第13話 海に浮かぶ男は、だいたい一人しかいない
船は、静かな海を進んでいた。
風は弱く、
波も穏やか。
――あまりにも、穏やかすぎる。
「……本当に、
この方向で合ってるの?」
俺が不安そうに聞く。
「最後に見えた方向よ」
リィナは腕を組んだまま、
水平線を睨んでいる。
「水切りで飛んでいった以上、
直線的な軌道だったはずだ」
ダーボンが冷静に分析する。
「……つまり、
跳ねて、
跳ねて、
跳ねて、
今ごろは……」
「やめて」
リィナが遮った。
その時だった。
「……あれ」
俺は、
遠くの海面を指差す。
「なんか……
浮いてない?」
「……?」
全員が目を凝らす。
水平線の向こう、
ゆっくり上下する影。
近づくにつれ、
それは――
「……丸いな」
ダーボンが呟く。
「……丸いわね」
リィナも同意する。
「……あれさ」
俺は、
嫌な予感を口にした。
「人、じゃない?」
さらに近づく。
影が、
はっきり見えた。
「……」
「……」
「……やっぱりだ」
海に浮かんでいたのは、
パパイヤだった。
仰向けで、
大の字。
潮に揺られ、
ぷかぷかと。
「……生きてる?」
俺が恐る恐る聞く。
「……」
その時。
「……んぁ?」
パパイヤが、
ゆっくり目を開けた。
「……お?」
こちらを見る。
「……おお?」
そして、
満面の笑み。
「助けに来てくれたのか!!」
「当たり前でしょ!!」
リィナのツッコミが、
海に響いた。
⸻
船を寄せ、
ロープを投げる。
「掴める?」
「余裕だ!」
パパイヤは、
軽快にロープを掴み――
「……って、
あれ?」
そのまま、
船にぶつかった。
ドンッ!!
「ちょっと待って!!」
「船壊れる!!」
慌てて、
ダーボンがロープを引く。
なんとか甲板に引き上げると、
パパイヤは寝転がった。
「……いやぁ」
空を見上げて言う。
「意外と、
楽しかったぞ」
「楽しくない!!」
俺とリィナの声が、
重なった。
⸻
パパイヤは、
少し考えるような顔をしてから言った。
「でもな」
「うん?」
「海の上、
色々見えたぞ」
「……色々?」
ダーボンが反応する。
「変な影とか、
でかい波とか、
あと――」
指で後方を示す。
「……島?」
「え?」
全員が振り返った。
さっきまで、
気づかなかった。
霧の向こうに、
小さな島影が見える。
「……確かに」
ダーボンが目を細める。
「地図には、
載っていない」
「……寄ってみる?」
俺が聞くと、
リィナは一瞬考え――
「……寄るわね」
「即決!?」
「ここまで来たら、
放置の方が危険よ」
パパイヤは、
元気よく親指を立てた。
「よし!
漂流役、続投だな!」
「続投しなくていい!!」
⸻
船は、
未知の島へと進路を変えた。
偶然の事故から始まった船旅は、
いつの間にか――
新しい寄り道を生んでいる。
俺は、
甲板に座りながら思った。
(……町、
俺たちが戻る頃には
本当にどうなってるんだろ)
だが今は。
目の前の海と、
仲間と、
そして――
次のトラブルに集中するしかない。
こうして俺たちは、
無事(?)パパイヤを回収し、
次なる舞台――
地図にない島へ向かうことになった。




