正月
月日が経ち、年が明けた。
陳留に居る曹昂は正月を迎えていた
華佗がある酒を飲んでみませんかと申してきた。
「これがお屠蘇か」
「はい。身体によい物と薬草を粉末にし混ぜました」
盃に注がれた液体を見る曹昂。
後漢の時代に華佗が発明した薬酒で、曹操の下に居た頃に振るまい、やがて民衆へと広まって行き、後の世に日本に伝わったと言われている。
薬酒という事で正式な名称は屠蘇延命散又は屠蘇散と言われている。
酒に赤朮、防風、大黄、山椒、細辛、桔梗の粉末を混ぜ合わせて作ったと言われている。
「少々味がきついかもしれませんが、ご賞味くだされ」
「そうか。どんな味かな」
曹昂は盃を傾けて一口飲んでみた。
酒の味がした後に、痺れと共に辛味が襲い掛かった。
「ぐふっ!」
「ふむ。少々山椒を入れ過ぎましたかな?」
舌が麻痺したかのような痺れを感じた曹昂。
華佗は曹昂を見て、分量を量り間違えたかと思った。
(本当にこれを飲めば、一年間健康に過ごせるのか⁉)
曹昂はとても、これを飲んで健康に過ごせると思えなかった。
まだ、盃にには屠蘇が残っていたが、飲む気になれなかった。
使用人に命じて後で捨てて貰おうと思っていると、部屋に練師が訪ねて来た。
「失礼します。ご準備が出来ました」
「そうか。先生。失礼する」
曹昂は席を立ち、華佗をと別れて別室に向かった。
その部屋には曹昂の妻妾がおり、皆卓の席に座っていた。
「遅いぞ。皆を待たせんなよ」
「済まない」
董白が遅れて来た曹昂に文句を言うと、素直に謝りながら席に座った。
卓の敷物の上には鍋があり、その中には液体が入っており、ヒダがついた餃子が浮かんでいた。
「おお、美味しそうだな」
「旦那様。食べましょう」
「お代わりもありますので、遠慮なく食べて下さい」
貂蝉がそう言って椀に餃子を盛ると、曹昂に渡した。
少しすると、全員に椀が渡った。
曹昂達は匙で餃子を掬い、静かだが和やかに正月の朝を迎えていた。
同じ頃。
揚州に居る孫権はというと、目を覚まし身体を解していた。
それが終わると、使用人にある物を持って来る様に命じた。
少しすると、使用人はお盆に盃を乗せて戻って来た。
孫権はその盃を手に取り、盃の中を見た。
黄色いトロトロとした液体に刻まれた緑色の菜っ葉が浮かんでいた。
その液体から独特な臭気が漂ってきたので、孫権は顔を背けた。
盃に入っているのは、生の卵を溶き韮や大蒜などの野菜を刻んで混ぜた物だ。
古代中国では、卵は縁起が良い物とされていた。
その為、江南では元旦に生卵を飲むようになった。
とはいえ、流石に生卵だけではきついので、韮などが入る様になったと言われている。
「・・・・・・んぐっ」
孫権は盃に口をつけて、生卵を飲み込んだ。
そのまま味わう事はしないで喉に流し込んだ。
盃を傾けて、全て飲みきった孫権は袖で口を拭った。
「・・・・・・良し。支度をする。手伝え」
「はっ」
孫権は使用人の手を借りて寝間着から平服に着替えると、部屋を後にした。
向かった先は城内の大広間。
其処には正月の宴が開かれていた。
孫権は早く酒を飲んで、口の中に残っている生卵の味を消したいと思いながら足早に向かった。




