女はリーナの薬袋を見た。
「リーナさんの夜薬薪が届いたかどうかは、私の読了欄では閉じません。薪を受け取る人、薬を温める人、飲む人の欄が必要です」
リーナは、薬袋の紐を少しだけ緩めた。
「では、わたしの欄は……」
「残します」
リディアは、リーナの枠へ書き込む。
本人薬袋確認未了。
夜薬加温薪、停止不可。
代表読了欄へ吸収不可。
カイルが、灯油札を机の端に置いた。
「俺の帰宅灯も、リディアさんが読んだことになれば消されますか」
「消されません」
リディアは、西三つ角と書かれた灯油札を、赤線から離した。
「帰宅灯は、帰る足元が見えるまでが確認です。私がこの部屋で紙を読んでも、カイルさんの道は明るくなりません」
カイルの欄にも、青い文字が入る。
本人帰宅確認未了。
西三つ角灯油、点灯継続。
代表読了による消灯不可。
エダは、賃金袋を両手で持ったままだった。
「わたしの賃金袋は、代表者が読んだら、相殺済みにされますか」
「されません」
リディアは、賃金袋の札を本人名が見える向きに直す。
「エダさんの働いた夜は、私が読み終えるための紙ではありません。本人手渡し、帰宅確認、次勤務同意。この三つが揃うまで、賃金袋は閉じません」
エダの欄には、紐をほどかないまま青札が重ねられた。
本人手渡し未了。
警備費相殺不可。
代表読了欄へ支払済み転記不可。
最後に、リディアは自分の名の欄を見た。
旧台所係リディア・ヴェルナー。
代表読了予定者。
その二行は、優しい顔をしていた。
王宮がようやく彼女を必要としたように見える。
皆の紙を任せると、認めたように見える。
けれど、その欄の下には、リーナの薬も、カイルの灯りも、エダの賃金も、まとめてぶら下げられていた。
「私の未読欄も、守ります」
リディアは、静かに言った。
返却処理係が目を上げる。
「あなた自身の、ですか」
「はい」
リディアは、自分の名の下へ書いた。
添付先受領予定。
本人読了未了。
他者生活欄の読了代替不可。
「私の名前は、皆さんの未読を閉じる鍵ではありません。私が受け取れるのは、未着明細の束だけです。薬を飲む喉、帰る足元、賃金を受け取る手、そして私自身の未読欄は、代表されません」
セレスティアが、監督官印を持ち上げた。
だが、押したのは読了済みではなかった。
未着分一時受領先。
本人別読了欄へ返送前保留。
生活欄一括処理不可。
三行の青い印だった。
「これを、晩餐会調整室へ返します」
セレスティアは言った。
「代表読了予定者欄は、読了済みの根拠ではなく、未着明細の一時置き場です。本人別の欄へ戻るまで、薬薪、帰宅灯、賃金袋、本人未読欄は動かせません」
リーナは薬袋を胸に抱き、カイルは灯油札を畳まず、エダは賃金袋を自分の名が見える向きで置いた。
それぞれの欄が、ひとつに吸い込まれず、机の上に残った。
その時、転送票の裏側に、赤い時刻印が浮き出ていることに、カイルが気づいた。
「……まだあります」
リディアは、紙を裏返した。
代表読了予定時刻、晩餐会火入れ鐘半刻前。
当該時刻を過ぎた未読欄は、代理完了予定として扱う。
火入れ鐘半刻前。
リディアは、青い印の上に手を置いた。
「代理完了予定時刻は、誰の今夜を時間切れにする鐘なのですか」
今度の赤字は、読む前から、もう灯りを消そうとしていた。




