第7話 水路工事の依頼で、湖が増えました
四人パーティで受ける、最初の正式な依頼。
掲示板の前で、俺は慎重に紙を選んでいた。
「戦闘はダメ。
破壊もダメ。
目立つのもダメ」
リィナの圧が強い。
「わかってるよ。
今回は“工事”だし」
依頼書にはこう書かれていた。
【依頼内容:郊外の水路整備に伴う穴掘り作業】
【ランク:F】
【危険度:なし】
「……穴掘り?」
パパイヤが首を傾げる。
「スコップ使うやつだな」
「力を使う要素、ないわね」
ダーボンが静かに頷いた。
リィナが俺を見る。
「素手は禁止よ」
「使わないって!」
その時点では、本気でそう思っていた。
⸻
郊外の工事現場は、のどかな場所だった。
「ここに水路を作る予定なんだ」
現場の責任者が説明する。
「まずは穴を掘って、
水を通す準備を――」
「なるほど!」
俺は拳を握る。
「……」
「……」
リィナが、無言で俺の拳を叩いた。
「考える前に、
道具を持ちなさい」
「はい……」
スコップを渡される。
普通に掘る。
本当に普通に。
……が。
「これ、
めちゃくちゃ硬いな……」
思わず呟いた瞬間。
(素手なら、
一発なのに……)
――思った。
次の瞬間。
ドンッ!!
俺の拳が、地面に触れた。
大地が、沈んだ。
いや――
抉れた。
「……」
「……」
ズズズ……と音を立て、
巨大な穴が出現する。
地下水が一気に湧き出し、
みるみるうちに水が溜まっていく。
「……湖?」
パパイヤが呆然と呟いた。
「湖ね」
ダーボンが冷静に補足する。
リィナが、額を押さえた。
「……言ったわよね?」
「ご、ごめん!」
遅れて、
風圧が吹き抜ける。
「……」
リィナが、自分の服を見る。
「……裂けたわね」
「本当にごめんなさい!!」
俺は即座に正座した。
「工事よ!?
水路工事!!
どうして湖になるの!!」
「力加減を……」
「その言葉、
もう信用してないから!!」
⸻
……その後。
俺は、ふと興味本位で穴を見た。
「……もう一回掘ったら、
どうなるんだろ」
「やめなさい」
リィナの声より、
俺の好奇心が一瞬だけ勝った。
「ちょっとだけ……」
ドンッ!!
地面が、再び沈む。
今度は、
最初の湖の隣に。
水が流れ込み、
二つの湖が連なった。
「……」
「……」
沈黙。
遅れて、
衝撃波。
「……」
リィナは、顔を真っ赤にして
その場にうずくまった。
「……もう……
最低……」
俺の顔が、
これ以上ないほど青ざめる。
「ご、ごめん……
本当に……」
「正座」
「はい……」
パパイヤが小声で言う。
「……形、
なんか……」
「言うな」
ダーボンが即座に遮った。
⸻
数日後。
完成した二つの湖は、
正式に水路として使われることになった。
そして――
地元の人々は、その湖をこう呼び始める。
「パイパイ湖」
「名前つけるなぁぁぁ!!」
リィナの叫びが、
空に響いた。
さらに。
工事の功績を称え、
現地には記念の銅像が建てられた。
題名。
『水路を見守る女性』
モデルは、
言うまでもない。
「……なんで私なの」
「えっと……
工事の象徴、らしい」
リィナは無言で拳を握り、
俺を睨んだ。
「……一生、
止め続けるから覚悟しなさい」
「お願いします……」
こうして俺たちは、
水路工事の依頼を
地形改造レベルで達成し、
世界にまた一つ、
妙な地名と銅像を残したのだった。




