これで良いだろう
曹操と程昱が話に興じている同じ頃。
陳留に居る曹昂は私室で一通の文を読んでいた。
文を読み終える頃には、龐統が部屋に来た。
「お呼びとの事で参りました」
「ああ、良く来てくれた」
椅子に座る曹昂は龐統をジッと見ていた。
何も言わず見て来るので、何かあるのかと思い龐統は身構えていた。
「・・・・・・忠と義はどちらが上だと思う?」
「はっ?」
曹昂の問いかけの意味が分からず龐統は目を丸くしていた。
「あの、どういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味だ。思っている事を言ってくれればいい」
曹昂は真顔でそう告げた。
その顔を見て龐統はとりあえず問いかけの答えを考える事にした。
「・・・・・・忠の方が上だと思います」
「その根拠は?」
「義とは儒教の教えの中にある、仁、義、信、礼、智の五常の一つに入ります。義とは正しい行いを守る事、道義に合っている事、時々の宜しきに従っていく事にございます。忠とは心に偽りがない事を、真心を尽くして務めを果たす事、主君か国に対して臣としての本分を全うする事にございます」
龐統が問いかけに対する、自分なりの答えを述べた。
それを聞いて曹昂は頷いていた。
「儒教では五常よりも忠と孝の方が大事と考えております。ですので、忠の方が上だと思います」
「・・・・・・ふむ。では、お主の友人が忠義よりも孝行を取ったらどう思う?」
「それは難しいですね。忠も孝も同じ位に大事にございますので、忠臣を孝子の門に求むという言葉がありますから」
龐統は難しい顔をしながら答えた。
この忠臣を孝子の門に求むとは、親に孝を尽くす者は、主君にも忠を尽くすから、忠臣を求めるなら孝子から採れば良いという意味だ。
この言葉がある通り、忠と孝は一つであるべきという考えが、この国にはあった。
「そうなるか。では、そろそろ本題に入ろうか」
「はっ」
「近いうちに、単福の母親が陳留に来る事になっている」
その言葉を聞いて龐統は苦い顔をしていた。
「・・・その顔、単福が誰なのか知っている様だな?」
「はっ。単福は偽名で、本当の名は徐福で司馬徽先生の下で学問を学んだ友人にございます」
「そうか。では、その徐福が劉備に仕え軍師として活躍していると知っているか?」
「はい。もしや、徐福の母御が陳留に来るのは、徐福の活躍が関係していると?」
龐統の言葉に曹昂はその通りと頷いた。
「徐福の活躍が父上の耳にも入ってしまった。父上は徐福の性格を知り、御母堂を捕まえて徐福が自分に仕える様にするつもりなのだ」
「・・・・・・それで、殿はどうされるのですか?」
龐統は曹昂がどのように答えるのか気になり訊ねた。
「心配するな。徐福の母親を陳留に連れて来る事は父上も知らない。だから、信頼できる者に預けて面倒を見て貰いたい」
「それは、わたしが面倒を見るという事で宜しいでしょうか?」
「そうだ。だから、この場にはお主しか呼んでいないのだ」
「っ⁉ 畏まりました。拝命いたします」
龐統は頭を下げて一礼した後、頭を上げて曹昂を見た。
「殿、徐福の母御をわたしに預ける理由をお聞きしても良いでしょうか?」
「理由か。強いて言えば、徐福の交友関係が関係している」
「交友関係ですか。・・・・・・殿は、諸葛亮を御存じで?」
「うむ。正確に言えば、お主の師匠からその名を聞いている」
「そうでしたか。ですが、それが徐福の母御をわたしに預ける事と、どう繋がるのです?」
「徐福は義理堅い性格と聞いている。徐福の母親が人質になっていると知れば、徐福は劉備の下を離れてこちらに仕えるだろう。その離れる際に、その義理堅い性格から自分の後任に諸葛亮を推薦するかも知れない」
「徐福の後任が諸葛亮になるとお思いで?」
「わたしはそう思っている。だから、皆には秘密で徐福の母親をお主に預ける」
「承知しました。あの、徐福にはこの事を知らせても宜しいでしょうか?」
「その判断はお主に一任する。伝えるのも伝えないのも好きにしていい」
「承知しました」
龐統が頭を下げると、曹昂は手を振ると、龐統は部屋を後にした。




