失言
盛憲が孫権に討たれたという報は直ぐに曹昂の下にも届いた。
「ふっ、噂程度で討ち取るとは浅慮だな」
報告を聞くなり曹昂は失笑していた。
周りに居る劉巴、趙儼、司馬懿、法正も同意する様に頷いていた。
「全く持ってその通りですな」
「報告によりますと、生き残ったのは息子の盛匡と部下二人だそうです」
「その三人は今どうしている?」
「盛匡はその二人と別れて亡き父の友人である孔融の下に行ったそうです。部下二人は何処かの山に身を隠しているそうです」
「・・・・・・その部下達の名前は分かるか?」
「はっ。戴員と嬀覧と申すそうです」
報告を聞いた曹昂は笑みを浮かべていた。
「良し。その者達と接触しろ。ただし、劉表の部下と名乗ってな」
曹昂がそう言うのを聞いて劉巴達はその意味が分からず首を傾げた。
「何故、劉表の部下と偽り接触させるのですか?」
「二人には孫権の弟である孫翊を暗殺させる。わたし達がしたという事がバレない為に、劉表の部下と偽らせるのだ」
「成程」
「二人からしたら、主君の仇である孫権の親族を討つ事ができますからな」
「そして、劉表の部下として接触しますから、戴員達が捕まる事になって、劉表に唆されたと言いますな」
「さすれば、孫権と劉表の同盟は破綻しますな」
「見事な策です。流石は殿にございます」
法正が称えると、曹昂は満更では無い顔をしていた。
「孫権もまさか盛憲を殺した事で、弟が殺されるとは思わないでしょうな」
「ははは、あやつの浅慮で起こした事ですからな。自業自得というものでしょう」
「しかし、孫権は何故、この様な考え足らずな事をしたのでしょうな」
趙儼の疑問に、曹昂は鼻で笑った。
「ふっ、ボウヤだからさ」
得意げな顔でそう述べる曹昂。
内心では、一度言ってみたかったんだよなと思っていた。
「「「「???」」」」
曹昂が述べる言葉の意味が分からず、四人は何を言っているんだろうという顔をしていた。
四人の反応を見て、顔にこそ出さなかったが恥ずかしいと思う曹昂。
咳払いでもして誤魔化そうかと思っている所に、貂蝉が部屋に入って来た。
「失礼します。御菓子をお持ちしました」
「おお、ありがとうっ」
良い所に来たと思いながら、曹昂は手招きした。
貂蝉は曹昂の態度を不審に思いつつも、手に持っているお盆に乗っている皿を卓に置いた。
皿には白く丸い饅頭が乗っており、湯気が立っていた。
「今、茶の用意をしますね」
「ああ、たのむよ」
貂蝉が茶の用意をしている間、曹昂達は湯気が立つ白い物を手に取り齧り付いた。
「ふ~、ふ~、熱くて身体が温まりますな」
「中身は漉し餡か」
「いや、粒餡もあるな」
四人は出来立ての餡饅に味を堪能していた。
「白い皮は大して味はありませんが、中の餡子が滑らかで甘くて見事に調和しておりますな」
「これを食べると、餡子は温めても美味しいという事が分かります」
「粒餡もこの粒粒とした食感に餡子の甘みが加わり、美味しいですな」
「いやぁ、漉し餡と粒餡の饅頭を食べられるとは贅沢ですな」
四人は饅頭を味を聞きながら、曹昂も食べている漉し餡の饅頭を食べていた。
「美味しいよな。滑らかなのに温かくて、身体を暖かくしてくれるな」
「ですな」
曹昂の言葉に同意する様に法正は頷いた。
「殿。漉し餡も悪くないですが、粒餡も良いと思いますぞ」
其処に司馬懿が粒餡の饅頭を推して来た。
「粒粒とした食感は食べ応えもありますし、其処に甘みが加わっております。漉し餡の様に餡子だけよりも飽きないと思います」
「いやいや、司馬懿殿。漉し餡も良いですよ」
其処に法正は漉し餡の方が良いと推して来た。
考え方も似ており、仲が良い二人だが食の好みまで同じでは無かった。
「まぁまぁ、御二人共。両方とも美味しいのですから良いではありませんか」
司馬懿達の空気が不穏になっているのを察した趙儼を宥めだした。
すると、二人は趙儼を見た。
「では、どちらが美味しいと思う?」
「勿論、粒餡であろうな?」
「いやいや、漉し餡であろう?」
「わ、わたしはその・・・・・・」
二人の圧力にタジタジになる趙儼。
そんな三人を見て、曹昂は貂蝉が淹れてくれた茶を啜りポツリと零した。
「食べ物の好みはそれぞれだろうに」
「同感ですな」
劉巴もその言葉に同意していた。




