捨て石にしても惜しくはない
荀彧は何時まで経っても、劉脩が許昌に届けられる気配がない為、その旨を書いた文を曹操の下に届けた。
その文が手元に届き一読するなり、曹操は相手がどういう思惑なのか試す為に兵を送る事にした。
鄴に居る家臣達を評議の間に集めて、劉表を威圧する為に兵を送る事と告げる。
「兵を送ればそのまま戦になるかもしれん。そうなった場合はその者は先陣を務める事になる。誰かおらんか?」
曹操が家臣達を見回していると、二人程手をあげた。
「丞相。その役目、我らにお任せを」
「必ずや期待に応えてごらんに入れます」
家臣達の列から前に出て来たのは呂曠と呂翔の二人であった。
この二人が手を挙げるのを見て、家臣達は軽蔑していた。
呂曠達は袁紹の配下であったのだが、袁家での内紛の際、調略に掛かったとはいえ袁譚、袁尚、曹操と三度も主を変えているからだ。
曹操に降った際はその功績で列侯に封じられはしたが、その後は活躍らしい活躍をしていなかった。
ここらで功績を立てねば、これからの自分達の地位や出世に響くと思い手を挙げたようであった。
「お主らか。よし、兵を五千与える。荊州に向かい、劉表の動きを監視しろ」
「承知しました。あっ、それで我らは何処に駐屯すれば良いでしょうか?」
呂曠が命令を受諾した後、何処に駐屯すれば良いのか訊ねで来ると、曹操も考えた。
(そうだな。できれば、荊州に何時でも攻撃を仕掛けれる土地に居るべきだな。さて、何処が良いか・・・)
曹操が考えながら部屋の外に控えている衛兵達に地図を持って来る様に命じた。
衛兵達は荊州が描かれた地図を持ってきて、家臣達が見える所に置いた。
詳しい県名なども書かれている中、曹操は何処に駐屯するか、目で探していた。
「・・・・・・ふむ。此処だな。お主らは穣県に駐屯せよ」
皆、曹操があげた県が何処なのか分からなかったが、曹操は程昱を見て顎でしゃくった。
程昱は一礼すると、文官から棒を貰い地図の傍までいき、棒の先で穣県を示した。
「此処でございますな。此処は劉備が駐屯している新野からは目と鼻の先にある県にございます。此処に駐屯すれば、劉表は我らと戦うつもりか、慌てて人質を送るつもりなのか分かりますな」
「うむ。そういう訳だ。行くが良い」
「「はっ」」
駐屯する県が分かった呂曠達は頭を下げて、出陣の準備を取り掛かりに向かった。
呂曠達が離れて行くのを見送ると郭嘉が曹操に訊ねた。
「丞相。あの二人では劉備の相手は荷が重すぎます。別の者に任せた方が良いと思います」
「いや、あいつらで良い」
曹操は変えるつもりはないと断言した。
「まだ戦になるとも限らん。それに、仮に戦になった所で、劉備の配下には張飛しかおらん。であれば、あの二人だけで十分よ。劉備を討ち取れば良し。討ち取れなかった時は、その時に誰か行かせればいいだけの事だ。それに」
「それに?」
「・・・・・・いや、何でもない。それよりも、早く銅雀台の完成を急がせよ」
「承知致しました」
曹操が何か言い掛けた事が気になりつつもあるが、今は命令に従う事にした郭嘉。
家臣達が部屋を後にして、曹操も自分の部屋に戻り席に座った。
何もしないで、天井を見ていた。
(それに、呂曠達の役目は、袁家の勢力を取り込む為に高い地位に就けただけだからな。その地位に就けた後は見合った活躍もしていないしな、もう役目は終わったのだ。捨て石になってもらおうか)
呂曠達が劉備を討ち取る事があれば、その時は喜ぶだけ。
呂曠達が敗れるのであれば、その時は別の者を送るだけの事と考える曹操。
(まぁ、戦になるとも限らんがな。仮に戦となれば、劉表はどう出るのであろうな)
曹操からしたら、呂曠達が勝つか負けるよりも、そちらの方がどうなるのか気になっていた。




