お手並み拝見
劉表と孫権が同盟を結んだという話は鄴に居る曹操の下にも届けられた。
「むぅ、まさか。劉表と孫権が同盟を結ぶとは・・・・・・」
そんな事が出来ると思っていなかった曹操は唸っていた。
「しかも、劉備が仲介するとは。あいつ、口は達者だが、其処まで知恵が回る男では無かった筈だが」
劉表と孫権が同盟を結んだ事に加えて、その仲介に劉備がしたという事にも驚いていた。
曹操の中では、劉備は魅力もあって口は達者で武勇に優れているが、智謀には長けていないという印象しかなかった。
「誰か同盟を結ぶ様に献策した者がいるのであろうか?」
曹操の独白に、報告した者が教えた。
「はっ。その通りにございます。最近、劉備の配下になった単福という者が献策したとの事です」
「単福? 聞いた事が無い名だな」
曹操が首を傾げていると、側にいた司馬徽が直ぐに誰なのか分かったのか頷いていた。
「ほぅ、単福ですか。成程、あ奴であれば、この程度の策は献じる事は出来ますな」
「先生。その単福と言うのが誰なのかご存じで?」
曹操は司馬徽が知人なのかと思い訊ねた。
「はい。単福とは世を忍ぶ偽名にございます。本当の名前は徐福。字を元直と言い、わたしの弟子の一人です」
「おおっ、先生の弟子でしたか。しかし、徐福か。はて? 何処かで聞き覚えがあるような気がするな?」
曹操が首を傾げていると、司馬徽は苦笑いしていた。
「それはそうでしょう。徐福は以前故郷の知人から仇討ちを引き受けたのです。それで役人に追われ一度は捕まったのですが、知人達が手を貸して牢から脱獄し、仇討ちで討たれた者の親類から逃れる為名を単福と改めて各地を転々とし、わたしの下に来て学問に打ち込んだのです」
「ああ、そうか。脱獄したから、わたしの耳にも入ったのか。他にはどんな事を知っておられる?」
「そうですな。徐福の父は早くに亡くなった為、母御は徐福と弟の徐康の二人を抱えながら働き育てたから、徐福は故郷を離れるまで親孝行者と評判であったそうです」
「親孝行者か。徐康という者はどうしているのだ?」
「それが一昨年に病に罹り亡くなったそうです」
「そうか。しかし、その様な者が居ると知っていれば、召し抱えようとしたものを」
「申し訳ありません。あやつは仇討ちで討たれた者の親類から逃れる為、各地を転々としておりまして、偶にわたしの下に来る事はあるのですが、何処に居るのか分かりませんので」
「いや、先生の所為では無い。ともかく、単福がどの様な人物なのか分かっただけでも十分だ」
司馬徽が頭を下げて来るので、曹操は手を振って気にしていないと暗に述べた。
そして、報告を終えると曹操は私室で一枚の文を読んでいた。
其処に程昱が訪ねて来た。
「丞相。徐福を丞相の下に迎える策がございます」
「なにっ、どの様な策だ?」
「徐福は親孝行者と聞いております。であれば、母御をこちらに呼び、その母御から徐福をこちらに来る様に呼べば、徐福はこちらに来ると思います」
「成程な・・・・・・良し、直ぐに徐福の母親を探して、鄴に連れて来るのだ」
「はっ」
曹操の命に従い、程昱は直ぐに徐福の母親を探した。
だが、徐福の故郷である豫州潁川郡長社県をどれだけ探しても、見つける事が出来なかった。
どれだけ探しても見つける事が出来なかった為、程昱はありのままに曹操に報告した。
「そうか。流石は徐福。自分が功を立てた事で、母親がどうなる事も考えており、事前に何処かに姿を隠すように伝えていたのかも知れんな」
「どうされますか?」
「探していないのであれば、これ以上探しても無駄よ。探さないでよい」
「承知しました」
「それと」
曹操は一枚の文を程昱に渡した。
程昱は読めという意味だと思い、文を広げた。
「若君からですか。今、兵を出すのは同盟関係を強固にするだけの愚策。我に同盟を破綻させる策がありですか。流石は若君ですな」
「うむ。お主はどう考える?」
「今、兵を出すという事は愚策なのは同感です。兵を出さずに同盟を破綻させる事が出来るのであれば、そうするのが良いでしょう」
「そうだな。では、そうするとしよう」
曹操が曹昂に任せると述べると聞いた後、程昱は部屋に曹操と二人しかいない為か、思っている事を零した。
「若君はご立派ですな。わたしも舅として鼻が高い思いです」
「そうであろう。ああ、そう言えば、お主の娘もようやく懐妊したそうだな」
「はい。来年には孫が出来ると思い嬉しい限りです」
「ははは、そうであろうな」
二人は暫く雑談に興じていた。




