無理やり移動させるから
曹沖の案を聞いた曹操は船を直ぐに用意させる様に命じた。
池に船を浮かべるだけとは言え、象を乗せるとなると頑丈でそれなりに大きい物でなければなかった。
その為、用意するのに時が掛かるのであった。
数日後。
鄴の城内に数ある池の一つに、船を浮かべる事が出来た。
船は大型で象を乗せても、重みで沈没する事は無さそうであった。
「良し。象を運び出すぞ」
「はっ」
池に船を浮かぶのを見て、兵達は象が居る檻へと向かった。
兵達が檻に着くと、象は落ち着かなそうにしていた。
檻を開けても、出てくる様子を見せなかった。
「おい。早く出てこいっ」
兵が出てこない象を見て声を荒げるが、象は出てくる様子を見せなかった。
「どうする?」
「仕方がない。誰か、鞭を持ってこいっ」
兵達は話し合って、強引に檻から出す事にした。
兵の一人が鞭を持って来ると、振るって地面を叩いた。
パシンっという乾いた音が響いたが、象は出てくる様子を見せなかった。
兵達からしたら、象は初めて見る動物だが動物なので鞭を打てば大人しく従うだろうと思っていた。
何度か、鞭で地面を叩いたが動く気配を見せないので、兵は苛立っていた。
「ええいっ、面倒だ。早く出てこい!」
鞭を持っている兵が怒りながら象を叩きだした。
象は鞭を打たれた事で、驚いたのか咆哮した。
「パオーンッッッ⁉」
「お、出て来た・・・・おわああっ⁉」
「うわあああっ⁉」
咆哮した象が檻から全速力で駆け出していた。
進行状に居る兵達は慌てて、動いて象の進路から離れた。
駆け出した象はそのまま止まらず、壁を破壊して進み続けてしまった。
「・・・・・・お、おい。どうする?」
「とりあえず、上の者に報告だっ」
兵達は少しだけ呆けていたが、直ぐに自分の上官に報告するべきだと思い駆け出していった。
象が暴れている頃。
曹沖が散歩をしていた。
曹操の息子なので、一人という訳ではなく護衛の兵も後ろに付き従っていた。
それだけではなく、曹昂の愛犬である哮天も傍にいた。
曹沖が曹昂に無理を言って借りたのだ。
「~~~」
犬を連れて散歩などした事がない曹沖は楽しそうに笑いながら、哮天を連れて行った。
哮天も大人しく曹沖に従っていた。
楽しそうに散歩をしていると、前方が騒がしい声が聞こえて来た。
「うん? 何だろう?」
曹沖は首を傾げ、護衛達も何事かと不審がっていた。
そんな時に曹沖の傍にいた哮天が前に出て来た。
まるで、曹沖を守る様に。
程なく、前方で騒がしい理由が分かった。
前方に砂煙を上げながら駆け出している大きな動物が居た。
駆けながら咆哮し、鼻を振るって進路上にある物を壊していった。
その動物を見て、進路上に居る人々が悲鳴を上げながら逃げていたのだ。
「あれは、象?」
檻の中に居る象が何故、此処に居るのか分からず曹沖は首を傾げていた。
だが、そうしている間も象は駆け続けており、進路上に曹沖達がおりこのままでは踏み潰されるかもしれなかった。
「曹沖様っ、お下がりをっ」
「曹沖様を守れっ」
護衛達も慌てて、曹沖の前に出て剣を抜いた。
だが、自分達よりも大きい象を見て腰が引いていた。
そんな中、哮天は護衛達の前に出た。
「ウオオオオオオオオンンンンッッッ⁉⁉」
哮天が空を見上げながら咆哮した。
大気を震わせる程の咆哮を聞いて、曹沖達は思わず体を震わせた。
咆哮を終えた哮天は駆け出していった。
「ああ、哮天っ」
駆け出す哮天を見て、曹沖は制止しようを声をあげるが、哮天は止まる事はなかった。
やがて、哮天が象に近づくと振り回している鼻に齧りついた。
象の皮膚は固いはずなのだが、哮天は容易に鼻の皮膚を食いちぎってしまった。
「パオオオンンンンッッッ!!!!」
鼻の一部を食いちぎられた象は悲鳴をあげた。
哮天は食いちぎった皮膚を銜えながら、地面に着地した。同時に銜えていた皮膚を地面に捨てた。
鼻の一部を食いちぎられた痛みなのか、自分の皮膚を食いちぎった哮天に怯えたのか分からないが象は来た道を引き返していった。
象が離れていくのを見て、曹沖達は最初茫然としていたが、直ぐに気を取り戻した。
「哮天、凄いなっ」
曹沖は自分を助けた哮天に感謝しつつ、その毛を撫でた。
撫でられている哮天は嬉しそうに尻尾を震わせるのであった。




