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火に補充されたことにされた手を、生活へ帰る前に閉じません

洗い場の台帳には、濡れた指の跡が残っていた。


薬粥室の台帳には、匙の形に薄く粥が乾いている。夜灯係の台帳には、灯油の丸い染みが三つあった。


けれど、三つの欄の終わりには、同じ印が押されている。


――主火場補充済み。


リディアはその印を、火の補充として読まなかった。


「これは、誰かの手を主火場の燃料みたいに移した印です」


伯爵家の使いが鼻で笑った。


「洗い場の水も薬粥の匙も夜灯も、晩餐会の火を守るために回しただけだ。大きな火が点けば、細かい仕事はあとで戻る」


「戻る人の欄がありません」


リディアは洗い場の一行目を指した。皿数は二十四枚。返却済み。だが、最後に皿を拭いた手の名も、手荒れ薬を受け取った声もない。


「皿が乾いても、手が帰っていません」


青い札に、彼女は書く。


洗い場手、本人名未確認。

手荒れ薬、未到達。

帰宅路灯り、未確認。

次の皿番、同意保留。


ノラが薬粥室の台帳をめくった。


「こっちは、粥の匙だけ主火場へ戻したことになっています。でも、ミラさんの次薬前の半椀確認が空いています」


「匙は道具です。喉は道具ではありません」


リディアは二枚目の札を掛けた。


薬粥匙、返却済みを未完了へ戻す。

ミラ次薬前、喉確認なし。

半椀を食べた本人声、未添付。


夜灯係の欄では、カイルが口を開いた。


「この丸い染み、北門の細灯油です。主火場の大皿に入れたら、帰り道の三つ角が暗くなる」


「では、灯油は余りではありません」


リディアは三枚目の札を置く。


夜灯係、帰宅三つ角未点灯。

臨時夜番の足元、未到達。

主火場補充、帰路確認まで停止。


セレスティア監督官が、三つの青札を水番十七枚の横へ並べた。


「水番だけではない。洗い場、薬粥室、夜灯係。主火場補充済み印は、働いた手、食べる喉、帰る道を閉じる証明に使えない」


「そんなことをすれば、晩餐会の支度が遅れる」


使いの声は鋭くなった。


リディアは、乾いた粥の跡に小さな布を置いた。削らず、拭き取らず、誰の半椀が残ったのかを後で読めるようにするためだ。


「遅れるのは支度ではありません。まだ帰っていない仕事を、帰ったことにする処理です」


洗い場の少女が、おずおずと手を上げた。


「私、昨日の皿番です。手荒れ薬、まだもらってません。次の皿番も、頼まれたんじゃなくて、名前がもう入っていました」


リディアはその子の名を聞き、空欄へ直接書かせた。


「自分の手の欄は、自分で止めていいのです」


少女の名が入った瞬間、洗い場の二十四枚はただの返却済み皿ではなくなった。働いた手、薬、帰宅、次番同意が揃うまで閉じられない生活の列になった。


テッサが包帯棚から白い布を一枚持ってきた。端には水滴の跡があり、洗い場の少女が使った井戸水と同じ匂いがした。


「この布、乾いたことになっています。でも、薬粥室の湯気を吸ったままです。今これを閉じたら、次の患者さんの肌に当たります」


「なら、洗い場の手と包帯棚も同じ列です」


リディアは四枚目の札を足した。


包帯乾燥、主火場補充の対象外。

洗い手本人名、手荒れ薬、布芯乾き、次患者到達まで未完了。


水番十七枚、洗い場、薬粥室、夜灯係、包帯棚。青札は小さな板の上で増えていく。大きな火のために消されたものは、どれも火ではなかった。手であり、喉であり、足元であり、肌に触れる布だった。


「晩餐会に使う火を止めたいのではありません」


リディアは使いへ向き直った。


「火の名で、生活へ戻る前の人と仕事を閉じるのを止めるだけです」


そのとき、夜灯係の台帳の裏から、薄い控えが落ちた。


そこには、伯爵家の印でこう書かれている。


――主火場補充済みの人員は、王宮晩餐会当日、旧台所係リディアの管理下に一括編入する。


リディアは青札の束を握り直した。


「次は、人を火の付属品にする一括編入を読みます」

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