文を届けるだけなのに
劉表は劉脩を送る事を決めると、準備を行っている最中、宋忠を許昌に送った。
宋忠が出発する直前に、蔡瑁が来た。
「何か御用で?」
そう訊ねると、蔡瑁は無言で懐から封に入った文を出した。
「これを丞相に届けろ。何処に居ても確実に渡すのだぞ。出来なければ、どうなるか分かっているな?」
「は、はっ。承知しましたっ」
ねめつけながら言う蔡瑁。
その目力に圧された宋忠は慄きながら首を振った。
言うべき事を言い終えると蔡瑁は離れて行くので、宋忠は安堵の息を漏らした。
十数日後。
宋忠は許昌に辿り着いた。
自分が暮らしている襄陽に負けない位の人の多さと洗練された建物の美しさに最初見惚れていた。
だが、直ぐに自分の使命を思い出して気を引き締めた。
気持を新たにして、宋忠は外廷へと向かった。
先触れを出していなかった為、謁見するのに時間は掛ったが、何とか荀彧に会う事が出来た。
会うなり、今後祭祀は行わない事と、劉表が送るのは誰なのか語った。
話を聞き終えた荀彧は「では、後日丞相に報告いたす」と言いその場を離れようとした。
「あの、丞相はどちらにおいでに?」
「丞相が何処におられるのか、何故聞きたいのだ?」
「はっ。実は丞相のご友人から文を届けて欲しいと頼まれましたので」
宋忠の口から友人という言葉を聞いて、その文を届ける様に命じたのは恐らく蔡瑁だろうと予想する荀彧。
(雍州で曹昂様が反乱鎮圧したという報告を訊いて激怒しながら出立されたからな。恐らく陳留に向かったのであろうな)
まだ陳留にいるのか、それとも鄴に帰還したのかは流石に分からなかった。
「・・・・・・丞相であれば銅雀台の建設を指揮する為、鄴にお帰りになられたぞ」
荀彧の頭の中では曹昂の説教を終えて、もう鄴に帰還したのだろうと予想して述べた。
「鄴ですな。承知しました」
一礼した宋忠はその場を後にすると、鄴へと向かった。
それから十数日ほどすると、鄴に到達した。
宋忠は疲れる身体に鞭打って、鄴の政庁へ向かい曹操の謁見を求めた。
だが、留守居役をしている夏候惇が出迎えた。
「丞相はまだ陳留からお戻りになっておられんぞ」
「なっ⁉ そうでしたか・・・」
聞いていた話と違うと思いつつも宋忠は一礼し陳留へと向かった。
今度は先触れを出しているかどうかの確認をした。
「なに? 劉表が送って来た使者が来た?」
「はい。何故か北門から入って来たという事でしたが」
先触れが来て曹操に謁見を求めて来た報告をする曹昂。
北門から来た理由は分からなかったが、とりあえず来た事を報告するのであった。
「ふん。どうせ、祭祀を止める事と誰を送るか決まっただけだろう。わざわざ、わたしの下にまで来る事はなかろうに」
陳留ではする事が無いので、一室で好きに過ごす曹操。
報告を受けている今も、好物のカラメル無しプリンを食べていた。
既に四つ平らげ、五つ目に手を出していた。
「さて、何の目的で来たのであろうな?」
「流石に分かりません」
「であろうな。とりあえず、出迎えの準備をするとしよう」
「はい」
曹操がそう命じるので、曹昂は応じるのであった。




