物珍しいからか
部屋を後にした曹昂は久しぶりに弟達に会おうと思い、曹操の屋敷に向かった。
護衛の趙雲と孫礼に加えて愛犬の哮天を連れて屋敷に入り、弟達が居る部屋に向かおうとしたが。
「おおっ、大きいな~」
廊下を歩いていると、前から弟の曹彰が居た。
曹彰の後ろには、曹植と曹丕の二人もいた。
曹彰は目を輝かせながら、哮天に近づいていく。
曹丕も犬で此処まで大きいのは珍しいからか、距離を取っているが観察していた。
曹植に至っては、曹丕の後ろに隠れビクビクしていた。
「三人とも元気そうだな」
「兄上もお変わりない様で何よりです」
曹昂が挨拶すると、曹丕も挨拶を返していた。
曹植は頭だけ出して一礼したが、曹彰は哮天を興味深そうに見ていた。
「兄上っ、これが兄上が飼っている犬なのか?」
「ああ、そうだよ。哮天と言うんだよ」
「ふ~ん。父上が飼っているのに比べると、大きいな」
曹彰は曹操が飼っている愛犬である王印と哮天との大きさが違うので、こんなに違うのかと思っていた。
そのまま哮天をジロジロと見ている曹彰に曹昂は微笑んでいると、曹丕達の後ろから来る者を見て目を見開かせていた。
曹彰に声を掛けようとしたのだが、その者はそれより先に曹彰に近づき頭に拳骨を落とした。
「いでっ⁉」
「彰。兄上がわざわざ訪ねてきたのだから、ちゃんと挨拶をしなさい!」
そう怒鳴るのは曹丕達の母親である卞蓮であった。
「いでで、す、すみません。母上。兄上」
頭を抑え、涙を流しながら謝る曹彰を見て、卞蓮は溜息を吐いた。
「ごめんなさいね。どうも、この子は礼儀に疎い所があるのよね」
「ははは、まだ子供なのですから、良いではないですか」
卞蓮が申し訳なさそうに言うが、曹昂は笑って気にしていなかった。
話していると、歩く音が聞こえて来た。
「兄上っ、お久しぶりですっ」
「あにうえ~」
廊下を歩いているのは弟の曹彪と曹沖であった。
二人は久しぶりに曹昂に会えるのが嬉しいのか近づいてきた。
そして、純粋な笑顔を向けてくるのであった。
(むっ、此処まで純粋な笑顔を見ると、眩しいと感じてしまう)
それだけ自分は汚れているのかも知れないなと思いつつ、曹昂は目を細めてしまった。
「うわぁ、大きい犬ですねっ」
「大きい~」
曹彪達は哮天を見るなり、あまりに大きい姿をしているので驚きつつ近づいてジロジロと見回していた。
見られている哮天は特に気にする様子を見せなかった。
その後、暫し雑談に興じた後、曹昂は丁薔の元に向かった。
「義母上。曹子脩、参りました」
「よく来ましたね。それで、今日は何をする為に来たのですか?」
曹昂が挨拶すると、丁薔は何か不審そうに見て来た。
まるで、自分の手で余る何かあったので、手助け欲しいので来たのではと言っている様であった。
「違います。ただの挨拶に来たのです」
これも日頃の行い所為かなと思いつつ、曹昂は困った様に笑っていた。
「そうですか。ところで、子供の誰かを連れてきましたか?」
「いえ、今日は父上の呼び出しでしたので、誰も連れてきておりません」
「そうですか。はぁ」
妻も子も誰も連れて来ていないと聞いて、丁薔は溜息を吐いた。
その反応を見て、嫁と孫に会いたかったのだなと思った曹昂は述べた。
「今度はそうですね。全員とは言いませんが、何人か連れてきますね」
「そうしなさい。ところで、新しい妾を作ると聞きましたが、本当ですか?」
丁薔がそう尋ねてくるのを聞いて、曹昂は目を剥いた。
誰にも話していないのにと思っていると、丁薔は笑った。
「如何に私が鄴に居るとはいえ、息子が新しい妾を娶るという話ぐらいは、この耳に届きます」
「そうでしたか。正直な話、娶っていいものか迷っております」
相手が十五歳も下で、史実では司馬懿の妻になる存在なので、娶っていいものか悩んでいる曹昂。
そんな気持ちを察したのか、丁薔は口を開いた。
「何歳下であろうと、子供が作れる年齢なのでしょう。であれば、何人でも娶っても良いでしょう」
「そうですか? 流石に年下すぎるのもどうかと思うのですが」
「貴方という子は、変な所で奥手ですね。旦那様の子とは思えません」
「父上の女好きを見て、ああなっては駄目と思ったから、こうなったのでは?」
曹昂がそう言うと、丁薔もそれもそうかと納得するのであった。
「まぁ、とりあえず娶るのであれば早くしなさい。その気がないのであれば、別の者を紹介するべきですよ」
「その通りですね」
帰ったら決めるかと思いつつ、曹昂は頷くのであった。




