食べ物の恨みは怖いからな
久しぶりに家族に会えたので、曹昂は一緒に食事を取る事にした。
広間には曹昂の他に、曹丕、曹彰、曹植、曹熊、曹彪、曹沖の他に丁薔と卞蓮も居た。
他の者達は用事があったり、習い事がある為参加できなかった。
「久しぶりに曹憲達とも会えると思ったのですが・・・」
曹昂が残念そうに呟くと、曹彰は何かを頬張りながら喋っていた。
「そうらよな。こんらに、うまいものをたべられないなんて」
「彰。食べるか喋るかどちらかにしろ」
栗鼠の様に頬にパンパンに詰め込んでいる曹彰に曹丕が苦言を呈していた。
「でも、兄上。これは流石に頬張りたくなる程に、食べたくなる味ですね」
曹植は上品そうに両手で持ちながら、何かを食べていた。
「甘い、それでふんわりと柔らかい。其処にこの口の中に入れただけで、融けるこの白い物と混ざる事で食べやすいですね」
曹熊も三人と同じ物を食べて味を堪能していた。
「おいしいです~」
「美味いな」
曹沖と曹彪の二人も笑顔で、手に持っている物を食べていた。
「思っていたよりもくどくないのね。これだけ生くりぃむが入っていたら、くどそうなのに」
「意外に食べやすいわね」
卞蓮と丁薔も手に持っている物を見つつ、その味を存分に味わっていた。
曹昂達が手に持っているのは淡い黄色い丸い物であった。
それが横半分に切られており、中には白い物が大量に詰め込まれていた。
「子脩。これは何と言う菓子なのですか?」
「これは羅馬生乳包と言いまして、大秦で食べられる甘い物です」
曹昂が今食べている者の名前を教えると、皆関心ぶかそうに見ていた。
このマリトッツオは古代ローマにはあったと言われている。
だが、この時代のマリトッツオはホイップした生クリームを挟むのではなく、蜂蜜とドライフルーツなどを練り込んだパンであった。
その為、軍の糧食に使われる事もあった。
だが、ある時代で生クリームを挟んだスタイルが出来て定着したと言われている。
曹昂も前世の記憶の中では、生クリームを挟んだマリトッツオしかないのでそう作られたのであった。
曹昂達はマリトッツオを食べていると、使用人が部屋に入って来た。
「失礼いたします。丞相が御帰りになられました」
曹操が帰って来たと聞いて、曹昂達は慌てて立ち上がった。
程なく、曹操が部屋に入って来た。
「旦那様。お帰りなさいませ」
「「「お帰りなさいませ」」」
丁薔が代表して述べると、他の者達も続く様に頭を下げた。
「うむ。皆で集まって何かしていたようだな。・・・・・・むっ?」
曹操が膳の皿に置かれている物が目に入った。
「それは何だ?」
曹操が膳の皿に置かれているマリトッツオを指差すと、曹沖が答えた。
「羅馬生乳包という菓子です。父上」
「まりとっお? 良く分からんが菓子か。子脩、儂の分はあるのか?」
見た事が無い菓子なので、十中八九曹昂が用意した物だと分かった曹操が訊ねた。
すると、曹昂は勿論とばかりに頷いた。
「ええ、ちゃんと用意しておりますよ」
「ははは、そうか。儂を羊斟にしなかったか」
曹操が笑いながら言うと、曹昂は笑みを浮かべるのであった。
曹昂が手を掲げて、使用人に持って来るように合図を送っていると、曹彰が尋ねてきた。
「兄上。ようしんって何?」
「うん。ああ、昔の人の名前だよ。春秋時代の宋という国の政治家で華元の御者だったのだが、ある戦で華元は全軍に羊の肉を振舞ったが御者の羊斟には羊の肉を与えなかった。このことを恨んだ羊斟は、翌日の戦いで華元の乗る兵車を敵国の指揮官のもとへと運んで、その戦を負けさせたんだよ」
「・・・・・・つまり、父上は皆だけ食べているのに自分の分だけなかったら、恨むぞ?と」
「間違っていないけど、ちょっと違うかな」
曹彰の解釈を聞いた曹昂はあながち間違いではないなと思っていた。
その後、曹操にマリトッツオが届き賞味した。
「甘味もありふんわりと柔らかいパオンの中に、これでもかと思える程に挟まれている生くりぃむ。生くりぃむの滑らかさと口の中で融ける事で、味に深みをだしている。そこにパオンと合わさる事で、素晴らしい調和を生み出しているな」
一口食べるなり、曹操はマリトッツオの味を批評していた。
その批評を聞いて、相変わらずグルメだなと曹昂は思うのであった。
翌日。
曹操の元に孫権からの使者が来た。




