あまりにも証拠があり過ぎる
孫翊への報告を終えた徐氏は徐元、孫高、傅嬰と嬀覧と戴員の一族と逃げない様に警備する兵の一団と共に孫権がいる呉県へと向かった。
数日すると、孫権の下に辿り着いた徐氏達は事の次第を報告した。
その証拠とばかりに、徐氏が殺した嬀覧から聞いた話を申すだけではなく、嬀覧と戴員の屋敷から出て来た劉表から送られてきたと思われる文が幾つも見つかった。
文には、孫河を盗賊に襲われた様に見せかけて殺した事と近い内に廬江郡に攻め込む事と、それに合わせて反乱を起こすようにという指示が書かれていた。
話を聞いて疑っていた孫権も文を読んでいく内に顔色を変えて行った。
そして、文を全て読み終えると、孫権の顔が赤くなっていた。
「我が弟だけではなく、一族の者達を殺した者の一族を生かす理由など無し、即刻外に連れ出し首を斬れ!」
孫権は兵に嬀覧と戴員の一族を全員処刑しろと怒鳴り声交じりで命じた。
兵がその命を受けて部屋を出て行く間も荒く息をついていた孫権。
深く息を吸い呼吸を整えた孫権は徐氏達を見た。
「よくぞ、弟と孫河の仇を取ってくれた。感謝する」
礼を述べた孫権は徐氏には生活に困らない様に面倒を見ると言い、嬀覧と戴員を討ち取った徐元達三人には褒美を与え、牙門将軍の地位を与えた。
嬀覧と戴員の一族の処刑が終わると、孫権は家臣達を招集する様に命じた。
その命令に従い兵達は家臣達の下に走った。
兵の一人が周瑜の下に来たが、丁度魯粛もその場に居た。
「殿が招集せよ? 何の為に?」
「曹操が揚州に攻め込んで来たか?」
周瑜と魯粛は朝議の時間でもないのに招集する事に疑問に思っていると、兵がその事について教えてくれた。
「何とっ⁉ 嬀覧と戴員がっ」
「確かあの二人は盛憲に仕えていたからな、有り得ないとは言い切れんな」
兵の報告を聞いても、驚きはしたが納得する二人。
そして、兵に直ぐに登城する事を告げて下がらせた。
兵が一礼し部屋を出て行くと、魯粛は周瑜に話しかけた。
「周瑜殿。この状況どう思われます?」
「劉表は同盟を結ぶと思わせて、実は裏切るつもりであった・・・と大抵の者はそう思うであろうな」
周瑜は自分の推察を述べると魯粛は頷いた。
「そうですな。殿でさえ、伯海殿に加えて弟君の孫翊様も討たれたのです。怒りで頭に血を上らせているでしょう」
「うむ。そうであろうな。だが、これはあまりに怪しい」
周瑜は顎を撫でながら、不可解とばかりに顔を顰める。
「劉表が我らと同盟を結ぶのは分かります。ですが、同盟を結んでおいて、この様な裏切り行為をする意味が分かりません。明らかに利点がありません」
「そうだ。劉表は我らと敵対したままでは、曹操に攻め込まれ滅ぼされると思い同盟を結んだのだ。それなのに何故裏切る」
「仮に最初から領土を得る為に裏切る事を前提に同盟を結んだとしても、その証拠となる文を残しておく意味が分かりません。読み終えたら処分するものでしょう」
周瑜と魯粛は劉表が裏切り行為をした意味が分からず頭を悩ませていた。
「・・・・・・まるで|百戯《散楽とも言うが、本作では下記とする》を見ている気分だ」
「同感ですな」
周瑜の呟きに魯粛を同意した。
この百戯とは民間芸能の総称の事で、その中には劇も存在する。
「この企み、曹操が裏で糸を引いているかも知れんな」
「そうかも知れません。ですが、その証拠がありません。ですので、誰もそう思う事はないでしょう」
「分かっている。ただ、そう思い口に出しただけだ。戯れ言だ」
周瑜は気にしないでくれとばかりに手を振る。
「この件に曹操が関与しているかどうかは分かりませんが、問題はこのままいけば劉表とまた争う事になる事ですな」
「わたしとしては一刻も早く荊州を獲り、その勢いに乗り益州を奪い曹操と戦うつもりだが、現状では無理だな」
「その策を行うには曹操の勢力が強くなり過ぎました。此処はまた劉表に同盟を結ぶ様に劉皇叔に交渉して貰うしかありませんな」
魯粛は此処は劉備に頼るしかないと思い述べたが、周瑜は首を振った。
「それは駄目だ。劉備は劉表の食客にすぎん。また仲介して貰えるか分からん。それに、あやつは信用できん」
周瑜は劉備に会った事が無いのだが、その活躍ぶりと行いを聞いて信用できないと判断していた。
「お主は劉備を買っているかも知れんが、あやつは皇族とはいえ腹黒い梟雄だ。けして、信用してはならんぞ」
「そうですか。ですが、どの様な方法を使って劉表と同盟を結ぶおつもりですか?」
「なに、いずれ向こうから泣きついて来る。その時に、我らが有利になる条件をつけて同盟を結ぶ様にすればよいのだ」
「それでは、劉表は曹操に滅ぼされるのでは?」
「その時は我らから同盟を結ぼうと申し出るだけだ」
周瑜の話を聞いて魯粛もそれならばいいかと思い同意した。
そして、周瑜達は共に登城し孫権がいる大広間に集まった。
家臣全員集まったのを見た孫権は孫翊と孫河が誰の手で殺された事を告げた。
「全ては劉表が仕組んだ謀略であったのだっ。この恨みを晴らしてくれる! 魯粛っ」
「はっ」
「直ぐに使者の準備を。劉表に事の次第を告げるのだっ」
「殿、もし劉表めが、此度の事など知らんと言った場合はどうなさいますか?」
「その時は戦だ! 父上だけではなく、孫河と弟の仇を取ってくれる!」
「「「おおおおおおおっっっ」」」
孫権の言葉に応じる様に武官達が声をあげた。
孫河も古くから孫家に仕える重臣。その為、孫河とは苦楽を共にした者達は多かった。
皆、孫河の仇を取れると思い、勇んでいた。
魯粛は内心で、使者を送りたくないと思いつつも主命なので、逆らう事が出来なかった。




