時間を稼ぐが
劉表からの使者として蒯越が劉備の下に来た。
蒯越は劉備に挨拶するなり、主である劉表が孫権との同盟をまた結ぶ為に仲介の使者に赴いて欲しいと述べた。
話を聞いた劉備は唸っていた。
(どうしたものか・・・・・・)
蒯越が来る前日。
単福と馬順の二人は新野県を出ていた。
単福はいずれ来る曹操軍の侵攻に備えて、地形の把握の視察に出ていた。供に馬順を連れて。
相談できる者達が居ないので、劉備は一人悩んでいた。
「・・・・・・直ぐに判断できる事では無いので、暫し時間を頂きたい」
「申し訳ありませんっ。殿から直ぐにでも返事を持って帰って来る様に言われまして、早急な返事を」
「それでも、少しは時はあるであろう。せめて、三日は待って欲しい」
「・・・・・・分かりました。三日ほど待たせて頂きます」
蒯越はそう言って、三日ほど新野県に留まる事にした。
劉備は直ぐに蒯越を歓待する様に命じると共に、単福達に至急戻って来る様にと早馬を出した。
三日後。
「まだ、単福達は戻ってこないのか?」
「はっ。少々遠出をしている様でして」
劉備の問いかけに、兵は戻ってきていないと述べた。
単福達が戻ってこない事に頭を掻いていた劉備に、別の兵が来た。
「申し上げます。蒯越様が面会を求めております」
「ぬ、ぬううっ、・・・・・・あ、頭が痛いので、今日は会えぬと言え」
「は、はっ」
劉備は一人で決めるには、難しいと思い仮病を使い会えぬ事にした。
「申し上げございません。殿は頭が痛いので、誰とも会えぬと申しております」
「さようか・・・・・・」
兵の話を聞いた蒯越は直ぐに怪しいと思った。
(これは蔡瑁に言われた通りにした方が良いな)
蒯越は新野県へ出発の直前、蔡瑁が来てその時に述べた言葉を思い出した。
『劉備は殿の後は劉琦が継ぐべきだと言っている。もし、そうなれば我らの家もお主の家もどうなるか分からんぞ』
蔡瑁の家は荊州でも有力な家だが、蒯越の家は楚漢戦争期の説客である蒯通の子孫の家で、荊州では名家として知られていた。
そういった家の縁があるからか、蒯越は蔡瑁と同じ劉琮派に属していた。
『では、どうするべきだと思う?』
『劉備に孫権の同盟を結ぶ使者として向かう様に言うが、応じたら行く時期はこちらが決めるので、それまで待っていてほしいと言うのだ。帰還したら殿には劉備に謀反の動きありと報告せよ』
『赴けないと言われた時は、そのまま殿に報告するとして、返事が頂けない時はどうすればよい?』
『その時は早急に戻って来て、殿に劉備はまた願いに応じなかったと報告するのだ』
蔡瑁の話を思い出した蒯越は直ぐに行動した。
兵には「では、病が治った時に教えて欲しい」と述べて一礼し、その場を離れて直ぐに自分が泊まっている客舎に帰ると、従者に荷物を纏めさせた。
荷物を纏め終えると、蒯越達は新野県を出て行った。
数刻後。
早馬の連絡を受けた単福達が新野県に帰還して来た。
帰還するなり、旅塵を落す事無く劉備の下を行き詳しい話を聞いた。
単福達は蒯越が使者として来たと聞いて、直ぐにこれは何かあると悟った。
直ぐに蒯越と会う為に、客舎に人を遣ったが、既に出て行った後であった。
その報告を受けた劉備は直ぐに蒯越を探させたが、どれだけ探しても見つからなかった。
数日後。
蒯越は劉表の下に帰還した。
「申し上げます。劉備は殿の頼みをまた断りました」
「・・・おのれっ、食客の分際で、儂を此処まで虚仮にするとはっ」
蒯越の報告を聞いて、劉表は怒声をあげた。
「だから、再三申していたではないですか。劉備は信用できぬと」
怒れる劉表に蔡瑁は気取った顏でそう述べた。
「うむ。儂の不明であったわ。主人の命に此処まで叛く食客など客ではないわ。文聘」
「はっ」
劉表は家臣の列の中にいる文聘に声を掛けた。
文聘は劉表に向けて頭を下げた。
「お主に二万の兵を与える。副将として王威、黄忠、霍峻を付ける。その軍勢を持って、劉備を討ち取って参れ‼」
「はっ!」
劉表の命を受けて、文聘は一礼しその場を離れて行き、出陣の準備を整えた。
数日後。
文聘は二万の兵と共に新野県へ進撃した。




