第5話 荷運び依頼と、転がり続ける男
翌朝。
俺とリィナは、冒険者ギルドにいた。
「今日は……
本当に安全な依頼にするから」
「その宣言、もう信用できないんだけど」
掲示板の前で、俺は慎重に依頼書を選ぶ。
【依頼内容:倉庫から市場までの荷運び】
【ランク:F】
【危険度:なし】
「これだ!」
「……うん。
“殴る要素”が一切ないわね」
受付嬢も念を押す。
「今回は“普通に歩いて運ぶ”だけですからね?」
「はい!
普通に!」
リィナが腕を組む。
「“普通”って百回言いなさい」
「普通普通普通普通普通……」
⸻
倉庫前。
そこに、すでに一人の冒険者がいた。
とにかく丸い。
全体的に丸い。
体型は完全に樽。
笑顔は妙に爽やか。
「おっ、同じ依頼か?」
「はい」
「俺はパパイヤ!
よろしくな!」
そう言って、豪快に笑う。
「……この人が?」
「見た目で判断しない」
リィナが小声で言う。
パパイヤは軽々と木箱を担いだ。
「重いけどさ、
こういうの得意なんだ!」
「すごいな……」
俺も箱に手をかける。
(力を入れすぎない……
本当に普通に……)
――持ち上げる。
箱が、ふわっと浮いた。
「……」
「……」
「……あ」
リィナが即座に箱を叩く。
「浮かせない!!
地面!!」
「すみません!!」
パパイヤは大笑いした。
「ははは!
君、なんか面白いな!」
「面白くないです!!」
⸻
市場へ向かう途中。
石畳の道で、事件は起きた。
「おっと」
パパイヤが足を滑らせた。
「うわっ!?」
次の瞬間。
――ゴロゴロゴロ!!
樽のような体が、勢いよく転がり始める。
「止まらない!!」
「危ない!!」
俺は反射的に前に出た。
(止める!
でも、掴んだら……)
迷った末、
俺はそっと指で触れた。
――その瞬間。
ドンッ!!
衝撃波が発生した。
パパイヤの体は――
弾かれた。
「うおおお!?」
パパイヤは石壁にぶつかり、
バンッ!!
反対側の木箱に当たり、
ゴンッ!!
地面で跳ね、
ドンッ!!
――まるでピンボール。
「ちょっ、止まって!!」
「無理無理無理!!」
市場の路地で、
丸い物体が反射を繰り返す。
バン! ゴン! ドン!
ようやく摩擦に負け、
パパイヤは道の真ん中で止まった。
「……」
「……」
「……生きてる?」
沈黙のあと。
「……はぁ……
楽しかった……」
「楽しくない!!」
リィナのツッコミが炸裂した。
遅れて、
風が吹き抜ける。
「……」
リィナが、無言で自分の服を見る。
「……」
俺の顔が、真っ青になる。
「……裂けたわね」
「本当にごめんなさい!!」
「正座」
「はい」
市場の入り口で、
俺は正座した。
パパイヤは服についた埃を払いながら、
にこにこしている。
「いやぁ、
人生で一番転がったな!」
「更新しなくていい記録だから!!」
⸻
なんとか荷物を届け、
依頼は無事完了。
報酬を受け取り、
ギルド前で一息つく。
「今日はありがとうな!」
パパイヤが笑顔で言う。
「君たち、これからも一緒にやるのか?」
「……たぶん」
「ならさ!」
彼は親指を立てた。
「また一緒に依頼やろうぜ!
転がる役は任せてくれ!」
「任せない!!」
リィナが即答する。
俺は苦笑した。
(……この人、
衝撃を吸収してくれるタイプだ)
リィナが睨む。
「変なこと考えてるでしょ」
「いえ!
安全のことです!」
「信用できない……」
こうして俺たちは、
ピンボールのように転がる男・パパイヤと正式に出会った。
旅は、
さらに賑やかになりそうだった。




