時だけが過ぎていく
曹操軍が撤退するのを見届けると、孫権はすぐに被害を調べさせた。
暫くすると、軍議が開かれその場で報告がされた。
「死傷者は合わせて三千以上となります。また、梅成様と宋謙様のお二人が戦死なされました・・・・・・」
兵が被害を報告するのを聞いて、その場に居た者達は沈痛な顔をしていた。
兵の損失が多いのもあるが、武将が二人も失った事に衝撃を受けているようであった。
特に孫権が一番が悲嘆していた。
「宋謙が。あれだけ優れた武勇を持っていた者が・・・・・・」
宋謙は今は亡き孫策が揚州で勢力拡大している時に、孫家に仕えてくれた部将で孫策亡き後も忠実に仕えてくれた。
その武勇と忠誠心を見込んで自分の護衛の一人にしていた。
「戦である以上、将が亡くなるのは仕方がありません。我らが出来る事は、彼らの死を無駄にしない事です」
「・・・・・・そうだな。兵の士気はどうだ?」
魯粛が此処が踏ん張り所だというと、孫権もその通りだと思い頷いて兵の様子を尋ねた。
尋ねられた魯粛は渋い顔をしていると、代わりとばかりに潘璋が答えた。
「申し上げます。敵の攻撃により、士気が低下しております」
「そうか・・・・・・・」
潘璋が報告するのを聞いて、孫権もだろうなと思い頷いていた。
「敵は合肥に籠っている様だが、これからどうするべきであろうか?」
孫権の問いに、呂蒙が答えた。
「兵を多く失いましたが、合肥を包囲するには十分な数はあります。此処は後方に下がる前に、合肥を包囲して時期を見て後方に下がり態勢を整えるべきです」
「何故、後方に下がる為に、合肥を包囲するのだ?」
「我らがこのまま後退すれば、敵はその背を突いて攻撃してくるでしょう。ですので、まだ戦う意思を見せるのです」
「成程な。だが、それには一つ問題がある。包囲しても、我らが後退すれば敵は追撃してくるのではないか?」
孫権の指摘に呂蒙もその通りと頷いた。
「ですので、兵の一部を殿として残すのです。殿が十分に後退した後、殿も後退させましょう」
呂蒙の献言を聞いて、魯粛を含めた他の者達も悪くないと思い頷いた。
「では、そうするとしましょう。張遼が此度の奇襲が上手くいった事で調子に乗り、また打って出てくるかもしれん。その時は応戦せず、守りを固める事でいいでしょうか?」
魯粛が付け加えるように述べるのを聞いて、孫権達は頷いた。
その後、孫権軍が合肥を包囲するのだが、無理に攻める事はせず包囲だけするのであった。
それを見て、張遼は何度か城から打って出たが、敵が応戦しないのを見て直ぐに取って返していくのであった。
同じ頃。豫洲潁川郡許昌。
曹操率いる軍勢が許昌の城外に布陣していた。
曹操も十万の兵を率いているが、各地からも兵が来る事になっているので、それらの軍勢が来るまでの間、待機していた。
曹操の方も、久しぶりに朝廷に顔を出し朝廷に仕えている者達と挨拶していた。
殆どの者達との挨拶を終えると、ある人物を自分の屋敷に呼んだ。
「おお、よく来てくれた」
「丞相のお呼びですので」
曹操が自分が呼び出した者と親しげに声を掛けていた。
声を掛けられた者は深く頭を下げるのであった。
「そう固くなるな。お主と儂の仲ではないか」
「ですね。お仕えしてから、二十年近くとなりますな」
男は懐かしそうに、顔を緩ませていた。
「そうだな。思えば長い道のりであったわ・・・・・・」
曹操も昔に思いをはせだした。
二人は暫し懐古していると、男が話しかけてきた。
「して、今日わたしを呼んだのは、何様でしょうか?」
「まぁ、そう急くな。荀彧よ」
曹操は目の前にいる男こと荀彧に手を振る。
「お主は許昌。儂は鄴に普段いるのだ。此処暫く話すという事は無かったのだ。久しぶりに話そうではないか」
曹操はにこやかな笑みでそう言うが、荀彧は何を考えているのか気になるのであった。
その後、曹操は茶を啜るだけで何も話さないでのあった。




