もう用済み
孫翊が討ち取られたという報告を聞いた孫権は聞き間違えだと思い、報告した兵にもう一度訊ねた。
だが、それでも報告が違うという事は無かった。
報告を聞いた孫権は手で顔を覆いながら、泣くのを耐えていた。
何とか泣くのを耐える事は出来たが、目には涙が溜まっていた。
「誰だ? 誰が弟を殺したのだ⁉」
「家臣の辺洪だそうです。かの者は孫翊様を討ち取った後、逃亡したそうです」
「・・・そやつを捕まえるか殺す事が出来た者には、孫翊の後の丹陽郡の太守の地位を与えると触れを出せ‼」
「はっ」
怒り混じりの声で命じる孫権。
兵は返事をするなり、その場を離れた。
孫権は沈痛な顔で溜め息を吐いた。
「兄上が亡くなって、まだ数年しか経っていないというのに、孫匡に続いて孫翊まで先に逝くとは・・・」
男兄弟で生きているのが孫郎だけになったという事に寂しく思うのであった。
少しすると、気を取り戻す事ができた。
すると、孫権は孫翊の目付として就けていた朱治に文を送った。
文には其方を見込んで弟の目付として置いていたというのに、どうして弟を守る事が出来なかった事を詰る言葉と、弟を討った者の捜索の指揮を執る様にと書かれていた。
孫権の触れにより、揚州中では辺洪を探していた。
見つければ褒美。捕らえるか殺す事が出来れば、一郡の太守になれると思い、多くの者達が血眼になって探していた。
だが、そんな必死の捜索の中でも、辺洪は見つかる事は無かった。
その辺洪はある山の中に居た。
其処は以前、嬀覧と戴員の二人が隠れていた場所であった。
場所を知っているのは嬀覧と戴員しかいない為、未だに誰も見つける事が出来なかった。
其処に嬀覧が訪ねてきた。
「どうだ。 生活の方は?」
「特に困っていない。それで、わたしは何時になれば、荊州に行く事が出来るのだ?」
辺洪は一刻も早く揚州を出て、荊州に向かいと思っていた
だが、嬀覧は返事の代わりとばかりに、腰に佩いている剣を抜いた。
「な、何のつもりだ⁉」
「ご苦労であったな。我々の目的の為だ。恨みはないが死んでくれ」
「き、貴様ら、わたしを騙したなっ! この嘘つき共っ、不忠者が!」
「お前には言われたくないわ。あの世で孫翊に会う事があったら、こう伝えよ。全てはお前の兄が悪いのだとな」
嬀覧は辺洪に躍りかかった。
辺洪は襲われると思っていなかったので、何も武器を持っていなかったので、背を向けて逃げるしか出来なかった。
嬀覧は辺洪の背に容赦なく刃を振り下ろした。
暫くして、嬀覧達が辺洪の首を持って下山し、丹陽郡で捜索の指揮を執っていた朱治の下に来て首を見せた。
朱治はその首を見て受け取るなり、声をあげて喜んでいた。
そして、嬀覧達に感謝を述べて直ぐに辺洪の首を壺の中に入れて兵も持たせて、孫権の下に送った。
数日程すると、孫権の下に送った兵が孫権からの文を持って戻って来た。
文には嬀覧に孫翊の後釜として、丹陽郡の太守にする命が下った
嬀覧は丹陽郡の太守となった事を喜んでいた。
だが、その話を聞いた廬江郡の太守をしている孫河は訝しんでいた。
「如何に酒に酔っていたとはいえ、辺洪が孫翊を討ち取る事など無理だ。誰かが裏で糸でも引かぬか限り・・・」
そう思った孫河は密かに、この件で得した者達即ち嬀覧と元同僚の戴員を調べる事にした。
だが、孫河が密かに何かを調べているという事は、直ぐに嬀覧達の耳に入った。
「どうするべきだと思う?」
「疑っているとはいえ、何の理由もなく殺せば、後々問題が出来るだろう」
二人はどうしたものかと頭を悩ませていた。
其処に劉表の使者を偽っている三毒の者が、二人の状況を知る為に訪ねて来た。
二人は思い切って、孫河の件を報告した。
「ふむ。分かりました。我が主に報告しますので、少しだけお待ちを」
話を聞いた三毒の者はそう言って去っていった。
数日すると、三毒の者が嬀覧達の下に来た。
「我が主が申し上げた所、孫河は廬江郡の太守であるので、その孫河を密かに暗殺し孫家に混乱を齎すのです。その間に、我らは廬江郡へと侵攻する。その時に貴方が丹陽郡にて反旗を翻すのです。さすれば、孫権はどちらに対処するべきか悩んでいる間に、我らは廬江郡と丹陽郡を支配すればよいと申しておりました」
「成程。それは良い手だっ」
「では、暗殺はこちらが致します。御二人は何時でも反乱を起こせる準備をして下され」
「承知した。劉荊州牧が兵を出す時に合わせて、こちらも反乱を起こすとしよう」
「分かりました。後日、御二人の屋敷に我が主が兵を挙げる時期の連絡をお送り致します」
「では、直ぐに準備するとしよう」
嬀覧達は反乱の準備の為に、その場を離れて行った。
二人を見送ると、三毒の者は上手く言ったとばかりに笑っていた。
(もう役目を果たしたと知らずに。滑稽な事だ)
そう思いながら、その場を後にした。




