家臣達が争う中
荊州南郡襄陽。
城内にある大広間には劉表の家臣達が勢揃いしていた。
事前に、曹操が出した条件の一つである劉表の親族から誰かを許昌に送る者を決めたので告げると聞いていた。
それを聞いて蔡瑁を含めた劉琮派の家臣達は劉琦を送る事に決めたのだろうと思っていた。
反対に少数ではあるが劉琦派の家臣達も劉琮を送るのだろうと頭から思い込んでいた。
そんな両派閥の思惑がお互い分かっているのか、無言で睨み合っていた。
空気は重くなっていくので、どちらの派閥に属さない中立の者達は居心地悪そうな顔をしながら居た。
このままでは、劉表が来る前に口論が始まりそうであった。
其処に劉表が部屋に入って来た。
劉表の姿を見るなり、家臣達は頭を下げていく中、劉表は進み続けていき上座に座った。
「面をあげよ」
『はっ』
劉表が声を掛けると、家臣達は頭を上げた。
「・・・皆居るな。では、これより曹操が出した条件で送る者を皆に告げる」
劉表が誰を送るのだろうと、皆一言一句聞き逃さないとばかりに傾聴していた。
「考えに考えた結果、許昌に送るのは・・・・・・三男の劉脩に決めた」
劉表がそう宣言するのを聞いて、家臣達は驚いていた。
末っ子で文才があるので劉表が可愛がっている事を知っている為、皆送らないのだろうなと思い込んでいた。
その為、劉琦か劉琮のどちらかを送るという事になっていたのだ。
「殿。良いのですか? 劉脩様はまだ幼いのですが」
「良い。我が子である以上、この様な事になるのは分かりきっていた事だ」
劉表の強い決意を込めた声を聞いて、皆反対しなかった。
尤も反対すれば、また劉琦か劉琮のどちらかを送るという事で揉める事が分かっている為か、反対しなかったというのが正しいと言えた。
こうして、劉脩を送る事を決めたので、評議は終わり解散になり劉表が部屋に戻ると、伊籍が訪ねて来た。
「殿。お願いしたき事がございます」
「何だ?」
「胸に考えている事を教えて頂きたいのです」
「どういう意味じゃ?」
「そろそろ、劉琦様か劉琮様のどちらを跡継ぎにするか決めるべきです」
「むっ」
伊籍の一言を聞いて、不快そうに顔を歪める劉表。
「殿がもし劉琮様を跡継ぎにしたいと思いなのでしたら、そうおっしゃってくだされ。そうであれば、劉琮様が後を継ぐ事に反対する者達をわたしが説得いたします」
「なに? お主は劉琦を跡継ぎするべきだと申していた筈であろう?」
「確かに、わたしは申しておりました。そして、今もそう思っております。ですが、家督争いで揉めて袁紹の子供達の様な事になるよりも、どちらかを跡継ぎと決めた方が良いでしょう」
「確かにそうであるな」
「ですので、殿はどうお考えなのです?」
伊籍の問いかけに劉表は溜め息を吐いた。
「うむ。実は決めかねておるのだ」
「はっ?」
「古来からの習いであれば長男の劉琦だが、あやつは勢力基盤を持っていない。その点、劉琮は蔡瑁を筆頭に蔡家の勢力を基盤に持っている。だが、あやつは軟弱な所があるからな。自分だけで考えを決める事は出来んだろうな。その点、劉琦は決断力がある。だから、どちらにするべきか悩んでおるのだ」
劉表の考えを聞いた伊籍は内心で、劉表の事を呆れていた。
(この様な状況になっても決められぬとは。これはもう駄目かも知れぬ)
伊籍はもう劉表に対する忠誠を失っていった。
もうこれ以上、此処に居ては無駄だと判断した伊籍は話を切り上げて部屋を出て行った。
劉表を主に戴けなくなった伊籍は一刻も早く劉琦を主にしようと考えた。
(劉琦様の勢力は弱い。誰か補佐する方が欲しいな。蔡瑁に対抗できる程の力を持った人物か・・・・・・一人しかおらんな)
そう決めた伊籍は屋敷に戻ると、文を認めてある人物へと送った。
送られた文が届けられた先は新野県であった。
城内の一室にいる劉備に文が届けられた。
「伊籍殿からか。何と書かれているのやら」
劉備は文を広げると、時候の挨拶文の後に劉表が劉脩を許昌に送る事を決めたという事が書かれていた。
無論、劉脩を許昌に送る事は機密事項なので、食客に教えては駄目な事であった。
劉備も伊籍がどうして機密文書を送って来た意味が分からず、最初首を傾げていた。
「・・・・・・確か伊籍殿は劉琦様を跡継ぎに推していたな。これは、もしや劉琦様の後を継がせる為にも誼を通じたいという事か?」
伊籍の文を読んで、何となくだがそう察した劉備。
面倒な事に関わってしまったと思いつつ、この情報を手に入れた事をどうするべきか困っていた。




