第6話 美形は風に弱い
ギルドの掲示板前。
「次は……これ」
リィナが指差したのは、少しだけ難易度が上がった依頼だった。
【依頼内容:街道の安全確認】
【ランク:E】
【危険度:低】
「戦闘じゃないし、
道を歩いて異常がないか見るだけ」
「いいね!
平和!」
パパイヤが元気よく頷く。
「転がる要素も無さそうだ!」
「フラグ立てないで」
⸻
街道の入口で、
すでに一人の冒険者が待っていた。
長身。
細身。
銀髪が風に揺れ、
整った顔立ち。
マントが優雅に翻り、
立ち姿だけで絵になる。
「……」
「……」
パパイヤが小声で囁く。
「なんか……
急に画風変わったな」
男は静かに振り向いた。
「俺はダーボン。
この依頼に同行する」
低く落ち着いた声。
「よろしく」
「……よろしくお願いします」
俺が頭を下げる。
リィナは少し警戒しつつも、
冷静に挨拶した。
「私はリィナ。
こちらは――」
「君が噂の新人か」
ダーボンが、俺を見る。
「森を消したという」
「噂、早いな!?」
パパイヤが笑う。
「安心しろ!
今日は転がらない!」
「安心できないから」
⸻
街道を進む途中。
空は穏やかで、
風も弱い。
「異常なし、だな」
ダーボンが、マントを整える。
「静かな仕事は嫌いじゃない」
その時だった。
「……くしゅん」
俺の、くしゃみ。
「……」
「……」
リィナが、即座に言う。
「止まりなさい」
「え?
何もしてないけど?」
遅れて――
ドンッ!!
突風が街道を吹き抜けた。
「……!?」
まず、マントが飛んだ。
次に、
何かが宙を舞った。
「……」
ダーボンは、
静かに頭を押さえた。
「……風が、
強くなかったか?」
沈黙。
遠くで、
ひらひらと落ちていく“それ”。
「……」
パパイヤが、目を丸くする。
「え、今の……」
ダーボンは無言で歩き出し、
地面に落ちていた物を拾い上げる。
そして――
慌てて頭に貼り付けた。
「……」
「……」
四角い。
黒い。
完全に、海苔。
リィナが、即ツッコミを入れた。
「それ、
カツラじゃなくて海苔です」
「……」
ダーボンは固まった。
数秒後、
無言で海苔を外す。
咳払い一つ。
「……失礼した」
拾い直した“本物”を、
丁寧に装着し直す。
顔は、少し赤い。
「見なかったことにしてほしい」
「無理です」
リィナは即答した。
⸻
その直後。
「……」
リィナが、自分の服を見る。
「……」
俺の顔が、青ざめる。
「……裂けたわね」
「本当にごめんなさい!!」
「正座」
「はい」
街道の真ん中で、
俺は正座した。
ダーボンは視線を逸らし、
パパイヤは笑いを堪えている。
「……君」
ダーボンが、静かに言う。
「君は、
風そのものだな」
「そう言われても……」
「いや」
彼は真剣な目で続けた。
「俺も同行しよう。
美意識のためにも、
被害を把握しておきたい」
「その理由でいいの!?」
リィナが叫ぶ。
ダーボンはマントを整え、
いつものクールな表情に戻った。
「崩れたままでは、
終われない」
パパイヤが肩を叩く。
「大丈夫だ!
転がるよりはマシだぞ!」
「比較対象がおかしい」
こうして俺たちは、
完璧な美形なのに風に弱い男・ダーボンと出会った。
パーティはついに四人。
――
被害担当が、また一人増えた。
「さぁ行きますよ!ザーボンさん、ドドリアさん」
憧れていたセリフを言ってみる。
「フリーザかよ!!」
リィナがツッコミを入れる。
リィナ自身、なぜそのツッコミが出たのか分かっていない。
「さぁ行きますよ!ダーボンさん、パパイヤさん」
改めて言い直しておく。




