謀られた
建安十一年二月某日。
政務を一段落させた曹昂は曹操の呼び出しに応じる事にした。
護衛として趙雲と孫礼に五百騎を連れて行く事にした。
それに加え、愛犬の哮天も付いてきた。
本当は陳留に置くつもりであったのだが、頭突きしてくるので仕方がないので連れて行く事にした。
最近商人の耿文がくれた里飛沙の跨った曹昂は鄴へと向かった。
陳留を出立した曹昂達は北上を続けた。
特に何処かに寄り道するという事はせず、真っすぐ鄴へと向かった。
十数日ほど掛かったが、曹昂達は鄴に辿り着いた。
前もって先触れを出していたので、城門に着くと程昱が家臣達と共に列をなして待っていてくれた。
曹昂が馬から降りて、程昱の近くまで来て一礼する。
「曹陳留侯。お久しぶりにございます」
「程安国亭侯もお変わりない様子で何よりです」
にこやかに挨拶を交わす二人。
だが、程昱の顔がどこかぎこちない様に見えた。
「父の呼び出しで参りましたが、何用で参ったのか知っておりますか?」
「っ⁉ わ、わたしの口から、な、何とも・・・も、申し上げる事ができません・・・・・・」
曹昂の問いに程昱は身体を振るわせた後、しどろもどろに言うのであった。
(ふむ。この反応を見るに、それだけ重要な事で呼ばれたという事か)
時期的に考えて、そろそろ献帝に譲位でも進言してもおかしくはないなと曹昂は思っていた。
呼び出したのは、その当たりの要件だろうなと思っている曹昂に程昱は何も言う事が出来なかった。
その後、丞相府ではなく曹操の屋敷に案内された。
何故、丞相府ではないのだろうと思いつつ、曹昂はその案内に従い屋敷に入った。
連れて来た兵達に関しては、他の者に任せて護衛として趙雲と孫礼と哮天を伴い屋敷の廊下を歩いていくと、ある部屋の前に着いた。
「では、わたしはこれで」
程昱はそう言って一礼しその場を後にした。
程昱を見送った曹昂は部屋の前にいる典韋を見た。
典韋は何か言いたそうな顔をしていた。
「典将軍。どうかしたか?」
「あっ、いえ。じ、丞相は中でお待ちですので、お入りを」
典韋が手で入る様に促してくれたので、曹昂は趙雲達を部屋の前に置いて一人入って行った。
「父上。お呼びとの事で、参りまっ⁉」
部屋に入った曹昂は一礼し述べている最中、上座に座る曹操の傍に丁薔が居るのを見て、目を丸くしていた。
室内には曹洪もおり、目を向けたのだが視線を合わせようとしなかった。
(なんだ? 何が起こったんだ?)
曹昂は訳が分からないので、曹操を見たが曹操は目を反らすのであった。
何が起こっているんだと思っていると、丁薔が口を開いた。
「子脩。遠い所良く来ましたね」
丁薔の声を聞いた曹昂は背筋が震えた。
(あれ? 何か怒っているぞ? 何故?)
声を聞いて直ぐに怒っていると分かった曹昂は何かしたのか分からず、内心首を傾げていた。
困惑している曹昂に丁薔が話しかけた。
「貴方も妻を持ち、子を持ち家庭という者を持った身。少しは落ち着いてきたと母は思っていました」
其処まで言った丁薔が睨んで来た。
「まさか、貴方が女性を辱める事に喜びを覚えるような者になったとは。育て方を間違えたのかしら?」
「? 義母上。言葉の意味が分かりま」
曹昂が話している最中だが、丁薔は叫んだ。
「脱衣舞というのを、子廉殿に教えたそうですねっ」
丁薔の言葉を聞いて、曹操達が目を合わせない理由が分かった曹昂は同時に、この場に呼ばれた理由も分かった。
思わず、曹操に目を向けるのであった。
(父上、謀りましたねっ)
(儂は悪くないぞ。悪いのは、口を滑らせた妙才だ。恨むのなら、妙才を恨め)
目で会話する曹親子。
曹昂は曹操に何か言おうと口を開いたが、その前に丁薔が話し出した。
「妻と妾を持ち、子もいると言うのに、女性に服を脱がせて踊らせるという破廉恥な事で愉悦を感じるなど、恥を知りなさい!」
「はっ、申し訳ありません!」
怒る丁薔に曹昂は低頭平身するのであった。
長年の経験で、下手に反論しても説教の時間が掛るだけと分かっている曹昂は、ひたすら謝り続ける事にした。
「いいですか⁉ 貴方は曹家の長子として、旦那様の後を継ぐという立場である以上、君子としての振る舞うべきです。だというのに、女性を辱めるという事をするなど、君子の振る舞いではないでしょう!」
「は、はい。おっしゃる通りで」
「そう分かっているのであれば、何故人に教えたのです! 何かで縁の知ったとしても、その様な不道徳な事を人に教える必要はないでしょう!」
「は、はい。わたしが浅はかでしたっ」
曹昂は謝り続けたが、丁薔の説教は続いた。




