出る杭は打たれる
数日後。
揚州の各地に盛憲が朝廷に仕えるという話が伝わっていた。
当然、孫権の耳にもその話が入っていた。
「なにっ、盛憲が朝廷に仕えるかもしれないだと⁉」
「はっ。後数日ほどすれば、朝廷からの使者が盛憲の下に来るかもしれないと言われております」
兵からの報告を聞いた孫権は吃驚していた。
側におり共に報告を聞いていた魯粛は難しい顔をしていた。
「殿、これは困った事になりましたな。盛憲は呉郡の太守を務めていた方でした。今は官を辞しておりますが、郡内では人望があります。もし、朝廷に仕えれば、その人望を使い何をするか分かりませんし、呉郡の地理は知り尽くしております。もし、曹操が揚州に攻め込んでくれば道案内役をするかも知れません」
「分かっている。だが、病で職を辞しているのであろう。未だに病は治っておらんのだろう。だから、問題ないであろう」
驚きはしたが、直ぐに病で官を辞している事を思いだして大丈夫だと安堵する孫権。
「そうかも知れませんが。一応、病状がどうなっているか確認の為に人を遣り調べましょう」
「そうだな。任せる」
魯粛の案を聞いて、孫権は頷いて盛憲が今はどうしているのか調べる事にした。
暫くすると、孫権に耳を疑う報告がもたらされた。
「なにっ、病は官を辞して直ぐに治っていただと⁉」
「はい。病が治った後は一族の者達と共に屋敷で暮らしているそうです」
「わたしはあやつが官を辞す時に、病が治った後は復職を認めると言ったのだぞっ。なのに、どうして病が治ったと報告せぬのだ‼」
孫権は怒りながら座っている座席の肘置きを叩いた。
兵は怒鳴られながら、盛憲の事を調べている時に聞いた話を述べた。
「それにつきましては人伝に聞いた話なのですが、何でも孫策は平然と残酷な事をする男。その弟であれば、同じ事をするかもしれん。そんな者に仕える事は出来ないと申していたと聞いております」
「あやつめっ、呉郡内で人望があり名声がある事を良い事に言いおって⁉」
報告を聞いて歯ぎしりする孫権。
「殿。落ち着いて下さい。此処は詳しい話を聞く為、盛憲殿を此処に呼び出すのが良いと思います」
魯粛は直ぐにでも盛憲を呼ぶべきと言うが、孫権は魯粛を睨みつけた。
「馬鹿者‼ この様な噂が流れている時に、呼び出されたと聞けば暗殺されると直ぐに分かるであろう‼」
「そう思うのは、早計では? それに盛憲殿も本当に朝廷に仕えるかどうかも分からないのですから」
魯粛は怒れる孫権を諫めたが、頭に血がのぼっている所為か聞き入れる様子を見せなかった。
「いやっ、病が治ったというのに、いまだにわたしに仕える素振りを見せんのだっ。あやつはもう朝廷に仕えるつもりだっ」
「まだ、そう決めつけるのは」
「では、朝廷に仕えるという噂が流れてるのに、何故あやつは事実無根であるという文の一つも送らんのだ!」
食い気味に述べる孫権の言葉に魯粛は黙る事しか出来なかった。
「最早、あやつは謀反人と同じよ。兵を送れ、あやつと一族の者達の首を取れっ」
「はっ」
孫権は兵に命じた。
魯粛は命令を撤回する様に諫言したが、孫権は聞き入れなかった。
実は孫権は前々から、自分よりも高い名声を持っている盛憲を目の敵にしていた。
これを機に排除する事にしたのだ。
盛憲の屋敷に孫権の兵が雪崩れ込み、盛憲と一族の者達が討たれた。
屋敷に孫権軍の兵が流れ込んで来る中、屋敷から逃げ出す者達が三人いた。
一人は盛憲の息子の盛匡で、残りの二人は戴員と嬀覧と言い、盛憲に仕えていた部下達であった。
盛憲に辟召され仕えていた二人は日頃から、盛憲に恩義を感じており、何としても盛匡だけは助けると心に決めていた。
屋敷を逃げた三人は命からがら兵達の追手を振り切る事が出来た。




